第7話 姉妹救出作戦
翌日。俺は珍しく7時過ぎに目が覚めた。
別に早朝というわけでもないしむしろ社会人ならこの時間帯に起きる人が多いだろう。
それでも今日からは完全に冬休みを迎えるわけだし、いつもなら11時とかそれくらいに起きてた。それくらい今日は緊張しているのだろう。
いよいよ今日だ。今日から俺は夕凪姉妹を迎え入れることになる。
確か彼女たちの父親が仕事の間に逃げるんだったよな。母親は大丈夫なんだろうか。
俺が心配していてもしょうがないのでとりあえず朝食をとり部屋を片付けておくことにした。
とはいえ日頃から散らかさないように心がけているため掃除はすぐに終わってしまう。
時計を見るとまだ8時過ぎだった。
うーん。取り敢えず俺は荷物持ちをすればいいんだよな。
何だか落ち着かなかったが、彼女たちが来る前に飲み物やお菓子を用意しておこうと思い近所のスーパーに出かけることにした。
今までこんな朝からスーパーに行くこと無かったよな。
いつもと違う周囲の雰囲気に戸惑いながらもスーパーに着いた。
いくらなんでもこんな時間からスーパーに行く人はいないだろうと思っていたが今日はやけに人が多かった。どうしたんだろうと思っていると店内にアナウンスが流れる。それを聞いた俺はこの人の多さに納得した。
今日は12月31日。1年の最終日即ち大晦日なのである。
昨日小春ちゃんと電話した際に確認したはずなのにすっかり忘れていた。
せっかく来たんだし年越しそばとかおせち料理とか買っていくか。
まあ惣菜なんだけど。
1人なら別にいつも通りの食事でもよかったのだが今年は夕凪姉妹も来るわけだし、彼女たちのためにもと思い買うことにしたのだ。
それにしてもおせちの惣菜って結構高いな。
日頃そんなに金を使うわけでもなかったので今日だけ奮発してみた。
目当てのものも買い終えたことだし家に戻ることにした。
小春ちゃんからの連絡はまだ来ていない。
もしかして計画がバレたんじゃないだろうかと心配になるもこちらから連絡するわけにもいかなかった。
家に着き、冷蔵庫に総菜を詰め終えたタイミングで電話がかかってきた。
「もしもし」
「もしもし。小春です」
「待ってたよ。大丈夫そう?」
「ええ。バッチリです。お父さんも仕事に行って1時間ほど経ちましたし、お母さんもまだ寝ています」
「そうか、それはなにより。で、これからどうすればいい?」
「そうですね、取り敢えず昨日の路地裏辺りまで来てもらえますか?」
「わかった。また後で」
「着いたら電話ください」
いよいよか。一世一代の大勝負とまではいかないけど姉妹の運命を決める瞬間が訪れる。
数十分後、小春ちゃんが指定した場所に到着した。昨日の路地裏だ。
俺と小春ちゃんが初めて対面した場所でもある。
指示通り小春ちゃんに電話をかけてみる。
「もしもし。真白だけど」
「あっ、もう着きましたか?」
「うん。今どこら辺にいるの?」
「私たちももうすぐ着きます」
そういうやいなや路地裏の壁からひょっこりと顔を出してきた。
なんともかわいげな、どこかわくわくしているような表情だった。
その後ろにはもちろん葵ちゃんもいた。葵ちゃんはどこかバツが悪そうな表情をしている。
「2人ともよかった。無事に出て来れたんだね」
「おかげさまで」
「……」
葵ちゃんは浮かない顔をしている。まあ喧嘩別れというか、彼女が一方的に立ち去っていったから居心地が悪いのも無理はないだろう。その辺も含めて後でしっかり話さなければ。
「重かったでしょう。俺が持つよ」
「お願いします」
そう言って2人はそれぞれ荷物を預けてきた。2人とも結構大きなリュックを背負い、さらに肩掛けのバッグを身につけていたのだが、この肩掛けバッグが結構重かった。
小春ちゃんにいたってはランドセルも持ってきていた。
まあそうか、家から通うことになるんだもんな。
そうなった場合学校にはどう連絡すればいいのだろうかと思ったが今はとにかく家に帰ることにした。
「よし、行こうか」
俺は今来たばかりの道を戻る。大晦日の午前中だけあって出歩く人はあまりいないが目立つわけにもいかないためなるべく人通りの少ない道を選んだ。
