第2話 ほたるはひかる
暇だなぁ、とノゾムはベッドに寝転がったまま天井を見る。YouTuberでも始めようかなぁ、などと考えてみた。
「案外いいかもしれない。びっくりした拍子にちょっと腕とか足とか取れるのおもしれえな。海外の不条理アニメみたいだ」
そんなことを口に出したその時である。
突然ドアが開き、「やっほー元気なユメノちゃんです」と高らかな声が響いた。ノゾムは「おぅわ」と叫び飛び上がる。続けてユウキが「ユメノちゃん足りてますか? お届けに上がりました」と顔を出した。
「わ……わあ……元気なユメノちゃんですね(?)」
「ミユもいるよ」
「ほんとだぁ……」
言いながら、ノゾムは転がって行った腕を追いかける。本当に驚いた拍子に取れてしまった。
「あれ、取れちゃった? あたしのせい? ごめんね……」
「いやいやいや! マジでユメノちゃんは不足していたので(?)ありがたいっす(?)」
腕を回収し、ノゾムは少しため息をつく。足などは自分で縫えるようになってきたが、腕ともなるとなかなか難しいのだ。どうしてこんなに簡単にほつれるのか、自分の身体に文句を言いたいくらいである。
「それで、ちっちゃいものクラブの3人はどうしてオレの部屋に来たんです?」
「今度ちっちゃいものクラブって呼んだらノンちゃんのこと落第生って呼びますよ」
「何も落第してないのにすげえ嫌」
「というかノンちゃんもそんなに大きくはないような」「おっとそれ以上は聞けないな」と言い合った後で、ユウキは空咳をする。気を取り直したようだ。
「ミユちゃんが、ママに会いに行きたいというので」
「ああ……。ユキエさん、でしたっけ。隔離病棟にいる」
実結は小さな手を握りしめてうんうんと何度か頷いた。ノゾムは都幸枝という人を思い出す。短い髪の、なかなか扇情的な格好をした――――とそこまで考えて盛大に咳き込む。
「で、何でオレすか」
「うーん、やっぱ未成年だけで外行くのダメかなーって思って。ノンちゃん一応、成人男性じゃん?」
「まあそうですけど。アイちゃんさんはどうしたんすか」
「花焼いてる」
「マジで脱毛感覚で薔薇焼くからなぁ、あの人」
ノゾムは腕を組みながら「でもそういうことだと、あんまりお役に立てそうにないんすよねえ……オレ」と呟いた。何でよ、とユメノが憤慨する。
「ノンちゃんだって男の子でしょ!」
「男の子ですけど、関節部が異様に取れやすい男の子なんすよね。今も腕取れてますし」
「ものは考えようです。その状態がデフォルトだということになりませんか」
「何が“ものは考えようです”だよ。なるわけないでしょうが」
ムッとした様子のユメノが「いいもんね、ノンちゃんがいなくてもあたしたちだけで行くし」と言い出した。ノゾムは頭をかきながら「いや、ついて行きますよ。ついでにタイラさんとこ行きましょ。腕縫ってくれるかもしれない」と肩をすくめる。ノゾム自身に力は一切ないが、カカシ的な役割として男が一人ついていた方がいいかもしれないとも思ったのだ。
上機嫌なユメノと実結はスキップをしている。その様子を、ユウキがハラハラした様子で見ていた。
「ユメノちゃん、ゆっくり行きましょう。転んだりなんかすると、頭のクリームが飛び散っていよいよ廃人になるかもしれません」
「それはもっと強めに止めた方がいいっすね……」
振り返ったユメノが、「ユウキとノンちゃんも一緒にスキップしよ。楽しいよ」と誘う。ユウキとノゾムは顔を見合わせ『これはやらねばなるまい』という顔で同時に足を上げた。軽やかに先を行くユウキに対し、ノゾムはなかなか進まない。けらけら笑ったユメノが「それスキップじゃねーし。ケンケンパだし。ウケる」と言った。
