第2話 小春の心境
数日前、突然お姉ちゃんが家を出て行ってしまった。
当たり前だろう。だってお姉ちゃんはお父さんから暴力を受けていたのだから。
誰だって逃げ出したくなるはずだ。そんなことはまだ小学生である私にも理解できる。
お姉ちゃんが家を出て行った日。いつも通り帰宅してきたお父さんはお姉ちゃんがいなくなったことに対してとても怒っていた。それは多分、勝手に家を出て行ったからという心配じゃなくて、自分のストレスの捌け口が無くなったことに対しての怒りだったんだろう。
とにかくいつも以上に怒っていたお父さんはお母さんに対しても暴力を振るった。
そんな光景を見てしまった私はその場から逃げ出し、自分の部屋にこもっていた。
お母さんを助けられなかった自分を怨みながら布団に潜った。
1階からはお父さんの罵声とお母さんの悲鳴が聞こえてくる。
もう嫌だと思った。どうしてこんな家庭になってしまったんだろう。
今のお父さんも最初は優しく接してくれた。
今だって朝はなんともないかのように振る舞っている。
だけど仕事から帰ってくると人が変わったかのように暴力を振るう。
標的はいつもお姉ちゃんだった。
泣き叫ぶお姉ちゃんに対して快感を得るかのようなあの表情。
虐待をするときのお父さんの表情は私の脳に焼きついていた。
翌日からお父さんは私にも手を出すようになった。
わかっていたことだ。いずれ私も殴られる日が来るんだと。
罵声を浴びせながら髪を引っ張るお父さん。
とても痛かった。気を抜けばすぐにでも泣いちゃいそうだった。
でも私は我慢した。絶対に泣かない。
これは今までお姉ちゃんに対する暴力を見て見ぬ振りしてきた自分に対する罰なんだ。
私の反応が気に入らないのかお父さんは余計に不機嫌になった。
それでも私は我慢した。これまでお姉ちゃんが受けてきた痛みに比べればちっぽけなものだ。
お姉ちゃんは絶対に帰ってくる。私を見捨てたりなんかしない。
でも、それでどうする?
お姉ちゃんが帰ってくるまで耐えると考えている時点でお姉ちゃんにお父さんの相手を押し付けるようなものだ。
お姉ちゃんが帰ってきても前みたいな日々に戻るだけで何も解決しない。
それを知ったとき、私は絶望しかけた。
でも希望は捨てない。お姉ちゃんさえ帰ってくれば何か変わるんじゃないか。
そうでも考えないと私はこの苦痛な日々を耐えきれなかった。
結局、お姉ちゃんは数日経っても帰って来なかった。
最初は2、3日もすれば戻ってきてくれると思っていた。
でも一向に帰ってくる気配がない。誰かに連れ去られたのだろうか、それとも怪我や病気で倒れてしまっているのだろうか。お姉ちゃんが心配だった。
だけど小学生である私には何もできない。考えることしかできない私は自分の無力さが嫌になった。
毎日お姉ちゃんのことを見過ごしてきた罰を受ける。
心休まる時間は学校にいる時だけ。放課後になると毎日手足が震えていた。
そうして今、ようやくお姉ちゃんが帰ってきてくれた。
お姉ちゃんは覚悟を決めたような清々しい顔をしている。
家を出て行った時に何かあったのかな。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。私お姉ちゃんが苦しんでるのに見て見ぬ振りしてた」
「いいの。小春は悪くない。まだ小さいんだもん、苦しいことはお姉ちゃんが引き受けないと」
「でも!」
「大丈夫。心配しないで」
お姉ちゃんはそう言っていたけどこれ以上暴力を受け続けたら絶対に壊れてしまう。
だからお姉ちゃんに相談することに決めた。
どうやったらお父さんを止められるのかについて。
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