第9話 アラモ砦攻防戦1
「おい、今、あそこで何か動かなかったか」
「気のせいだろ、何も見えないぞ」
アラモ砦の西側に位置する第5監視所のダニエル伍長は、同僚のハッサン上等兵にそういうと、飲みかけのコーヒーを放り出して、コンクリートでできたバンカーから、光学双眼鏡で、漆黒の闇に包まれた砂漠のほうを覗き見た。
距離が遠いのと遮蔽物、有刺鉄線のせいで、はっきりとは分からないが、確かに何かがそこにいる。
「あそこだ、ライトを点けろ」
ダニエルが指さすほうへ、ハッサンはライトの光を向けた。
サーチライトで照らされた地面は波のようにうねっている。
「確かに何かいるぞ、司令室に連絡しろ」
ダニエルに言われ、ハッサンは受話器をとり、戦闘司令室の交換手に大声で叫んだ。
「こちら、第5監視所のCR8718・ハッサン上等兵です。砦の西300メートル方向の地雷原の向こう側に移動する物体がいるもよう。照明弾の使用許可を求めます」
交換手から、連絡を受けた当直のカミンスキー中尉の対応は早かった。
「こちら、カミンスキー中尉だ。照明弾の使用を許可する」
使用するとき、大きな音がする照明弾発射には上官の許可が必要なのだ。
ダニエル伍長は照明弾をバンカーから斜めに空に向かって発射した。
目の眩むような閃光の後、辺り一面昼間のように明るくなった。
そこには数千匹のⓇの群れが、見渡す限り、そこらじゅうに溢れかえっていた。
「ちくしょう、Ⓡの大群がいやがるぞ」
後、半年で退役予定なのに。自分の不運さを一瞬呪ったあと、ダニエルは再び、司令室に連絡を入れた。
「こちら、第5監視所、地雷原前方約50メートル地点にⓇの大群を確認」
「数は」
カミンスキーはすかさず、敵勢力の数を訪ねた。
「わかりません。最低でも2千、いや3千以上だと思われます。射撃許可と、支援砲撃を要請します」
ダニエルが連絡している間に、ハッサンは監視所のバンカーに取り付けてあるⅯ601軽機関銃のチャンバーに実弾を装てんした。
「許可する。ただちに敵勢力を攻撃せよ」
カミンスキーから、攻撃命令が出たのと同時にⓇの大群の先頭が地雷原に突入してきた。
Ⓡが地雷を踏み、次々と爆発が起こり、凄まじい爆音が砦全体に響き渡る。
カミンスキー中尉は大隊長オフィス専用の電話を掴み、早口でまくし立てた。
「大隊長、こちらカミンスキー中尉です。非常事態が発生しました。砦の西300メートルに敵勢力数千が集結中、いや、ちょっと待てください、いま地雷原に突入したようです。ただちに部隊全員に迎撃態勢の非常呼集を発令してください」
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