「あたしもプール入りたいなぁ。ミユちゃんのママに言ったら許してくれると思う?」
「まあユキエさんならすぐオッケーしてくれそうですけど、柊先生がどうかな」
「そしたらあたし、新しい水着取り寄せるのになぁ」
「ここの療養所、宅配してもらえるんすね。それはいいこと聞いた」
何か欲しいものあるの? と聞かれたので、漫画やアニメのDVDを答える。ゲームも取り寄せようか、と思った。何せYouTuberになろうかと考えるほど暇すぎる。そういえばタイラの部屋には本やらゲームやらが積んでいたが、あれも通販で取り寄せたのかもしれない。
「あ、あとピザとかいいっすね。頼みたい」
「ピザパいいねー。今度やろ」
「柊先生に先に言っておかないと」
「ぴざ……?」
「ミユちゃん、ピザ食べたことないの?」
「マジか。ちょっとユキエさんに確認取ってすぐやりましょ。ミユちゃん、アレルギーとかないかな」
ミユなんでもたべれるよー、と嬉しそうに実結は言った。本当に幸せそうに胸の前で手を合わせながら「ふふふ」と笑ったのだ。
そんな実結を見てノゾムたちは思わず、にやっと笑ってしまう。
「ピザもいーけど、普通にケーキとかもよくない? ケーキはいいぞぉ、ケーキは。アイちゃんに頼も」
「ですね。せっかくパーティならやっぱゲームも外せないでしょ。タイラさん、パーティゲーム持ってないかな」
「あの人がパーティゲーム持ってたらそれはそれで謎すぎるので、持ってないと思いますよ。ぼくは人生ゲーム持ってます」
ノゾムたちが口を開くたび、実結が目を輝かせるものだから。そんなことを盛りに盛って、とても1日でできるような内容ではなくなっていた。
「これは週1ぐらいのペースでパーティを開かなければならなくなりました」
「療養所って感じじゃなくなってきましたね」
言いながら、ノゾムは立ち止まる。「今なんか音しませんでした?」と尋ねるが、ユメノたちは首をかしげるだけだ。
動きを止めて、耳を澄ませる。やはり、物音がした。それから何か飛んできて、ノゾムの無事な方の腕に刺さる。
「? なんだこれ」
言いながらそれを腕から抜くと、小さな針が手のひらに転がった。
また同じように何か飛ぶ。今度はユウキの方へ向かっていったので、キャッチしようと腕を伸ばす。手のひらにまた針が刺さった。
「誰かそこにいます? 危ないんで、針飛ばすのやめてもらっていいすか……」
言いながら、恐る恐る物陰に近づく。すると勢いよく男が出てきた。
「ど、どうして麻酔銃が効かない?」
これ麻酔銃だったのか、とノゾムは納得する。ノゾムは無血病であるため、基本的に注射するタイプの薬は効かない。そんなことを教えてやる義理はないが。
「なに他人の敷地内で麻酔銃飛ばしてくれてんすか。警察呼ぶぞ」
男は「うるせえ」と怒鳴った。逆ギレである。こんな大人にはなりたくないな、とノゾムは思う。
「そこの娘は鱗粉病だ。売ればいくらになると思ってる」
「いや知らねえし知りたいとも思わないし、一切あんたと話したくなくなったし、警察は呼びます」
言ってノゾムはポケットを探る。「今警察呼びますからね、そこに直ってろ」と言いながら冷や汗をかいた。完全に携帯電話を部屋に置いてきたようだ。
男もポケットを探っている。「麻酔銃がダメなら」と口を開いた。「実弾だ」と出したピストルにノゾムは「実弾はやばい。あんた国家権力がこわくないのか」と宥める姿勢を取る。
「うるせえ。鱗粉病の娘を一人捕まえれば全て解決するんだ」
「何があったか知らないけど、落ち着きましょ? もっと関係機関に相談した方がいいっすよ。もっと違う解決方法がありますって」
「お前に何がわかる」
「あ、はい」
どうするコレ、とノゾムは後ろを見る。最悪ノゾムは撃たれても死なないが、ユメノたちはもちろん大怪我をするし死んでしまうかもしれない。
