第3話 家出少女③
俺は見知らぬ少女と一緒に真冬のコンビニの前に座っていた。
周りから見れば何やってんだと思われるかもしれないがそもそも周辺には店員しかいないので問題ない。
「ところで寒くない? ここ」
「寒いですよ。冬ですから」
俺の質問に少女は冗談で応じるがその体はやっぱり震えていた。
仮に昨日からここにいるとすればかなり危険な状態なんじゃないだろうか。
どこか体を温められそうな場所はないものか。
この辺りにはネットカフェみたいな施設もなかったはずだし……
というかそんな施設があればこの少女もそこに行っているだろう。
まあそれでも中学生の財力ではせいぜい数日ぐらいしか泊まれないだろうが。
「そういう意味じゃないんだけどなぁ。今朝は見かけなかったけどどこにいたの?」
「やっぱりストーカーじゃないですか」
「だから違うって……」
「今朝は駐車場の裏で寝てました。バカですね私、ひざ掛けくらい持って出てくればよかった」
少女は自嘲に満ちた表情で語る。
あきらめたような笑いを浮かべて俯いているがもう誰にも期待しない、他人は信じないという表情はいまだに変わらない。
そんな表情を浮かべる少女を見ているとますます放ってはおけなくなった。
お金をかけずに温まれる場所……そうだ!
うってつけの場所があるじゃないか。
「なあ俺の家に来ないか」
「……ナンパですか?」
直球すぎたか。
昔から遠回しな表現が苦手なのでどうしてもこんな表現になってしまう。
日本語って難しいな。
「違うよ。今晩だけだ。寒いだろ? ここ」
「そんな見え透いた嘘つかなくてもいいですよ。私は別に大丈夫です。その心配は私以外に向けてください」
他人を信じない故の極端なまでの自己犠牲。
俺の家なら
そんなことを言われてもこんなに震えている少女をおいて行けるわけないじゃないか。
「あいにくと俺は人助けをしない主義なんだ」
「……はぁ?」
「だから君には1日だけ俺のわがままに付き合ってもらうよ」
そう言って俺は少女を抱きかかえる。
右手を背中にまわし、左手を膝の裏辺りにもってくる。
所謂お姫様抱っこの形だ。
昨日からここにいるからだろう、少女の体は氷のように冷え切っていた。
「ちょ……ちょっと!? 何してるんですか! 離してくださいよ!!」
いきなり抱きかかえられたことに相当びっくりしているのか少女は俺の腕の上で暴れ始める。
その様子が聞き分けの悪い幼児みたいでちょっと微笑ましいと思ってしまった。
「ごめん、それはできない。ここまできて今更帰るなんて俺には無理だね」
「何勝手なことを!」
やがて少女はおとなしくなる。
暴れても無駄だと悟ったのであろう。
その瞳はより一層暗く濁っていた。
どうせ死ぬならこの男に好きなようにされるか。
そんなあきらめが見えたような気がした。
そんなことしないってのに。
「着いたよ」
「……」
コンビニから徒歩5分。
そこには俺の家であるボロアパートがあった。
「さあ中に入ろう」
少女はしぶしぶといった様子で俺の後ろをついてくる。
えっ? お姫様抱っこはどうしたのかって?
腕が痛いから途中で降ろしたよ。
別に重かったとかそういうわけではない。
どちらかといえば小柄な方だし軽かった。
俺が単純に運動不足なだけだ。情けない。
「……おじゃまします」
「どうぞ。あっ、お茶入れるから適当に座ってて」
「……」
2部屋あるうちの1つ、基本的にリビング兼寝室として使っている部屋に案内した。
6畳ほどの狭い空間だが一人暮らしにはちょうどいい。
尤も少女が来た今ではちょっと狭く感じるが。
「はい、温かいお茶。寒かっただろう?」
「この部屋もあまり変わらないような……」
「ハハハ、隙間風が入り放題だからね!」
「それ自慢げに言うところですか?」
彼女が目を細めてツッコミを入れてくれる。
出会った時より心を開いてくれたようだ。
「お風呂沸かしてくる」
「……」
少女が少しでも温まれるようにと俺は風呂を沸かすのだった。
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