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遠くからは無言で回っているように見えた観覧車も、近くに寄ると金属疲労によってあちこちが軋んでいた。ゴンドラもまた風雨に晒されボロボロになっていたが、ちょうど回ってきた一つにカウボーイは乗り込んだ。
「おい、聞こえるか?」呼吸を整えるが早いか、通信機に話しかける。「おい」
『――聞こえるわ』雑音混じりだが、コニーの声が返ってくる。彼女は批難するように『どうして戻ってきたの?』
「今、どこにいる?」カウボーイは答えず、逆に問い返す。
『大きなボットのお腹の中よ。食べられたみたい』
「出られそうか」
『無理ね。体が動かない。バラバラにされてしまったもの』
カウボーイは〈狼〉たちに寄ってたかって食いちぎられる少女の姿を想像する。痛みがないとはいえ、記憶は彼女の中に残っているはずだった。
「残っているのは頭か? つまり、こうして話しているお前の意識があるのは」
『そうよ。でももうじき、ミキサーみたいな刃で粉々にされると思う』
〈母〉の体内から少女の頭を取り出すことは可能だろうか。カウボーイは算段を立てるが、どうやってもうまくいく気がしない。〈狼〉一つとっても足止めがやっとなのである。あの巨体を破壊することはおろか、一時的にも無力化できるとは到底考えられない。近づくことすら叶わぬだろうし、仮に本体に取り付けたところで、腹を割く術もない。彼一人にそれができるのであれば、他の誰かが既にやっているはずだ。そして人間たちはこの世界を追われずに済んだはずである。
足下から、金属同士の当たる音が聞こえる。窓を割って覗くと、支柱を伝ってくる〈狼〉たちの姿があった。カウボーイはドアを蹴破り、ゴンドラの屋根へ上がった。
『わたしを取り出すなんて無理よ』コニーが言った。『わたしなら大丈夫。あちらにバックアップがあるって言ったでしょ?』
「こちらにいた時の記憶はなくなるぞ」
『それは……』少女の言葉が一旦途切れる。通信環境の悪さのせいではなかった。『残念だけど、仕方ないわ。あなたの命には代えられない』
「勝手に人を殺すんじゃない」
『でも、方法なんて何もないじゃない』
「そうだな、何もない」
ボットたちを壊して彼女を救う方法は、と老カウボーイは胸の中でつぶやく。
彼はコートのポケットに左手を入れ、端末に触れた。そこに詰まった娘からのメッセージを読み取るように、そっと掴んだ。
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