「それにしても小春ちゃんはまだ小学生なんだろう?」
「はい。6年生です」
「しっかりしてるな。俺も見習いたいくらいだよ」
「ふふふ、そう言ってもらえて嬉しいです」
姉妹だからか笑い方も似てるな。でも言葉の割には淡々としているというかあまり嬉しくなさそうというか。緊張してるのかな。
それから雑談を交えながら何事もなく自宅近くまでたどり着いた。葵ちゃんは相変わらず浮かない表情をしていたが話には乗ってきてくれた。
「よし、着いた」
「ここが真白さんのお家ですか」
「ごめんね。こんなボロアパートで」
「いえ、住まわせてもらえるだけで充分です」
玄関を開け荷物を下ろす。もともと1人用の部屋が3人も訪れたことによってちょっと窮屈に感じられた。
「「お邪魔します」」
「どうぞ」
ひとまず落ち着いてもらおうと思い、お茶とお菓子を出すことにした。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきます」
「取り敢えずあの部屋を使ってもらって大丈夫だから。葵ちゃんが寝てた部屋ね」
そう言って襖の向こうを指さす。そこは物置と化していた6畳ほどの和室だった。
前回葵ちゃんと暮らしてた時にはそこが彼女の部屋となっていたのだ。
「いいんですか?」
「もちろん。この部屋は狭いし、2人だけの部屋があった方が落ち着くでしょ?」
「ありがとうございます」
お茶を飲んで雑談をし、一通り落ち着いた俺たちは持ってきた荷物をしまうことにした。
「って言ってもこの部屋も狭いんだけどね」
「充分ですよ。お姉ちゃんも大丈夫だよね?」
「う……うん」
まだ気にしてるのか。やっぱりここら辺で話し合った方がいいよな。
「小春ちゃん、ごめん。葵ちゃんと話してきていいかな?」
「わかりました。私は荷物の整理をしておきますね」
相変わらず話が通じる子で助かった。妹である彼女からしても姉の様子には思うところがあったのだろう。
小春ちゃんが隣の部屋に入っていったのを確認して俺と葵ちゃんはリビングのテーブルに向かい合った。
「葵ちゃん……」
「ごめんなさい。ここを出て行く時に酷いこと言ってしまって」
「やっぱりそのことか」
「真白さんは悪くないのに、これ以上お世話になるわけにはいかないと思って……
嫌われればもう関わらなくなるだろうと思って……」
「俺は気にしてないよ。結果的にまたこうして、ううん、小春ちゃんも揃って戻ってきてくれたし。それだけで俺は嬉しいよ」
「でも……」
相当気にしていたのだろう。俺が気にしていないと言ってもまだ俯いている。
だったら――俺の思いをぶつけるまでだ。
「俺はさ、やっぱり心配だったんだ。葵ちゃんが出て行った日も向こうで辛い思いをしているんだろうなと考えることしかできなくて。自分の無力さが嫌になった」
「そんなことないです! 真白さんは優しくて頼りになってそして何より色々なことを教えてくれた。私を信じてくれた」
葵ちゃんはパッと顔を上げ、声を張り上げた。その瞳は涙で潤んでいる。
「葵ちゃんが思ってるほど立派な人物かどうかはわからないけどそれでも力になれたならよかったよ。実を言うと俺も葵ちゃんに助けられてたんだ」
「私に?」
「そう。俺も今まで人に裏切られることがあってさ。それでも葵ちゃんは俺のことを信じてくれていた。それが救いになったんだよ」
「当たり前じゃないですか。私が真白さんに裏切られることはあっても私が真白さんを裏切るなんてことはもう絶対にしません!」
「嬉しいよ。でも俺は今後も葵ちゃんを、ううん、小春ちゃんも含めて絶対に裏切ることはしないし見捨てたりもしない」
「私も……もう裏切ったりしません。きっと小春もおんなじはずです」
「約束だよ」
そう言って俺は右手の小指を差し出す。
葵ちゃんは何のことかわからないように首を傾げていたが、納得したかのように頷き、右手の小指を絡めてきた。
指切り~で始まるその歌を口ずさみ、俺たちは互いに裏切らないことを誓った。
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