第4話 無知は罪なり
とりあえず俺が抱えていたトラウマは少しだけ解消されたと思う。
そういう意味ではやはり先日の同窓会に出席したのは間違いではなかったといえるだろう。
残る問題は葵と小春のことをどうするか、だな。
彼女たちの居場所はもちろんのこと、家庭問題も解決しなければいけない。
家庭問題に関しては俺が介入する余地もないのだが。
本当は一番最初に解決すべき問題だった。
でも心の隅で彼女たちと別れたくないと思っていたことも事実だ。
しかし俺の問題が前進した今、彼女たちの問題も取り払わなければと思えるようになった。
どうする? この問題を解決するために俺に足りていないことは何か。
そう、知識だ。
そもそも何から手をつければいいのかわからなかったため、大学の図書館に行ってみることにした。
館内にはコンピュータが置かれているためそれを使って調べることに決めた。
キーワードは……虐待か?
それから俺はかなりの時間を使って彼女たちを救う方法を調べた。
結果としてまずは児童相談所に連絡するのが一番だということらしい。近年では匿名での通報も受け付けているようだ。
だがそれと同時に自分は想像以上に大きな罪を犯してしまっていたことも知った。
「……未成年者略取誘拐罪」
未成年者略取誘拐罪はその名の通り未成年者を略取または誘拐する罪のことだ。具体的には相手を本来の生活環境から引き離し自身の支配下に移す行為に対する罪であり、略取は暴行や脅迫など強制的な手段を使うこと、誘拐は騙したり誘惑といった手段を使うことと区別されているようだ。
そしてこの罪を犯した者は3ヶ月以上7年以下の懲役に処せられる。
確かに結果として葵たちの自由を奪う形になったことは承知している。
でも……いや、ダメだ。相手は未成年。
いくら彼女たちの同意があったとしても世間は認めてはくれないだろう。
葵と出会った時点で児童相談所に連絡を入れておくべきだった。
あの時点でもっと調べておくべきだった。
これからどうすればいいんだ。
「あら? 真白くん?」
「!? は……はい!」
「しーっ、そんなに大声出したらダメじゃない」
「あっ、すみません……」
俺に話しかけてきたのは紫雲先輩だった。彼女に俺が検索していたものを知られるわけにはいかないと思い、急いでタブを閉じる。
「調べものしてたの?」
「ええ、ちょっと難しいレポートが出されたので」
「そう」
もしかして既に見られてたか? でもレポートのためと言っておけば理解してくれるだろう。
「それより、俺に何か用ですか?」
「用ってほどのことでもないけど……バイト、次はいつだったかしら」
「俺のですか? 明日ですよ」
一体どうしたというのだろう。なんかこの前のお礼デートに行った帰りくらいから紫雲先輩の様子がおかしい。
「そ……そうだったの」
なぜか緊張した様子でそう告げると今度は深呼吸をしてこう言ってきた。
「真白くん、明日のバイトが終わったら話があるの」
話って何だろう。とても緊張しているみたいだしそれほど重要な話なのだろうか。
「わかりました。明日ですね」
「ええ。それじゃあね」
「失礼します」
俺も帰宅することにした。まずは2人に相談しないとな。
また自分だけで考えて突っ走って、2人に迷惑をかけることになってはいけない。
そうか俺は知らず知らずのうちに罪を犯してしまっていたのか。
もちろん冷静に考えれば当時の俺の行動はどうかしていたと思う。
でもあの時は純粋に彼女を助けたい、自分と似たような暗い瞳を持った彼女には同じような人生を歩んでほしくないと思っていたんだ。なんて、言い訳みたいだな。
本当はとても不安だ。だが俺がしてきたことが罪だというのならその罰はきちんと受けなければならない。たとえ今の社会的地位を失うことになっても、人から後ろ指を指されるような人生になっても。俺は大丈夫だ。元より夢や希望なんて持ち合わせていなかった。だけど葵と小春には幸せになってもらいたい。
大丈夫。大丈夫……だ。
***
ああ! どうしよう。約束してしまった。
本当はもっと後でも……ううん、こういうのは早い方が良いに決まってる。
だって、もうあの時みたいな後悔はしたくないから。
それが感謝であれ謝罪であれ、思っていることを相手に伝えられずにいるのはとても苦しかったんだ。
いよいよ明日か。明日私は数年越しのこの気持ちを伝えるのだ。
まずは彼に私のことを覚えているか尋ねないと。
その結果がどうであれこの気持ちは伝えよう。
覚えていなければもっと親しくなってから気持ちを伝えるというのも考えた。
だけどなぜだか今伝えないと彼が遠くに行ってしまうようなそんな気がする。
それにしても今日の真白くんはこの前会った時よりも明るくなっていたような気がする。
何か心境の変化とかあったのかな。彼の纏う雰囲気は見ているこっちが不安になるようなものだったしそれが改善に向かっているならば私としても嬉しい限りだ。
私は明日に向けてイメージトレーニングをしながら眠りにつくのだった。
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