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『久しぶり、パパ。お元気ですか? ママもわたしも元気です。
こっちではまだ半年しか経っていないけれど、そっちではもう一年が経っているなんて不思議な感じね。一人で寂しくない? それとも、アランおじさんと毎晩お酒を飲んでるのかしら? ほどほどにしないと、体を壊してしまうわよ。
こっちに来てわかったんだけど、通信環境があまりよくないみたい。特に、こうしてメッセージをそっちに送るには。本当はもっと頻繁に送りたいんだけど、他の人たちも順番待ちしてる状況なの。管理局はそのうち環境を整備するって言っているから、もう少ししたらマシにはなるはずだけど。そうしたら、パパからのメッセージも受け取れるようになるんじゃないかな。もちろん、テキストではなく映像付きのをね。
――ママは、正直言うと、まだ気持ちの整理がつかないみたい。今日も誘ったんだけど、用事があるって断られちゃった。ごめんね。
時間がすべてを解決してくれるとわたしは思ってる。けど、こっちでそれだけの時間が経つ頃には、パパはすっかりおじいさんになっちゃってるかもね。
パパ……。
ううん、何でもない。
そろそろ容量がいっぱいだから、今日はこの辺で。またすぐに希望申請するから、近いうちに送れると思う。次はママと一緒に映れるといいな。
バイバイ、パパ。愛してる』
翌日は夜明けとともに目が覚めた。
起き上がろうとすると、体中が痛んだ。固い床で眠ったせいもあるが、きのうの〈戦い〉が大きく響いているようだ。
それでも、いつまでも寝ているわけにはいかない。
うめきながら上体を起こすと、少女がきのうと同じ位置に座っているのが見えた。彼女の目は開いていて、視線と手元に落としていた。そこにある何かを読むように。
やがて彼女は目を上げた。
「おはよう、おじいさん。よく眠れた?」
投げつけられた皮肉に何か言い返したかったが、それ以上に背中が痛かった。
「お前は眠ったのか」
「わたしは疲れないもの。あんまりヒマだから、一時的にスリープにはしたけれど」
「うらやましい体だな」
「あなたもこちらへ来たくなったでしょう?」
老カウボーイは答えず、寝床から抜け出した。
代替肉の缶詰で朝食を手短に済ませ(面倒なので今回もサービスした)、地上に朝が来る頃にはすっかり出発の準備を整えた。カウボーイは少女をポラックの背中へ抱え上げ、自らも鞍に跨がった。
馬は廃墟を出ると、きのう来た道を引き返し始めた――すなわち、山並みに向かって歩き出した。
「反対じゃないの?」前に座る少女が見上げてくる。
「反対だな」カウボーイは前を向いたまま答える。「イヤなら引き返すが」
「イヤだなんて言ってないでしょ」それから小さく、「ありがと」
カウボーイは鼻を鳴らした。
「やるのは今日一日だけだ。見つかっても見つからなくても、明日には連れて帰る」
「いいわ。馬さえいれば、一日で十分よ」
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