第12話 クリスマスのお出かけ

翌日。

今日はクリスマス当日だ。

実のところクリスマスイブとクリスマスの明確な違いを理解していない俺は2日ともクリスマスとして扱っている。


大学も冬休みに入ったことだし暇を持て余していた俺は葵ちゃんを連れて隣町をぶらつくことにした。もちろん葵ちゃんも承諾してくれた。


「うわぁ、すごい人だかりですね」


今は隣町の商店街にいるところだ。

この商店街はわりと有名なのだがインドア派な俺は1人で商店街を訪れることなどまずないので今日初めて訪れていたのだ。


クリスマス当日ということもあってかいたるところにカップルの姿が見受けられる。みんな楽しそうな表情をしていた。


「そうだね。やっぱり今日来るのは間違ってたかな」

「どうしてですか? せっかくのクリスマスなんですし、私は真白さんとデート出来てうれしいですよ?」

「葵ちゃんがうれしいならよかったよ。でもはぐれないようにね」

「じゃあ、手をつなぎましょう!」


そう言って葵ちゃんは手を差し出してきた。

まあ、はぐれるのに比べれば手をつないだ方がいいか。

そう思い手を取る俺。

外はこんなにも寒いというのに葵ちゃんの手は温かく、そして柔らかかった。


「真白さん、私たちも周りから見たらカップルみたいに見えますかね?」

「それはないんじゃないかな? どちらかというと兄妹じゃない?」

「むぅー。確かにそうかもしれないですけど……真白さんは乙女心がわかってないですねぇ」


そう言って頬を膨らませる葵ちゃん。怒った表情もかわいらしい。

乙女心ね……それが理解できるのは乙女本人か相当な手練れだけなんだよなぁ。

少なくとも俺みたいに女性と関わってこなかったヤツにとっては理解できないモノなんだよ。


「真白さん! あそこ見てください。イベントやってるみたいですよ」

「どれどれ? 確かに何かやってるみたいだね」

「行ってみましょうよ!」


葵ちゃんが指さした先にはサンタの格好をしたおじさんとトナカイの着ぐるみがいた。格好からしてクリスマス関連だとは思うが一体何のイベントだろうか。


「いらっしゃい! ただいまクリスマスイベント開催中だよ!」

「すみません、ここではどんなイベントをやってるんですか?」

「おっ! 兄妹かな? 仲いいねぇ」


おじさんが渋い声で返答する。

サンタの格好をしていなければザ・八百屋のおじさんって感じだ。


それにしてもやっぱり傍目から見ると俺たちは兄妹に見えるらしい。

葵ちゃんは不服そうな目でおじさんを見つめていたがおじさんは気にせずに続ける。


「スタンプラリーをやってるんだ。この商店街にある4つのポイントでスタンプを押したらクリア。福引が1回回せるようになるってわけだ」

「なるほど。やってみる? 葵ちゃん」

「面白そうですね、やりましょう!」

「あいよ! これが用紙で、こっちがマップだ。楽しんで来いよ!」


スタンプラリー台紙と商店街の地図を受け取りやたらと威勢のいいおじさんに見送られながら1つ目のポイントへと向かうことにした。


にしてもよくあんな元気を保ってられるな。

大方、商店街を盛り上げるためのイベントだろうけどあのおじさんの体力は見習いたいものだ。


「ええっと、1つ目のポイントは八百屋か」

「八百屋さんですか。さっき見かけたような気がしますね」

「うん、マップを見る限り葵ちゃんが言ってるところだと思うよ」

「早速行ってみましょう!」


葵ちゃんもサンタのおじさん並みにテンションが高いな。

俺の手を引っ張りながらぐいぐい進んでいく。


「ありました! スタンプどこかな~」


先程来た道を戻っていた俺たちは八百屋に到着した。

この八百屋は商店街の中でもわりと大きな店を構えている。

店を支える柱とシャッターにできた赤錆が歴史を感じさせるいい雰囲気の店だ。

そんな店のすぐそばにスタンプラリー台が置いてあった。

それを見つけた葵ちゃんが台紙にスタンプを押す。


「じゃーん、見てください! 野菜たちですよ」

「おお、すごいな」


スタンプには八百屋らしく大根やキャベツといった代表的な野菜が彫られていた。

なぜか野菜たちは擬人化していたのだが……


何はともあれ、次のスタンプを探すべきだろう。


「えーっと、次のスタンプは……魚屋か」

「魚屋さんですか」

「ここの向かい側にあるみたいだね」


地図にはそう書いてあった。

それに従って向かい側を見渡してみる。


「あれですかね?」

「……たぶんそうだね」


看板を見るに確かに魚屋なのだがそこにはでっかい水槽が置いてあり

申し訳なさそうにそびえたつスタンプ台が隣り合っていた。

しかも水槽内にはカニが住み着いていた。


「私、あんな大きいカニ初めて見ました」

「俺も初めて見たなぁ」


そのカニは俺の両腕くらいあった。

どれだけ育てればあんなバケモノみたいなカニが生まれるんだ……カニには申し訳ないけどおいしそうとは思えない。


「どうですか? カニさんのスタンプですよ?」

「魚屋の名物なのかな?」

「次はどこでしょう」

「次は服屋だね」


ってかこれ! 商品を買わせたいだけなんじゃないか?

まあ商店街でのスタンプラリーといったらこんな形をとるしかないのか。


相変わらずつないだ手を規則的に揺らす葵ちゃん。

今日も楽しんでもらえてなによりだ。


「着きました!」


商店街にはいくつかの服屋があったがスタンプ台が置いてあるのを見る限りここであってるらしい。最初の八百屋に負けず劣らず歴史を感じさせる服屋だった。


「今回は洋服のイラストですね!」

「うん。次が最後か」

「最後はどこでしょう」

「うん?」


俺は目を疑った。あれ? ここって温泉街だっけ? 

確かこの近くには温泉もないはずだよな。


最後のポイントはなんと……温泉だった。


地図を見る限り商店街の中に温泉があるのか。珍しいな。

そう思いながら歩みを進めるのだった。

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