キスの続きは午前0時から
三郎
本編
ちゅ、ちゅ……というリップ音、舌が絡み合う水音、そして熱い吐息が部屋に充満する。
「んっ……っ……」
「……っ……可愛い。好きだよ」
5月23日。今日はキスの日らしい。
『というわけで、今日はキスしかしません』
その宣言通り、彼女は私の身体に一切触れてくれない。身体が疼いてしかたないのに、彼女の手は頭を撫でるだけ。もどかしくてしかたなくて彼女の身体に手を伸ばす。触れかけたところで彼女の手に絡め取られ、頭の上でまとめられてしまった。
彼女はにこりと笑い、私の腕を押さえたまま一点を指さした。その先に視線を向ける。時計の針が午後の11時を指している。日付が変わるまで、あと一時間。
「こっち向いて」
「……やだ」
抵抗も虚しく、強引に顔の向きを変えられて唇を奪われる。
「知ってる?一分間のキスで消費するカロリーは約6キロカロリーなんだよ」
そんなどうでもいい雑学を交えながら、彼女はひたすら私の唇を貪る。酸欠にならないように、適度に息継ぎを挟みながら。
「っ……」
「気持ちいいね」
「……触ってほしい……」
「あと50分」
「酸欠で死んじゃ——んっ……っ……」
「……分かったよ。しょうがないな」
ふぅとため息を吐くと、彼女は私の上から降りてベッドの下からファーがついたファンシーな手錠を取り出してきた。
「はい、お手手だして」
起き上がり、素直に腕を差し出すと、かちゃんかちゃんと手首に手錠がはめられた。
「痛くない?」
「……うん」
「痛くなったら言うんだよ。本番までまだ40分もあるからね」
彼女はそう悪戯っぽく笑って、ゆっくりと私をベッドに押し倒す。手錠で拘束された腕は頭の上で固定され、彼女に触れたくても触れさせてもらえない。
「目隠しも追加していい?」
「……時間が見えないじゃない」
「だからだよ。時間ばかり気にしないで私に集中してほしいから」
「……貴女、時間誤魔化すでしょう」
「誤魔化さないよ」
スマホを取り出すと、タイマーをかけて私に見せた。
「私を信じて」
「……もう好きにして」
「ふふ。ありがとう」
何も見えない真っ暗な闇の中、彼女と吐息を交換しあいながら、ただただ時間が過ぎるのを待つ。
「あと30分だよ。頑張って」
5分おきにカウントダウンされるたびに、鼓動が速まり、体温が上昇する。触れてほしくて仕方ないのに、どれだけ懇願したって彼女は本番までの残り時間を教えてくれるだけ。
「ふふ。私も今、君に触れたくて仕方ないよ。一緒に耐えて、いっぱい気持ちよくなろうね。ほら、頑張った後のご飯っていつも以上に美味しいでしょう?」
「っ……馬鹿……変態……っ……」
悪態をついて蹴りを入れても無駄だ。彼女はこうなったら妥協なんてしてくれやしない。そんな彼女の遊びになんだかんだ言いながら付き合ってやる私も私なのだけど。
「さぁ、もうあと五分だよ。頑張ろうね」
「んぅっ……む……」
ここまで、彼女は私の身体に指一本触れていない。だけど、目隠しをされて焦らされて限界まで高められた感度のおかげで、キスだけでもう絶頂まで達してしまった。それを察した彼女は「まだ本番はこれからなのに。あとちょっとくらい我慢出来なかったの?」と意地悪く囁いた。
「あと一分だから手錠外すけど、タイマーが鳴るまではどこも触っちゃ駄目だからね」
そう言って彼女は私の手錠を外した。自由になったものの、ボーっとして頭が上手く働かない。
視界に淡い光が差す。ベッドサイドの明かりに照らされて、愛しい彼女が憎らしい笑みを浮かべた。
「10、9、8、7——」
カウントダウンと共に、私の服を脱がせていく。
ゼロになると同時に、スマホのタイマーが遊びはおしまいだと告げた。
タイマーを切り、彼女は笑う。
「さぁ、キスの続きをしようか」
キスの続きは午前0時から 三郎 @sabu_saburou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます