第12話 休息
結局あの後ゲーセンに寄ってから家に帰ってきた。
帰りの電車で小春はよほど疲れていたのか俺の脇腹に頭を寄せながら熟睡していた。
「あっ! 2人ともおかえりなさい」
「ただいま」
「お姉ちゃん、ただいま」
玄関を開けると葵ちゃんが出迎えてくれた。
結局葵ちゃんから電話がかかってくることはなかったし宿題に集中してたのかな。何はともあれ留守中に何もなかったようで安心した。
「あれ? ふふふ、二人とも仲良くなったみたいで安心しました」
葵ちゃんはしばらく俺たちの顔を眺めた後そんなことを言い出した。
一目見ただけで俺たちの変化に気づいたというのだろうか。
「お姉ちゃん?! べ……別に仲良くなんてないんだから」
そうか……あれで仲良くないのか……
俺は少しは仲良くできたかなと思ってたんだが目の前で言われるとちょっとショックだな。そうだよな。俺が女の子と仲良くなんてできるわけないよな……
「小春! そんなこと言わないの。ほら真白さんの目が死んでるじゃん」
「ええっ……ああもう!」
俺が茫然としていると小春が突然耳もとに顔を近づけてきた。
そして――
「冗談です。その……お姉ちゃんの前だと恥ずかしいじゃないですか……」
なんてことをささやいてきた。そうだよな。ただの照れ隠しだよな。
年頃の女の子だもんな。耳元でそんなことをささやかれてしまったら……ああ、俺の父性が爆発してしまいそうだ。
「小春ぅ……」
「えっ! 真白さん今小春のことを呼び捨てしました?!」
そうか、葵ちゃんはあの場にいなかったから俺たちが名前の呼び方を変えたことを知らないんだっけ。
「ううっ、ずるいです。私のことも名前で呼んでください!」
「え? でも……」
「でもじゃありません!」
確かに小春だけ呼び捨てで葵ちゃんだけちゃん付けなのもおかしいか。
「……葵」
「くうっ……///」
俺が名前を呼ぶと葵は顔を真っ赤にして部屋に戻っていった。
隣で小春がジト目を向けてきていたがこればっかりはしょうがない。
うん。しょうがない。
「そうだ、ラノベを紹介しようか」
「いいんですか?」
「もちろん」
そう言ってリビングへと連れていく。リビングには巨大な本棚が置いてあるのだがラノベがぎっしり詰まっているのがバレないように布切れで目隠しをしていたのだ。
「わあ! この本棚とても気になってたんですけどまさか上から下まで全部ラノベだったとは」
「面白そうな作品があったらいつでも読んでいいからね」
「ありがとうございます!」
小春は早速霊恋1巻を手に取っていた。
面白い作品は何度でも読みたくなるものだからな。わかるぞその気持ち。
俺はというと今日買ってきた霊恋の6巻を読むことにした。
「壮馬さん、ネタバレしないで下さいね」
「しないよそんなこと」
「なら大丈夫です。あと、読み終わったら私にも読ませてください!」
「もちろんいいよ」
そうしてしばらく読書に集中していると突然隣の部屋の襖が開かれた。
「2人ともそんなに静かにして何してるんですか……ってなるほど読書ですか」
「葵も読んでみる?」
「私は遠慮しときます。読書苦手なので」
「そう? 面白いんだけどな」
「ううっ、確かに2人だけで楽しんでるのはずるいですね」
葵はそう言って本棚から適当なラノベを取り出す。
俺はその様子を眺めていたのだが――
「って! それはダメだ!」
止めようとしたが時すでに遅し。
「な?! なんでこの女の子裸なんですか!」
葵が手にしていたのはラノベの中でもかなり際どい部類のものだった。
あれは確か俺が中学生の時に買ったやつじゃないか。
思春期、特に男子に至っては性に興味が湧くお年頃。
俺も例外ではなかったようであのラノベはたまたまネットで目にしたものだった。
家族にバレないようにかなりドキドキしていた記憶がある。
とはいえ内容はそんなにえっちいものではなかったはず……イラストはだいぶえっちいが。
「大丈夫か?!」
案の定、葵には刺激が強すぎたようで目を回してしまっていた。
「ちょっ! お姉ちゃん?!」
「……ま、真白さんも男の子ですからね……へへ」
いやいや! 前一緒にゲームしてた時服に手かけて俺のこと試してたじゃん!
そんなに耐性なかったっけ?!
「壮馬さん……見損ないました……」
「いやいや! 小春が思ってるような本じゃないから! 絵がえっちいだけだから!」
小春が軽蔑するかのような視線を向けてくる。
ほんとにアダルトな本じゃないんだけどな……
結局その夜は2人から目を合わせられることなく過ごすのだった。
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