すると表情を変えずに前へ出てきたユウキが「ひさしぶりですね、おにいさん」と男に声をかけた。ノゾムは眉をひそめる。「この人のこと知ってるんすか」と尋ねたが、ユウキは答えない。
男はうろたえている。お構いなしにユウキは続けた。
「お兄さん、どうしてこんなことをするんですか? とってもいい人だったのに」
「は……? どこで……?」
「拳銃なんてこわいな。ぼく、すごくショックです」
ふと見ると、ユメノが実結を抱き上げているところだった。
ユウキは微笑みながら「そうだ、おにいさんにこの療養所を案内してあげますね。ついてきてください」と前の方を指さす。2,3歩進んだ。男は戸惑ったまま動かない。そのままユウキは進んでいく。ユメノも続いた。
そして突然、ユウキは走り出す。実結を抱えたユメノも、一切振り返らずに走って行った。「ちょっ、」と言いながらノゾムもついて行く。
呆然としていた様子の男も、怒鳴りながら走ってきた。
「一般病棟に戻るには遠すぎます。このまま隔離病棟に逃げ込みましょう」
「男子小学生、足が速すぎる」
「で、でも隔離病棟にスタッフさんいるかなぁ?」
確かに拳銃を持っている人間を病棟に連れ込むのはいかがなものかと思われる。それでも病棟内に逃げ込めば、少なくとも連絡手段を確保できるだろう。とにかく、ここでむざむざ実結を奪われるわけにはいかないのである。
例のプールの前を通ったが、都の姿は見えなかった。後ろを振り向く。「全然ついて来てる。執念がすげえ」と思わず吐き捨てた。
隔離病棟内に入ったが、ひとけはない。当然だ。隔離病棟の患者は基本的に病室から出ないのだから。
肩で息をしながら考える。ここまで来たら、頼れる人など一人だけだ。
隔離病棟の一番奥、金属の扉は鍵が閉まっている。今日はもちろん鍵など持っていなかった。思い切り叩いて、叫んだ。
「先輩! 先輩、助けてください!」
しばらくそうしていると、“ガチリ”と鍵の開く音がした。扉が開き、首根っこを掴まれる。そのまま引っ張られ、部屋の中に倒れこんだ。ユメノやユウキも同じように転げている。
「何の用だ」
それは、ノゾムたちに向けられたものではない。追いかけてきた男に対して放たれた警戒の色だ。
「な、何だお前は」
「こちらの台詞だ。なぜ子どもらを追いかけ回している?」
「そこの鱗粉病の娘に用がある」
「……大体わかった。考え直せ。ここで帰るなら見逃してやるから」
うるさいうるさい、と男は銃を構えた。へえ、という顔でタイラは笑う。
「俺は高熱発火病だ。なぜここに隔離されているか、わかるな?」
「高熱……発火……」
挑発するように銃口を指さして、その指を自分の胸に向ける。「撃ってみろ、爆発するかもしれないぞ」と揶揄った。
「まあ、立ち話もなんだから部屋に入れよ。心中しようぜ」
「こ、高熱発火病は……発火すること自体稀で……」
「ああ。それがわかっているなら俺に近づいて来いよ。何を突っ立ってるんだ? 部屋に入れてやると言っているんだぞ」
ふと、タイラは振り向いて「ノゾム、キッチンに包丁があるだろう。持ってきてくれ」と指示する。ノゾムは静かに立ち上がって、何本かあるうちの、フルーツでも切るような小ぶりのナイフを手に取った。タイラに渡す前に、様子をうかがう。
いいか、とタイラは言い含めるように話す。
「俺は、死ぬまでこの部屋を出ることはないんだ。たとえ――――人を殺してもな。部屋まで来てくれてありがとう。いい暇つぶしになる」
口を真一文字に結んだ男が、顔を伏せて一歩後ずさった。肩を落とし、そのまま歩いていく。タイラは「二度と来るなよ」と吐き捨てて扉を閉めた。
