第4話 邂逅

翌日。今日も葵ちゃんが来る前のルーティンをこなし、大学のつまらない講義を受けていた。なんで冬休みなのに補講があるんだよと思いつつも休んだ俺のせいかと結論付けてみる。


葵ちゃんの一件で大学での学びは実用的だということが分かったもののやっぱり興味のないことに変わりはなかった。



講義も終わり、帰宅している途中であった。

反対車線の歩道に何やら見知った顔の少女が歩いていた。


あれは葵ちゃんか? 中学校は冬休みのはず……ただの外出か。

でも葵ちゃんにしてはちょっと背が低いような、それに髪型ツインテールだし。

気分転換でもしているのだろうか。


でもこれはチャンスなのでは? 

彼女の後をつけていれば家を把握することができる。

そうすれば彼女たちを救出する作戦も立てやすい。


ストーカー? いや、見方によってはそうなるだろうが彼女たちを助けるためだ。


一瞬、真っ当な人間のすることではないと思ったが生憎俺は真っ当な人間として生きてきたわけではないし、それに彼女たちを助けたとしてその親は虐待をしているのだ。

通報したとしても自分たちが不利になるだけだろう。


そんな言い訳ともとれる考えを浮かべながらも葵ちゃんらしき人物の後をつけることにした。


なんか探偵みたいだな。いや、決してストーカーではないぞ。

少女と一定の距離を保ちながらも後ろをつけていく。

緊張するな。昔こんなゲームなかったっけ。


ある程度進んだところで人気のない住宅街へやってきた。

多分まだバレてないだろう。住宅街に来たってことは家はこの辺りか?


と考えていると急に少女が足を早め始めた。


「しまった……」


バレたか? そう思いながらも見失わないように注意する。

すると少女は路地裏へと進んでいった。


どうする俺。仮にこの路地裏が行き止まりなら少女に見つかってしまう。

でもここまで来たなら行くしかないか。

そう思い路地裏に進むことに決める。

その先には――


こちらを振り返り両手を腰に当てながら睨んでいる少女の姿があった。


「おじさん、私の後をつけてましたよね?」

「お……おじさん?」

「答えてください。場合によっては警察に通報しますよ」


葵ちゃんによく似た少女は葵ちゃんではなかった。

警戒しているのか睨みをきかせたまま俺に問いかけてくる。

その体は緊張しているのか震えていた。


「確かに君の後をつけていた。それは認める。ただ1つ聞かせてくれないか」

「……何ですか」

「君は葵ちゃんじゃないんだろう?」

「なんでお姉ちゃんの名前を……」


そこまで言って、しまったと言わんばかりに口をつぐんでしまう。

やはりそうか。今目の前にいる少女こそが葵ちゃんの妹。夕凪小春ちゃん。

俺が遠目から見て葵ちゃんだと思ったのは姉妹だったからだ。


実際近くで見ても似たような顔だちをしている。姉妹そろってかわいらしい顔をしている。

ただ違うのは髪型がツインテールであること、それから背が低く、どちらかというと活発というか物怖じしないような雰囲気を纏っていることだ。


「やっぱりそうか。じゃあ君が夕凪小春ちゃんだね」

「私の名前まで知ってるんですね。やっぱりストーカーですか」


警戒を強めたように目を細める少女。

本人は気づいていないだろうがそれは言外に夕凪小春であると認めているようなものだ。


「怖がらせてしまったのならごめん。でも安心してほしい。俺は君に、いや君たちに危害を加えるつもりはない」

「信用できると思いますか?」

「できないだろうね。少なくとも俺だったら信用しない」

「……」


どうする。ここでバレてしまったからにはこれ以上家を特定するのは困難だろう。

だが同時にチャンスでもある。小春ちゃんに伝言を頼んで葵ちゃんに俺の存在を認識してもらえば助けやすくなるのではないか。でも葵ちゃんはスマホを持っていなかったし連絡手段がない以上先に進むことはできないのだが……


「君に頼みがあるんだ」

「内容によりますね」

「君のお姉ちゃんにこの出来事と希望を捨てないでくれというメッセージを伝えてほしい」

「どうして私がそんなこと……」

「君にしか頼めないんだ。頼む。お願いします」


そう言って頭を下げる。確か小春ちゃんって小学6年生くらいだったよな。

傍から見ればこの光景は小学生に向かって頭を下げる大学生くらいの男というわけだ。

なんとも滑稽な光景だ。


「……私がちゃんと伝えるとは限りませんよ」


それでいいんだ。だってその返事こそがちゃんと伝えると言っているようなものじゃないか。

小学生らしく意地を張っているのかもしれないな。


「それでいい。じゃあ俺はこれで。あと俺が言うのもなんだけどさこんな路地裏に誘い込むのは危ないよ。相手がどんな奴かわからないし、何よりかわいいんだから警戒しないと」

「か……かわ……?」

「怖がらせてしまってごめんね。それじゃあ」


バレたときはどうなることかと思ったが俺は必要なことを終えてその場を後にした。

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