第10話 小春ちゃんとお買い物

正月三が日も終わりを告げ、本格的に新年がスタートした。

とはいえ俺たちはまだ冬休みだ。

そんなわけで今日もゲームに興じていた。


今やっているのはour craft。ブロック型の素材を駆使して様々な建築物を作っていくアドベンチャーゲームだ。タイトル通り協力プレイが充実しているため俺、葵ちゃん、小春ちゃんの3人で遊んでいた。


「あっ! そういえば小春の服を買ってくれるって言ってましたよね?」


突然葵ちゃんがそんなことを言い出した。

確かに初詣前に話してたような気がする。あの時は店もほとんど閉まっていたからな。


「そうだね。もう店も開いてる頃だろうし行ってみようか」

「ええ? いいですって。何着か持ってきてますし」


小春ちゃんは拒否していたが葵ちゃんの説得によりしぶしぶといった様子で了承していた。

早速準備を進めて玄関先で待っていたのだが。


「あれ? 葵ちゃんは行かないの?」

「私は宿題を終わらせないといけませんから。2人で楽しんできてください」

「ええっ? お姉ちゃん来ないの? だったら行く必要ないのに」

「小春、そんなこと言わないの。きっと楽しいから行っておいで」


そう言って葵ちゃんは俺にウインクを飛ばす。

小春ちゃんと仲良くする場をセッティングしてくれたということか。

期待に応えられるかはわからないが最善は尽くそう。


「じゃあ行ってきます。留守番よろしくね」

「あっ、そうだ。私のケータイお姉ちゃんに預けとくね」

「うん。行ってらっしゃい」


葵ちゃんに見送られながら俺たちはショッピングモールへと向かった。

やっぱりまだ人は少ないな。それに結構寒いし。


「小春ちゃん、大丈夫? 寒くない?」

「……大丈夫です」


小春ちゃんはまだ心を開いてくれてはいなかった。

これを機にちょっとでも仲良くなれるといいんだけどな。



電車に乗り、例のショッピングモールに着いた。

隣を歩く小春ちゃんは相変わらず淡白な反応を示していたが、電車に乗れたことが嬉しかったのか車内では目をキラキラと輝かせていた。


「よし、それじゃあ服を買いに行こうか」

「そういえば前にお姉ちゃんが真白さんと買い物に行ってきたと言ってたんですけどもしかしてここに来たんですか?」

「そうだね。結構前だけどここに来たよ」

「そうですか……」


そう言った小春ちゃんの表情はとても複雑なものだった。

小春ちゃんはあの日どうしてあんな忠告をしてきたのだろうか。

確かに知り合って間もない男が自分の姉と親しくしていたらいい気分にはならないだろう。

でもそれだけじゃないというか、まだ理由がありそうだ。

その辺も含めて探っていけたらと思う。


とりあえず俺たちは店内に入ることにした。今回は紫雲先輩もいないわけだし俺がリードしないとなんて思っていたけれど小春ちゃんはファッションに詳しいようで早速服を選んでいた。


「ファッション詳しいんだね」

「そうでもないですよ」

「葵ちゃんは服の多さに目を回してたんだけどね」

「お姉ちゃんは何というか……不器用なところがありますからね」


そう言いつつも何着か手に取り早速レジへと向かおうとしていた。


「あれ? 試着はしなくて大丈夫なの?」

「大丈夫です。私が試着している間暇になるでしょう?」

「俺は全然大丈夫だけど……とにかく試着してみたら? サイズが合わなくて返品することになっても面倒だし」

「……そこまで言うなら」


渋々受け入れた様子で試着室へと向かっていった。

葵ちゃんの時と同様に俺も試着室の前で待っていたのだが小春ちゃんが中に入って以降一向にカーテンが開く様子がない。

何かあったのだろうか。少し心配になったが流石に開けるわけにはいかないと思い、そのまま待つことにした。


それから少し経ち、ようやくカーテンが開いたかと思えば小春ちゃんの恰好は家を出てきた時のままだった。


「え? ちゃんと確認できた?」

「はい」

「そ、そうか。それならよかった」


てっきり服を着た状態を見せてくれるものと思っていたが、違ったらしい。


「試着した姿も見せて欲しかったな……なんて」

「なんであなたに見せないといけないんですか」

「うっ……まあそうだね」


相変わらずツンツンしてるな。ツインテール=ツンデレみたいな風潮があるが小春ちゃんも例外ではないのかもしれない。それとも俺、自覚がないだけで何か気に障ることしたかな?