「包丁は必要なくなった。戻せ」と短く言って、ソファに腰かける。
そんなタイラを、ノゾムたちはじとっと見つめた。
「なんだ」
「先輩、何やってた人すか。ヤクザ?」
「そんなわけないだろう。大体、感謝の言葉もないのか。助けてやったんだぞ」
「それはまあ、ありがとうございます。あと腕縫ってください」
「またか。気をつけろって言っただろ」
言いながらもタイラは糸と針を用意し始める。章から譲られた裁縫箱はすっかりタイラの部屋のアンティークと化していた。「横向きに寝ろ」と言ってノゾムの腕を縫い始める。
「てかさー、この部屋暑すぎなんだけど。夏だよ。あたし溶けちゃうって」
「文句があるなら帰りなさい。俺は暖房を入れたいくらいなんだ」
「じゃあ冷蔵庫のなか入っていい?」
「おいやめろ」
神経質なほど丁寧に縫い合わせながら、「素材が良くないんじゃないか」とタイラは言う。「それは皮膚移植をしろって話ですか?」とノゾムは眉をひそめた。
「なぜお前らだけで外に出た? 柊さんからも注意しろと言われてたんだろ」
その問いに、ユウキが「ミユちゃんのママに会いに来たんですよ」と答える。タイラは「都先生か……」と目を細めた。
「彼女は朝から研究所の職員に連れられて行ったが」
「それ、大丈夫すか? 案件じゃなくて?」
「どうやら彼女は研究者のようだな。今でも自分の身体を研究の材料として提供しているらしい。話を聞く限りそのようなことが伺える」
「何ちょっと仲良くなってんすか。もしかしてタイプだったりします?」
そんなことはないよ、とタイラは真顔で言う。「彼女の方からよく部屋に来るんだ」と弁解した。
「しかし彼女はあれで少し天然なところがあるな。『実家から送られてきたハーゲンダッツです。よかったらどうぞ』と持ってきてくれるんだが、俺はアイスは食えないんだ」
「“実家から送られてきたハーゲンダッツです”は草。食えないって言えばいいじゃないっすか」
「断って、二度と彼女が部屋を訪れなくなったらどうする。ただでさえ今でも部屋に入っては来れないから簡単な会話しかできてないのに」
「あんた絶対ユキエさんのこと好きだろ」
唐突にユメノが「ハーゲンダッツあるの!?」と冷蔵庫から飛び出してきた。すべてを諦めた様子のタイラが「あるぞ。お前の下の段だ」と答える。はしゃいだユメノが冷凍庫を開けてアイスをつかみ取った。ユウキとノゾムも取りに行き、実結に分ける。
「そーだ、タイラさぁ」
「タイラさんと呼べよ。俺は今のところお前らより20近く歳上だぞ」
「今のところ? ああ、今のところか……」
「タイラさぁ、ここパーティ会場にしていいかな」
「いいわけがないよなぁ?」
そうだ先輩、とノゾムも口を挟んだ。「パーティゲーム持ってませんか」と。タイラは顔をしかめたが、やがて頭をかきながら「スマブラなら持ってるぞ」と言い出す。
「えっ、それ新しいやつ?」
「そうだよ」
「うわやりてえ」
「じゃあ、今出す」
「今すか?」
「“後で”って言うなよ、俺に」
ノゾムは言葉を失って、「はい」とだけ言った。タイラは本当にゲーム機を出してきて、やがてテレビの画面いっぱいにゲームのキャラクターが映し出される。
「4人プレイだから、ちょうど全員できるな」
「先輩は?」
「俺はミユちゃんとやるから」
「ぼく、実はテレビゲームしたことなくて……」
「そうか。じゃあ最初に試しプレイしてみるか」
操作を覚えたユウキはなかなか強かった。タイラが後ろでついている(実質タイラがプレイしている)ミユも常勝で、結局ユメノが毎回画面外に吹っ飛ぶこととなっていた。途中で不貞腐れたユメノがまた冷蔵庫にこもってしまった。暑さのせいもあるだろうが。
日が傾くまで遊んでいると、部屋に柊が現れた。かなり怒っている。
