第2話 同窓会①

葵に背中を押されて同窓会に出席すると決めた日から早くも数日が経ち、いよいよ同窓会当日となった。


今回の同窓会は地元のレストランを貸し切って行われるようだ。会費がそこまで高くなくて済んだのは正直ありがたい。これがホテルとかだったらもっと高かったんだろうな。

というか今更ながら思ったんだが中学卒業から5年と経っていないのに同窓会を開くってちょっと早くないか?


「じゃあ2人とも留守番よろしくね。なるべく早く帰ってくるから」

「はい! 結果がどうであれ私は真白さんの味方ですからね」

「ええっと……頑張ってください?」

「ははは、ありがとう。行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」


会場が離れているので2人を置いていくのはかなり心配だが葵の料理スキルも格段に上がったし何かあれば連絡するように言っているからおそらく大丈夫だと思う。


それにしても今回の同窓会に竹原や保志さん、そして小谷は来るのだろうか。

来ていてほしいと思う反面、別に来ていなくてもいいと思う自分もいる。


いいや、ダメだ。今日で過去とお別れだって決めたじゃないか。

弱気でどうする、俺。


そんな葛藤を挟みながら電車で揺られること数時間。無事、俺の地元に着いた。

ここを離れてから1年か。流石に景色は変わってないな。


久しぶりの地元に懐かしさを感じながらも目的のレストランに到着した。

受付を済ませ、会場に入るとそこには想像以上に多くの人が集まっていた。

どうやら今回の同窓会は他のクラスと合同で行われるものらしい。


さて、誰か知ってる人物はいないかな。

そこまで広くない会場を歩き回ってみるが特に知っているような人物は見当たらない。

極端に顔つきが変わっているわけでもないだろうし、俺たちのクラスはまだ参加者が少ないのかな。受付終了まであと20分ほどあるし。


暇をつぶすため壁に背を預け、葵たちにメールを送ってみることにした。


『無事にたどり着いたよ。そっちは大丈夫?』


最近はメールより無料通話アプリの方が主流なのだろうが彼女たちが持っているのは子ども用のケータイであるためメールか電話でやり取りをするしかないのだ。


『お疲れ様です。こっちは大丈夫ですよ。せっかくの機会ですし楽しんできてくださいね』


ははは、楽しむ……か。この感じだと無理そうだなぁ。

そうしてしばらくスマホを眺めていると近くで何やら聞き覚えのある声がした。


「ああー! 久しぶり! 私のこと覚えてる?」

「久しぶりー! 保志ちゃんだよね? もちろん覚えてるよ」


保志さん……か。俺に女性に対するトラウマを植え付けた人物。

そして精神的に弱っていた当時の俺に追い打ちをかけるかのような行動をとった人物。

『は? 嘘告だけど』と言った彼女の表情と声色は未だに頭から離れることはない。


くそっ。楽しそうに会話して。彼女にとっては嘘告も疑似デートもすべてただの遊び感覚だったんだろうな。

そんな恨めしい感情を思い起こしているとなんと保志さんが俺の元へとやってきた。


「あれ? 真白くんだよね? 久しぶり!」

「ああ。久しぶり」


正直会話もしたくなかった。保志さんと話していると当時の情けない自分が思い出されてしまうからだ。でも、ここで過去を捨てると決めたんだ。


「どうしたの? 元気ないじゃん」

「別に何でもないよ」

「ふーん。あっ、今何してるの?」

「ただの大学生だよ」

「そっか! 私も大学生なんだけどほとんどバイトで時間つぶしちゃっててさぁ」

「なあ、保志さん。君が俺にしたこと覚えているか」

「んー」


俺が直球な質問を投げかけると保志さんは人差し指を顎に当て考えるような素振りを見せた。そんなに考えるほど思い出せないのか。彼女にとってはそれくらいの出来事だったってわけだな。


「あっ! 確か一時期デートしてたよね。あの時は楽しかったなぁ」

「は?」

「ほら、2年生の頃だったかな。毎日一緒に帰ったり週末は2人で色々なところに行ったり――」

「それはもちろん覚えてるよ。でも俺たちがそんな関係になったきっかけがあるだろ?」

「えっと……罰ゲーム、だっけ」


そう言うと保志さんは苦笑いを浮かべながら頬をかいた。


「あれは申し訳ないと思ってるよ。でも、真白くんも楽しかったでしょ?」

「そうか。その程度の認識だったんだな」

「え?」

「確かに君の言う通り楽しかったよ。竹原にいじめられたりクラスのみんなから無視されるようになっていた時に君が話しかけてくれた。救いの手を差し伸べてくれる人が居たんだと思った。でも、覚えているか? 君が最後に屋上で言った言葉」

「……」

「俺はあの関係が嘘だなんて信じたくなかった。でも君は当たり前のようにこう言ったんだ。『え? 嘘告だけど』って」

「それはごめんって。だけどあの時は私も竹原に言われてやってただけだし……」

「言われて動いていたから自分は悪くないってか? 竹原に従ってただけだと言いながらよくあんな表情ができたな」

「っ?! 悪くない……とは思ってないけど……それにあのデートをするうちに真白くんのことも悪くないかもと思ってたんだよ」

「どうして今更そんなことを言うんだ! なんで……あの時助けてくれなかったんだよ」

「ごめん、そんなつもりじゃ……あっ!」


気が付けば俺はその場を走り去っていた。

こうなるのはわかっていた。自分でも大学生にもなって過去のことを引きずるなんてかっこ悪いと思う。過去の出来事に対して怒ってもしょうがないことくらい理解している。

でもいざ彼女を目の前にすると怒りの感情が頭を支配してしまうんだ。

それほどまでに当時の出来事は俺の心を蝕んでいたんだ。


俺は……彼女らにどうして欲しいんだ? 謝罪の言葉が欲しいわけではない。今更当時の問題が解決できるなんて微塵も思っていない。ただ、いつまでも過去に囚われたままは嫌だ。じゃあどうすればいい? どうしたら俺は過去を割り切ることができるんだ?


「……もしかして真白か?」


1人で考え込む俺に対しそんな言葉がかけられる。

そしてその声はまたしても聞き覚えのあるものだった。

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