第2話 妹の麗香

今回から本章に入ります。


――――


「今日もシリウスが綺麗だ。月じゃないけどね」

冬空に輝くシリウスを見ながら独り言を呟くと

「何言っているの」

妹の麗香が、僕の顔を見上げながら言う。


 僕は、広瀬大樹、二三才。大学を卒業して今年社会人一年生になった。妹の広瀬麗香は、一七才。目鼻立ちがはっきりしていて、明るい茶系の髪が天然で軽く縦カールが掛かる、兄の俺が見ても可愛い妹だ。


 有名私立高校に通い、大学は僕と同じ郊外の公立大学を目指すらしい。試験成績を自慢げに僕に見せてくるから、学内でも常に上位にいる様だ。彼氏がいる雰囲気はない。


「もう寒いから中に入ろう」

僕が言うともう少し見ていたそうな顔を上目使いに僕の顔を見ながら頷いた。


 季節は、もう一二月。リビングに戻ると、暖かい空気が僕たちを包んでくれた。時計を見るともう午後十時を回っている。

「お兄ちゃん、もう寝るね。おやすみなさい」

「ああ、お休み」


 妹が二階ある自分の部屋に戻る後ろ姿を見ながら呟いた。もう半年か。両親が海外赴任して。


 通信系企業に勤める父親の海外赴任が決まり、母親も父親について行き、妹と二人暮らし。

 父親が建てた一軒家に妹と二人で住んでいる。光熱費などは、親が払っている為、生活は余裕がある。


 大学受験を来年に控え、今の時期に海外の高校に行くのは無理と大反対し、仕方なく僕も一緒に日本にいることになった。


妹の面倒見である。俺は、勤め始めるなら海外もという気持ちがあったので、両親と一緒に行っても良かったのだが。

二階にある俺の部屋に戻るとそのままベッドにダイブした。


 窓から日の出前の明るさが、差し込んでくる。目を閉じたまま、ヘッドレストにある目覚ましを取るとゆっくりと目を開けた。


 まだ六時半前だ。もう少し眠ろう。そう思って毛布を顔まで引き上げて二度寝を始めた。


毛布の上から顔を小突かれて「むぎゅ」と唸ると


「お兄ちゃんいつまで寝ているの。もう七時になるよ」

「えっ、さっきは、まだ六時半だった」

「なに寝ぼけているの。早く食べて出ないと遅刻するよ」


それだけ言ってドア開けたまま、階段をペタペタと降りて行った。


 出勤する身支度をして、一階に降りると、テーブルの上に二人分の朝食が手を付けずに置かれている。


 食事に手を付けずに本を読んでいる麗香に「お待たせ」と言うと、キッチンに行ってお味噌汁を温め始めた。

 食事は妹が作ってくれる。両親が居た頃から料理の手伝いをしているので味は保証付きだ。


 妹の学校は、家から二十分位だが、俺の会社は、四十分位かかるので必然的に、早く出る。


「行ってきます」

と言ってドアを開けようとすると後ろから

「今日も遅くなるの」

妹の声に振り向いて

「そうだな。でも八時には、帰ってくるようにする」

「わかった」

いつもご免と思いながら駅へと向かった。


 もう少し、早く帰ってこれないのかな。もっと話したい。側に居たい。何となく胸の奥の方が、くっとなる感じがした。


 駅までの道を歩いていると、ポケットの中に入れてあえるスマホに着信音が鳴った。

 誰だ、こんな朝早くからと思いつつ、スマホを見るといつもの顔が表示されている。


『大樹、明日空いている』


 いきなりのメールに、明日は土曜日か。確かに空いてはいるが、朝はゆっくり眠っていたい。


『午前中用事ある。午後なら空いている』

『わかった。じゃあ、午後一時に家に行くね』


 メッセージを見たので向こうも既読がついているか、いいだろうと思い、返事もせずにそのままにしておいた。

 断ってもしつこく理由を聞いてくるので、特に問題ない限り付き合うことにしている。

近所にいる幼馴染だ。


「ただいま」

いつもは、帰宅時間を言っても、遅くなるのが当たり前だが、今日は、ほぼ八時に家についた。

ドアを開けると、パタパタと廊下を走りながら


「お兄ちゃん、今日は定刻だね」

嬉しそうに言う妹に


「そうだ。麗香。今日は、これ買ってある」


妹の大好きなモンブランケーキが二つ入った箱を差し出すと

「あっ」と言って鼻を近づけて

「嬉しい。ありがとう」

と言って思い切り目尻を下げた。


 ただでさえ可愛い妹が、パッチリした二重の大きな目尻を下げると、めちゃくちゃ可愛くなる。俺もつい微笑んでしまった。


ケーキの箱を持ちながら

「お兄ちゃん。早く着替えてきて。ごはん、待ってたから」


 キッチンに戻る後姿を見ながら、一人で食べるのも寂しいし、待っていてくれたのかと思うと、とても済まない気持ちになった。


 兄としっかりしなければと思いつつ、そうだ、今度、どこかに連れて行ってやるか。両親が海外赴任してから、ドタバタでどこにも連れて行ってなかったからな。そう思いながら自分の部屋へ急いだ。


夕食が終わり、リビングでテレビを見ながらくつろいでいる妹に

「麗香、今度の土曜か日曜、二人でどこか行かないか。ここ半年ドタバタして出かけてないし」

エル字なっているソファの角の部分に右ひじを置きながら、こちらを振り向くと

「今度の土日って明日の事」


少し不思議そうな顔をしながら言うと

「でも受験も近いし、無理だよ。志望校絶対合格したいから」


「でも、半日位なら気晴らしもいいか。でっ、どこに連れて行ってくれるの」

結構素早い返事に


「いや、まだ決まっていない」

「えーっ」


急に頬をぷくっと膨らますと、またテレビの方を向いてしまった。


これはまずいな。軽く言い過ぎたと内心反省した俺は、


「じゃあ、麗香の好きなところで良いよ」と言うと、


こちらに振り向いてジト目で俺を見た後、またテレビの方を向いて

「考えておく」と言って、見ていたテレビを消して自分の部屋に戻ってしまった。


 ふーっとため息を漏らしながら、うまくないな、こういう事。高校、大学時代、彼女と呼べる一歩手前ほどの相手が居たのだが、なぜか、明日会うあいつのおかげで別れてしまっている。

どうもこの手合いは不慣れだ。


 ふとっ、時計に目をやるともう十時半。風呂入って寝るか。そういえば、明日は、絵里奈が来る。麗香と出かけるのは、日曜日だな。

そう考えながら何となくソファの前にあるテーブルをぼうっと見てしまった。


 お兄ちゃんと出かけられる。ふふっとつい顔が緩んだ。目の前の鏡を見ながら、どこ行こうかな。好きなところで良いってくれたし。どの洋服着て行こう。


 ベッドに腰を下ろしてから、ずっとお兄ちゃんの事を考えている。私は妹。でも・・。


―――――


麗香ちゃんの気持ち・・。


面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。


お願いします。

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