第9話 姉妹解放作戦
作戦決行日。今日で決着がつく……はずだ。
でもこの作戦で本当にいいのか?
いやいや、ただの大学生である俺ができることなんて何もないんだ。
この作戦以外に思いつかないし、何よりこれが一番王道だろう。
また変な作戦を立ててこれ以上罪を重ねるわけにはいかないからな。
「本当にするんですね?」
「うん」
葵と小春のためにもそして義父と俺が罪を償うためにもやらなきゃいけないんだ。
今日で2人ともお別れ。後は児童相談所がどうにかしてくれるはずだ。
義父は何らかの処罰が下され、俺も2人の自由を奪ったとして罰を受ける。
それでいいじゃないか。2人が人並みに幸せな人生を送ることができるのなら。
どうせ俺には夢も希望も無かったんだ。
だけど……そうだな、叶うことならもっと2人と楽しい時間を過ごしたかった。
「……改めて今日の作戦を確認しとこう」
「はい」
「まず2人は家に帰ってもらう。家にたどり着いたら小春から連絡してもらって俺が児童相談所に連絡をいれる。後は流れに任せるといったところだ」
「本当に大丈夫ですかね」
「こればっかりは大人に任せるしかないと思う」
助けておきながら結局は大人頼りなんて情けないやら無責任やら。
「よし、そろそろ時間だね」
「ありがとうございました。最初はお姉ちゃんのことを狙ってる怪しいストーカーだと思ってたけど全然そんなことなかったです」
「ははは、確かに小春からすれば怪しい男だよなぁ」
「今はそんなこと思ってないですから。一緒にショッピングモールに行った時のこと覚えてますか?」
「もちろん」
あの時は変なおっさんがいて大変だったな。
思えばあの日から小春の態度は柔らかくなったんだっけ。
「あの日のことはこれまでの人生で一番の思い出です……たぶん」
「そんな大げさな。でも楽しんでくれたようで何よりだよ」
小春は目尻に涙を浮かべながらお辞儀をしてきた。
そうだな……俺も楽しかった。
何というかそれこそ従妹ができたかのような気分になった。
同じ趣味を持っていることがわかって嬉しかった。
「真白さん、ありがとうございました。あの日私はどうすれば良いのかわからなくて。助けを求めることができずにいて。これからどうすれば良いんだろうって思いつめていたんです」
続けざまに葵が口を開いた。
葵の言う“あの日”とは俺たちが最初に出会った日のことを指しているのだろう。
「だけど真白さんが手を差し伸べてくれて嬉しかったんです。そりゃあ最初は変な人が話しかけてきたなと思いましたよ。でも真白さんの目は他の人と違った」
「……」
「それだけじゃない。真白さんは私に色々な経験を提供してくれた。さらに小春まで助けてくれた。感謝してもしきれません」
「それは……もっと救われるべきだと思ったから」
「……実のところ小春はかなり弱ってたんです。でも真白さんと出会ってから明るくなった」
「確かに最初は心を開いてくれなかったからね」
「それから……真白さんも私と似たような、いやそれ以上につらい出来事を経験してきたことがわかってから私も真白さんを支えてあげたいと思い始めました。なのに……ここでお別れになるなんて」
「そうか。そんな風に考えてくれていたのか。俺はその気持ちが聞けただけで嬉しいよ」
「でも、そうですね。私たち自身の問題も解決する必要がありますよね。せっかく真白さんが提案してくれたんだし」
「そうだよお姉ちゃん。これが解決したらきっとまた壮馬さんと会えるよ。だから……少しだけ我慢しよう?」
「うん、そうだね。……真白さん、この問題が無事に終わったらまた会ってくれますか?」
「約束するよ。またいつか会おう」
「絶対ですよ!」
「ああ、もちろんさ」
そう言って俺たちは固い握手を交わした。
葵の手はこれから起こる出来事への恐怖からかほんの少しだけ震えていた。
俺はその不安を取り払うように彼女の手を両手で握りしめた。
それから2人と別れた。実に1ヶ月に渡る俺たちの奇妙な、それでいてお互いにリラックスできるこの関係はあっけなく終わりを迎えた。
***
「ねえ小春。真白さんの作戦だけどさ、児童相談所の人はすぐには来ないよね」
「そうだね。それまではまた我慢しないと」
「大丈夫だよ、小春。私が守るから」
「ありがとう。お姉ちゃん。でもいつまでも甘えるわけにはいかないよ。作戦が上手くいけばお父さんと会うのもこれが最後。だったら立ち向かわなきゃ」
「小春……」
「壮馬さんが立ち向かう勇気をくれたから」
私の脳裏にはあの日、ショッピングモールで私を助けてくれた壮馬さんの後ろ姿が映っていた。
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