第13話 クリスマスプレゼント?

「それで最後はどこなんですか?」

「温泉って書いてある」

「商店街の中に温泉なんてあるんですか?」

「いや、普通はないと思うけど……この商店街が特別なのかな」

「まあ、行ってみましょう!」


前々から思ってたけど一番最初に出会った時と比べてすごいテンションが高くなったというか、こっちが葵ちゃんの素の性格なのかな?

少々積極的ではあるけど明るい性格の方がいいか。


地図に従ってしばらく商店街の中を歩いていると目的の温泉に到着した。


「へぇ、本当にあったんだ」

「雰囲気いいですね」


確かに老舗温泉宿みたいな雰囲気を出している。

木造だからそう見えるのだろうか。

上の方には温泉らしく白い湯気がのぼっていた。


「今度入りに来たいね」

「いいですね! また来ましょう!」


スタンプラリー最後のスタンプは温泉饅頭のイラストであった。


「この温泉饅頭目がついててかわいいですね」

「そうだね」

「よーし、全部揃いました! サンタのおじさんのところに戻りましょうか」

「うん」


確かスタンプを4つ集めたら福引が引けるんだったよな。

景品が気になるところだけど、まあそうそう当たらないか。

なんせ俺、真白壮馬は人生において福引というものを当てたことがない。

よくて箱ティッシュだ。そんなわけで今回も当たるわけないと踏んでいる。

まあこういうのは結果よりも福引をするという行為の方が大事なのかな?


「おっ、戻ってきたな? ほれ、これが福引券だ。今回は特別サービスで2枚にしといてやるよ」

「いいんですか?」

「おうよ。せっかく兄妹揃ってるんだから別々に引きたいだろ?」

「ありがとうございます」

「いいってことよ。それより福引会場はあっちだぜ」


おじさんはそう言って遠目から見てもかなり目立つ赤いテントを指さす。

俺たちはおじさんに礼を言って会場に向かうことにした。

福引券を2枚もくれるなんてありがたいな。


「真白さん、福引当たるといいですね!」

「そうだね。ティッシュ以外ならなんでもいいよ」


会場に着くとこれまたやたらとテンションの高いサンタの格好をした女性が出てきた。


「こんにちは! 福引ですね? さあどうぞ」

「真白さんから引いちゃってください!」

「わかった。いくよ」


ガラガラ。周囲には抽選器を回す音が響く。

さあどうだ? さすがにティッシュは嫌だぞ?



「……残念! 参加賞のティッシュです」

「ああ……」

「真白さん、元気出してください。次は私ですね」


やっぱりか。

てか人生で一度でも福引当たったことがある人ってどれくらいいるんだろうか。

そう多くはないはず……

そんなことを考えながら葵ちゃんの福引を見守る。


ガラガラ。


ん? 金色? まさか。


チリンチリン!!


突如鳴り響く大音量のベルに道行く人は何事かと視線を向けてきた。

そんな視線などお構いなしに女性が大声で告げる。


「おめでとうございます! 特賞のペア宿泊券です!」

「「えーっ!?」」


葵ちゃんは自分でも驚いたような表情をしていたが女性の言葉を聞きだんだん笑顔になる。

そしてこちらを振り返り、


「真白さん! やりました!」

「すごい! ほんとすごいよ!」


すごいとしか言いようがない。1等でもすごいのに特賞とは。

それにしてもペア宿泊券か。行き先はどこなんだろう?


「はい、こちらが宿泊券です。楽しんできてくださいね!」

「ありがとうございます!」


祝福の言葉をかけられながら抽選会場を後にした俺たち。

隣を歩く葵ちゃんが受け取った宿泊券の詳細を確認する。


「えーっと、行き先は温泉旅館だそうですよ?」

「温泉か。さっき行ってみたいって話してたところだしちょうどいいかもね」

「はい! 楽しみです」


今日は商店街に来て正解だったな。

冬は寒いから外出が億劫だけどたまにはこうやって外に出るのも悪くないかも知れない。


「真白さんと温泉っ♪ 真白さんと温泉っ♪」


隣に並ぶ葵ちゃんは宿泊券を大事そうに握ってそれはもうルンルンだった。

おまけにへんな歌まで作ってるし。

今まで不幸だった分世界も葵ちゃんに味方してくれているのだろうか。

そう思うほどに順調な生活だった。


「帰ろうか」

「はい! 今日はいいプレゼントも貰いましたし。あっ、もちろん真白さんからのプレゼントも大事ですよ?」


そう言って自分の前髪を指さしてくる。

そこには昨日俺があげた髪留めがつけてあった。

気づいてはいたけど自分があげたものを使ってくれるのはうれしい。


「気に入ってもらえたようでうれしいよ」

「はい! この髪飾りは私の宝物です」


ニコッと微笑みかけてくる葵ちゃん。この瞬間を大切にしたい。

そう思ったのだった。



家に帰ってからも葵ちゃんはごきげんだった。

早速温泉旅行が楽しみなようだ。


「ところで旅行の日付とかは決まってるのかな?」

「この旅行券には何も書いてませんね」

「じゃあ俺たちで決めていいってことかな」

「たぶんそうだと思います」


温泉旅行か。よく考えると俺も数回しか行ったことないな。

どれも小さい頃に家族と行ったものばかりだし。


旅行の日付が指定されていないというのはありがたかったが同時に予定を組まなければいけないという煩わしさがあった。

いやいや、せっかく葵ちゃんが楽しみにしているんだしこんなことを考えるのはよくないな。


うーん、今日は12月25日。クリスマス。

あと1週間もしないうちに大晦日がやってくる。

それから新年を迎えて……となると大学も始まってしまうし冬休み中には行っておきたいよな。


ここでさらに気づいてしまう。葵ちゃんの学校どうするんだ?

以前聞いた話だと学校には通えていると言っていたし、両親による虐待から逃れられる場所として学校は葵ちゃんにとって心の拠り所だったのかもしれない。

でも鞄とかは家に置いてきたままだろうし。


まあ今考えてもしょうがないか。冬休みが開けるまでに解決策を用意しておくとしよう。


「葵ちゃんは旅行にいつ行きたいとか希望はある?」

「うーん、なるべく早い方がいいです」


そうだよな。こんなに楽しみにしているんだし待ち遠しいはずだよな。

だとすれば大晦日までの間に行くか。さすがに明日はきついだろうし。

そうなれば……


「じゃあ明後日とかどうかな?」

「わかりました!」


目をキラキラと輝かせ興奮した様子で顔を近づけてくる。

年が離れているとはいえ相手は女の子、こちらは男であるわけで……

耐性のない俺にはいささか刺激が強すぎた。


「ふふふ、真白さんと温泉旅行。楽しみにしてますね!」


間近でそんなことを言われた俺は今日がクリスマスであることなどとっくに忘れて経験したことのない感情に包まれるのであった。

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