第5話 変な人

12月30日。今年もあと1日という日。

冬休みということもあり暇だった私は気分転換に近所のスーパーを訪れていた。


本当はショッピングモールとか行ってみたかったんだけどお金もないし、小学生である私の足ではあそこまでいくのはちょっときつかった。

それに最近は変な人が多いらしいからね。


そんなわけで1人でスーパーの店内を見て回り、100円のお菓子を買って帰っていたんだけどなんかつけられてるような感じがする。

後ろから視線を感じるというか、同じ間隔で歩いているような……


私は自分で言うのもなんだけど感覚が鋭いというか直感がよく当たる。

今回も当たってると思うんだけど……


そう思った私は後ろの人物を確かめるために路地裏に誘い込むことにした。

さあ、姿を現しなさい。手を出したりしたら通報してやるんだから。

お姉ちゃんはスマホを持ってないけど私にはおさがりのキッズケータイ? ってやつがある。

ゲームとかはできないからクラスの友達の話にはついて行けないけどね。

それでも電話くらいはできるし、防犯ブザーみたいな機能もあるから大丈夫でしょ。


路地裏に姿を現したのはやっぱり男の人だった。

20歳くらいかな? まだ若いような気がする。


「おじさん、私の後をつけてましたよね?」

「お……おじさん?」

「答えてください。場合によっては警察に通報しますよ」


おじさん呼ばわりされたことに驚いていたのか男は目をぱちぱちさせていたけど気を取り直したのか私の問いかけに答えてきた。


「確かに君の後をつけていた。それは認める。ただ1つ聞かせてくれないか」

「……何ですか」

「君は葵ちゃんじゃないんだろう?」

「なんでお姉ちゃんの名前を……」


しまった。気づいたときにはもう遅かった。これじゃあ私のお姉ちゃんだと認めているようなものじゃないか。どうしてこの男がお姉ちゃんの名前を知っているのだろう。


それから男は怖がらせてしまったことを謝罪し、私に伝言を頼んだ。

それは今起きている出来事をお姉ちゃんに話すことと希望を捨てないでくれという意味の分からないメッセージを伝えるというものだった。

男の言いなりになるのは嫌だったけどお姉ちゃんとの関係を知りたいのも確かだ。

家に帰ったら聞いてみることにしよう。


男は再度謝罪をした後、私にこんな危険な真似はしないようにと警告した後、かわいいと告げて帰っていった。

かわ……いい? 

不思議と嫌な気持ちはしなかった。

とにかく早く家に帰ろう。お姉ちゃんに聞かないと。

そう思った私は出てきた時よりもペースを上げて家に帰るのだった。


「ただいま」


よかった。まだお父さんは帰ってきていない。

私は手洗いうがいをして2階のお姉ちゃんの部屋に行ってみた。


コンコンコン


「お姉ちゃん? 入っていい?」

「いいよ」


お姉ちゃんは机に向かって冬休みの宿題を終わらせていたようだ。

私もそろそろ終わらせないと……


それから私はついさっき起きた出来事をお姉ちゃんに話す。

途中お姉ちゃんは驚いたような表情をしていたけど嬉しそうな、それでいて悲しそうな表情を浮かべていた。


「ってことがあったんだけど。お姉ちゃんの知り合いの人?」

「うん。たぶん真白さんだと思う」

「どこで知り合ったの?」


私が聞くとお姉ちゃんが家出をしていた時の話をしてくれた。

真白さんという人の話をするときのお姉ちゃんはいつもより嬉しそうな顔をしていた。


「そんなことがあったんだ」

「うん。だから真白さんは命の恩人? っていうのかな」

「私そうとは知らずに嫌な態度とっちゃったかも」

「真白さんなら許してくれるよ。……でも、そっか。出会っちゃったか」

「お姉ちゃん?」

「実はさ私が真白さんの家を出てきた時にもう関わらないでって言ったんだ」

「どうして」

「だってこれ以上真白さんにお世話になるわけにはいかないでしょう? それに小春のことが心配だったし」

「私のことなんて」

「ダメ。そんなこと言わないで。私たちは2人で1つみたいなものでしょ。優しい真白さんのことだからさ、絶対にあきらめてくれないだろうなと思ったんだ。それで出てくる直前にわざと嫌われるようなことを言ってきた。それでもまだ私のことを助けようとしてくれているんだね」


お姉ちゃんの話を聞いているとあの人はいい人なんだろうなということが伝わってくる。こんな小学生の私に対しても頭を下げていたし。

でもお姉ちゃんが取られたみたいでちょっとモヤモヤする。


ふと、私はある考えを思いついた。

これが受け入れられるかそして成功するかはお姉ちゃんしだいだ。


「お姉ちゃんはさ、真白さんと過ごして楽しかった?」

「そんなの楽しかったに決まってるじゃん」

「今の生活は嫌?」

「当たり前だよ。毎日痛い思いをして、父親の顔色をうかがう生活なんてもううんざり」


よかった。お姉ちゃんも私と同じ考えをしてくれていた。

だからこそこの作戦を実行できる。


「じゃあさ、あの人の家に逃げようよ」

「何を言ってるの。そんなことできるわけないでしょう。第一真白さんに迷惑なだけだし」

「できるよ。それに迷惑かどうかはあの人が決めることでしょ?」


そう言って私はキッズケータイを取り出す。あとはお姉ちゃんが連絡先を知っているかどうかだ。


「お姉ちゃん、あの人の連絡先知ってる?」

「確か、家にいる間に何かあったら連絡してって言われて携帯の番号が書かれた紙をもらったような……」


お姉ちゃんが立ち上がり、家出をした日に持っていたバッグを漁り始める。


「うーん……あった!」

「見せて」


番号をケータイに打ち込み、登録する。

後はあの人に連絡するだけだ。


「お姉ちゃん、本当に悔いはないよね」

「うん。私だって真白さんと一緒の方がいいに決まってるよ」


お姉ちゃんの言葉を聞き、あの人に電話をかけてみた。

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