なんて考えつつも答えが出るはずないので諦めてレジへと向かった。


「まだ時間もあるしどこか寄って行こうか?」

「その前にお手洗い行ってきます」

「わかった」


小春ちゃんから服を預かり近くにあったベンチに腰掛ける。

正月というだけあって客は少ないな。しばらくしたら福袋とか売り始めて客足が増えるんだろうけど。


特にすることもなかったのでスマホを眺めていたのだが……


「遅いな」


あれから10分程経ったが未だに小春ちゃんが戻ってくる様子はない。

トイレが混んでいるのか? それにしてもちょっと遅いだろう。

あるいは体調が悪かったとか? 嫌な予感がするな。

なぜかそう思ったのでトイレに向かうことにした。


「やめて下さい! 離して!」


今の声、小春ちゃんか?!

トイレの方向から小春ちゃんの声が聞こえた。

駆け足で向かうとそこには小春ちゃんと彼女の腕を掴んだ中年のおじさんがいた。


「何してるんですか?」

「ああ? いや、この子はうちの子だよ。ちょっと揉めただけさ」


うちの子? よくもまあそんな嘘をぬけぬけと。

誘拐でもするつもりだったのか? って、俺も人のこと言えないか。

ともかく――


「おっさん、悪いね。その子は俺のかわいい妹なんだけど」

「はぁ? そんなわけ……」

「お兄ちゃん!」


ナイス、小春ちゃん。俺の打った芝居に乗っかって来てくれた。

これで信憑性は増すだろう。実際、おっさんは驚いた様子だ。

その隙に小春ちゃんが手を振り解き、こちらに駆けてくる。


「おっさん、二度とこんな真似するんじゃねぇぞ。私利私欲の為に子どもを利用するなんてありえねぇ」


俺がポケットからスマホを取り出すと通報されると思ったのか、おっさんは青ざめながら逃げて行った。


「遅くなってごめんね。大丈夫だった?」

「……っこいい」

「え?」

「……何でもありません。本当、遅かったんですから」


そう言う小春ちゃんの体は少し震えていた。そりゃそうだろう。いきなりあんなおっさんに腕を掴まれたら怖いに決まっている。恐怖を和らげる方法はないかと考えたが俺には良い案が思い浮かばなかったので頭を撫ででみた。


「!? 急に何するんですか!」

「ごめん、頭を撫でたら怖さが吹き飛ぶかなって。嫌だった?」

「嫌……じゃありません。もう少し続けて下さい」


要望通り頭を撫で続ける。髪がサラサラで気持ちいいな。

しばらく続けているとだいぶ落ち着いたらしい。


「その……ありがとうございました」

「いいよ。俺にできることは少ないけど小春ちゃんと葵ちゃんの為なら力になりたいんだ」

「じゃあ、1つお願いを聞いてもらえますか?」

「俺にできることなら」

「私のこと呼び捨てで呼んでください」

「えっ?」


拍子抜けした。もっと難題が課されるかと思っていたが呼び捨てで呼ぶこととは。


「そんなことでいいの?」

「はい」

「じゃあ……小春」


俺がそう言うと小春ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。一体どうしたと言うのだろう。


「あっ、私もお兄ちゃんって呼んだ方がいいですか?」

「えっ? それはちょっと……」


実妹でもないのに小学生の女の子にお兄ちゃんって呼ばせるのは気が引ける。

でもさっきみたいなこともあるしな。兄妹設定にしといた方がいいのだろうか。


「じゃあ、壮馬さんでどうですか?」

「いいと思うよ」


改めてそう宣言されるとなんか照れくさいな。


「それじゃあ次の店に行ってみようか、小春」

「ううっ……いきなり呼ぶのは反則ですよ」


少し距離が縮んだことに内心喜びつつも次の店へ行くことにしたのだった。

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