第14話 いざ温泉旅行へ
クリスマスから早くも2日が経った。
俺たちは偶然訪れた商店街で偶然手にした旅行券によって温泉旅館へ行こうとしていた。
……のだが俺はなぜか近所の公園に立っていた。
昨日の夜葵ちゃんからこの公園で待ち合わせましょうと言われた俺は理由も聞けぬまま言われた通りに待っているのだった。一体どうしたというのだろう。
5分ほどして、暇つぶしにスマホを眺めていた俺のもとに聞きなれた声がかけられた。
「お待たせしました、真白さん」
「あ……ああ」
振り返るととてつもない美少女が立っていた。
髪型、顔、体型といつもの見知った葵ちゃんのままだった。
でも……服装が変わっていた。
そう、葵ちゃんが来ていた服は俺たちが2人で初めて外出をした時に買った暖かそうなニットとデニムパンツだったのだ。
「じゃーん! びっくりしましたか?」
「うん。本当に驚いたよ。今日のために着てきてくれたんだね」
「そうなんですよ。真白さんを驚かせようと思って」
「なるほどだからあえて待ち合わせをしたのか」
ようやく待ち合わせの理由がわかった俺は納得して駅に向かい始めた。
相変わらず手を繋いで歩く俺たち。もはや外出時にはこれが定番となっていた。
「温泉楽しみですね。初めて行くかもしれません」
それを聞いた俺はふと疑問に思った。
そしてその疑問をぶつけてみた。
「あれ? 修学旅行とかで温泉行ったことない?」
「え? ああ、修学旅行行ったことないんですよ私」
「どうして」
「そうですね一言で言えばお金がなかったから?」
それを聞いて俺は納得した。
おそらく葵ちゃんの両親が修学旅行の費用を払ってあげなかったのだ。
確かにお金がないのはしょうがない。
だけどかわいい娘のためならばどうにかしてあげるのが親ってもんじゃないのか?
それともすでに娘に対して愛情を欠いていたのか?
俺はその話を聞いて腹が立ってきた。
自分でも珍しいとは思う。
誰かのために怒りを抱くなんて。
それでも、ここまで一緒に過ごしてきたから葵ちゃんがどれだけいい子なのかわかる。
彼女にはこれ以上の不幸はいらない。救われて欲しかった。
「……ごめん。嫌なこと思い出させて」
「全然大丈夫ですよ! そんな悲しそうな顔しないでください。私は今こうして真白さんと温泉に行けることが楽しみなんですから!」
「……葵ちゃん」
彼女はなんて強いのだろうか。過ぎてしまったことは過去だと割り切っている。
それに比べて俺は……まだあの時のことを引きずっているのか。
なんだか情けなくなってきた。
「とにかく、今は旅行を楽しみましょう!」
「そうだね」
葵ちゃんの言う通りだ。ここに来てまでこんな暗い話したくはないよな。
それから俺たちは気分を一転させ、電車に乗り込んだ。
温泉旅館は俺たちの最寄駅から5駅ほど離れた場所にあるらしい。
なんでも真冬の露天風呂から見える星空が絶景だとか。
ペア宿泊券ってことはもちろん同じ部屋で過ごすんだろうけど入浴時とか葵ちゃんを1人にするのはかわいそうだよな。いや、もう中学生だし俺が過保護すぎるだけか?
「見てください!」
そう言われ、窓の外に目を移す。
「うわぁ、すごい」
そこには近年では目にする機会が少なくなった大自然が広がっていた。
辺り一面が緑色。電車は進んでいるはずなのに外の景色は変わらない。
とてものどかな町だった。
「もうすぐで着くんですよね。楽しみです!」
「ああ、そうだね。俺も楽しみになってきたよ」
目的の駅まではあと1つ。
正直ただの温泉街なら大したことないだろうと思っていた。
だが想像以上に自然豊かな、いい景色を見たことで俺もわくわくしてきた。
「ふふふ、真白さんも楽しそうでよかったです」
「そうかな? 葵ちゃんと出かけるときは楽しんでるつもりだけど」
「うーん、何というか真白さんは表情に変化がないというか。いっつも悩んでるような雰囲気だから私といても楽しくないのかなと思う時があるんですよ」
「そんなことないよ!」
「ふふふ、わかってますよ。それでも今日はいつもより笑ってるというか、なんだか楽しそうな感じがします」
「そうか。よく見てるんだね俺のこと」
「もちろんです!」
きりのいいところでアナウンスが流れる。どうやら目的地に到着したようだ。
俺たちが住んでいるところは割と田舎だが、ここの駅も似たような雰囲気をまとっている。
なんというか昔ながらの無人駅というかとにかく人混みが苦手な俺のような人間にとってはうれしい構造をしていた。
「さあ、いきましょう!」
葵ちゃんの掛け声とともにここから数km離れた旅館まで歩くことにした。
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