「ひえ……なんで柊先生がここに?」
「俺が呼んだんだ。さっきの男が待ち伏せていたら困るからな」
「それは確かにそうですね……」
ドカッとソファに腰を下ろした柊が「こっちは学会に出てたってのに、急いで帰ってきてやったんだ。てめえら、本当に危機感がねえな。外に出るときはスタッフに声をかけろと言わなかったか?」と顔をしかめた。
「いや、でもですね。ここの警備がガバだっていう問題もあるでしょ」
「うるせえな。ない袖は振れねえんだ。国からの補助金だって患者の処置にあてたらほとんど残らねえよ。最低限のな、最低限の警備はしてんだ。後は金持ちの道楽で多額の寄付があるのを待つだけだな」
「なんかすみません」
「そもそも奇病患者の居場所を確保する以上の役割を、国はこの療養所に求めてねえんだよ。『奇病患者の集合住宅みたいなもんでしょ?』みたいな考えが透けて見えら。いくら防犯の必要性を説いても、まあ無駄だわな」
「大変っすね」
「だからせめて、てめえらが自衛すんだよ」
「ほんとすみません」
お前も、といきなり柊はタイラを指さす。「なに当然のようにこいつらを部屋に上げていやがる。しっかりしろ、ほだされるな」と言う柊に、タイラはムッとしながら「それなら隔離病棟の周りに柵でも作れ。何が隔離病棟だ、誰でも入れる造りにしやがって」と吐き捨てた。
「何てこと言うんだよ! そんなことになったらあたしたちが遊びに来れないだろ!」
冷蔵庫から、ユメノが飛び出してきた。
呆然とした様子の柊が「……何だあれは?」とタイラに確認する。タイラは平然として「食後のデザートだ」と答えた。
「こんにちは先生! 冷えて食べごろのユメノちゃんです!」
「食べごろのユメノちゃんだそうだ」
「食べごろのユメノちゃんが、冷蔵庫の中から……」
「いかがですか!? 美味しいですよ!」
「遠慮しておく。老体にケーキはもたれるのでな」
ため息をついて、柊はユメノの元へ歩いていく。それから一息にユメノを抱き上げ、「ああ本当だ、冷たいな。二度と冷蔵庫になんか入るんじゃないぞ」と言いながら振り向いた。
「てめえらも帰るぞ。表にスタッフを3人待たせてる。俺はこれから警察を呼んで話をしなけりゃならん。早く来い」
ノゾムとユウキは「はーい」と大人しくついて行く。実結が少し寂しそうにタイラを見た。タイラはさっと実結の頭をなでて、「ママに会いたかったんだろ。また今度は大人の人たちとおいで」と話す。実結は頷いて、柊に連れられて行った。
夏の夜、療養所の近くには蛍が飛んでいた。柊はユメノを下ろして、代わりに実結と手を繋いでいる。歩きながら、「……なあ、おい」と口を開いた。
「あの男は間違いなく1ヶ月以内に死ぬ。もう2週を過ぎたところだ。あと4週間、生きているかどうか」
ノゾムは黙って頷く。ユメノは聞いているのかいないのか、蛍を追いかけてどこかへ行ってしまいそうだった。そんなユメノの腕を掴みながら、ユウキが「知ってます」と不貞腐れたような顔をした。
「慕うのは構わないが、それだけは忘れるんじゃないぞ。俺はな、これでもてめえらの行く末を心配しているんだ。奇病の多くは精神状態に大きく左右される。アレの死でてめえらの病状まで悪化されちゃあ、かなわない」
ノゾムもユウキも、押し黙る。ただユメノだけが、蛍の光を目で追いかけながら「でも」と呟いた。
「でも、出会わなければよかったねとは思わないよ。きっと」
ああ、と柊が吐息を漏らす。
「お前たちはいかんせん、生きることに真摯すぎる」
そう嘆いたきり、もう何も言わなかった。蛍が命を消費するように、眩く光っていた。
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