第3話 わがままな幼馴染
休日は目覚ましをセットしない。当然だ。普段の時間からの拘束を解き放つ大事な休日。
カーテンの向こうから差す光がだいぶ高くなっているのがわかる。
なんとはなしに手を伸ばし目覚ましを見ると
「あーっ」大声を出してベッドからがばっと起き上がった。
十二時半。そんなーっ。
確か、あと三十分で、あいつが来る。この時間なら妹の麗香は、もう部屋で勉強しているから、誰もいないと思い、ボサボサ頭にパジャマ姿で階段を降りていく。最後の一段を降りようとすると
「おはよう、大樹」
居ても違和感が、まったくない雰囲気でソファに座る女性。三橋絵里奈。俺と同じ二二歳。胸元まで伸びる輝く黒髪。はっきりした二重瞼の目にすっきりとした鼻。可愛い唇がこれまた可愛さ、綺麗さを際立たしている。
そして、圧倒される胸。身長は一六五センチあり、まさにモデルプロポーション。幼稚園、小学校、中学、高校まで一緒だったが、大学はなぜか俺と違い、ミッション系の大学に進んだ、近所に住む幼馴染。幼稚園から一緒なので、とても大切な女性ではある。
恋愛感情は遥か彼方に行っていた。最初からなかったのではというくらいの仲である。だが、なぜか今でも二人で出かけたりする。絵里奈から誘われるとノーと言えない日本人(自分)?。
そんな幼馴染を見て目を丸くしてしまった俺は、
「なっ、なんで、絵里奈が。まだ三〇分あるだろう。いつもは遅刻するのに。それにどうやって入ったんだ」
「何を言っているの。麗香ちゃんが開けてくれただけよ。それに・・」
「それに」
途中で止まった言葉を追求すると
「そんなことより早く着替えてよ。もう」
全く、大樹の奴、乙女の前で、髪の毛はぼさぼさ、パジャマズボンは、ずれてパンツ見えそうだし。まあ、見えてもいいけど・・・。
渋谷を除くと、この辺では大型商業施設がある街の改札を抜けると
「大樹、十三時半よ。先に昼食にしよ」
家を出てから、僕の手を引くように連れてこられた。今日は何用なんだ。目的も聞かずについてきたが、場所から想像するに難しくなかった。
「いいよ。何にする」
「あそこ」
絵里奈は、指を改札に結合しているビルの上の方に向けた。アクセサリや大規模低価格を売りにする洋服店、レストランなどが入る、複合店舗だ。
エレベータを七階まで上がり、目的の店の前に行くと一組ウエイティングがいたが、
「一組だから待ちましょう」の言葉で待つことになった。
並んでいる時からお店の人がメニューを持って注文を聞きに来る。
「絵里奈、どれにする」
「うーん、チーズタッカルビスンドゥブ+チーズ、ご飯少な目で辛さは二辛」
「僕は、海の幸スンドゥブ+春雨、ご飯普通で四辛」
「かしこまりました」
注文を取り終わった店員が、メニューを持って店の中に入っていくと
「大樹、仕事はどう?」
右隣に座る絵里奈が、顔を近づけて聞いてくる。とても良い香りがする。
その声に右を向くと二十センチと離れていないところに彼女の顔があった。その大きな瞳で、僕を見てくる。
うっ、近い。でもいつもの距離感。
「ちょっと近い」左に少しずれると、また、その分近づいてくる。
「絵里奈・・」
「どうって聞いているの」
仕方なく、前を見ながら
「オリエンテーション終わって、研修の一環でプロジェクトに配置された」
「へーっ、凄いね。何しているの」
「凄くない、凄くない。皆同じ。最初の半年は、色々経験させて、その後、正式配属になるから」
「そうなんだ。でっ、何しているの」
突っ込んでくるな。もう。
「今は、プロジェクトの環境を覚えたり、情報セキュリティの研修を受けたりで、実際には、生産的なことはしていない。絵里奈は、どうなの」
「どうなのって?」
「いや、仕事の事」
「まあ、ボチボチかな・・。先輩達のお手伝い。プロットの前準備したり。そんなとこ」
「そうか」
そんな話をしている内に、店員が、席が用意できたと言ってきた。立ち上がりながらちらっと見ると三組に待ちが増えていた。
食事をしながら「今日の予定は」と聞くと
「特に無い。大樹と会いたかっただけ。あっ、あるかな。洋服見る」
いつものことだと思いつつ
「絵里奈、分かった。いいよ」
「ありがとう」
嬉しそうに返事をして食事を続ける彼女に、彼氏とかいないのかなあと思って顔を見ていると
「どうしたの、何か、私の顔に付いている。」
ジーっと逆に見られて
「いやっ」
勘違いされそうになったので、食事を続けた。
食後の運動とばかりに一階に降りてスクランブル交差点を渡って、有名なデパートの一階に入っているバッグや洋服、装飾品の店をウィンドウショッピングしながら、気に入ると店に入って商品を見ている。
僕は、絵里奈に呼ばれない限り、店の前で待っている。女性用品のお店は、ちょっと苦手。自分に場違いな感じがするし、恥ずかしい。
今日、絵里奈が僕を誘ったのは、一人だと面倒なことが多いから俺を虫よけ代わりに連れてきているのだ。
小さい頃から同じことに付き合わされている。絵里奈は、その容姿から、何処にいても目立つ。駅で待合せる時など、必ず声を掛けられていた。
俺は、いつもの事かと思って絵里奈のすぐ左後ろをついて行く。
ここは家族連れが多いので、要らぬ心配だと思いながらも彼女について行く。結局、三時間付き合わされ、挙句荷物持ち。
嬉しそうな絵里奈の顔を横目で見ながら、家の近くに帰ってくると
「大樹ありがとう」
それだけ言うと僕の手から今日購入した品が入った袋を取って、そのまま家に入った。
なんなんだ。せっかくの休みの日に。時間を返せ。
思っても仕方ないことを考えながら道路の反対側にある自分の家に入った。
§
「お母さん、ただいま」
廊下の奥から
「お帰り。早かったわね」
「うん、大樹と一緒だし、買い物して帰ってきた」
「大樹君は」
「えっ、もう家に帰ったよ」
「そうなの。ご挨拶位したかったな」
「どうして」
「だって、絵里奈の大事な将来の旦那様でしょ」
一瞬で顔が赤くなったのが、自分でも分かる。
「なっ、何言っているの。大樹は、幼馴染なだけよ」
「ふふっ、いつも大樹君の事ばかりでしょう。今日だって、朝から洋服選び、楽しそうだったし」
お母さんの言葉に、顔が赤くなったまま、二階に駆け上がった。
あっ、そう言えば、大樹。私の洋服のこと何も言ってなかったな。気に入らなかったのかな・・・。でも気に入っているんだけどな。この洋服。
今度聞いてみよ。
――――
幼馴染の絵里奈さんの気持ちも・・。
面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘も歓迎です。
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