第8話 グライフ計画1
「第二中隊長、認識番号XM7717、シン中尉入ります」
俺は新設された仮設兵舎にある新任の大隊長のオフィスのドアを開け、中に入った。
「君が噂の「レイザーバック」のシン中尉か」
そこにいたのは俺より年下に見える少女だった。多分俺と同じアジア圏のエリア出身だろう。
「私が本日付けで、この第三大隊と「アラモ砦」の指揮官に任命された認識番号WXX9815、志津香少佐だ」
小柄だが、人を威圧する鋭い眼差をしており、長い黒髪は無造作に後ろでゴム紐でとめポニーテールにしている。ルックスも悪くない。
だが、俺より年下の大隊長だと。
「ご用件はなんでしょうか。今日の作戦の結果と部下および装備の損害に関してはまだ・・・」
彼女は俺の話を遮る。
「そちらの件に関しては後日正式に報告書を出してくれればいい。それより、今日君を呼んだのは、少し話をしたくてね」
「では、どのようなお話でしょうか」
椅子を勧められたが、俺は断った。彼女は引き出しから煙草を取り出すと、一本くわえ、ライターで火をつけた。
「地獄の猟犬、蘇った死神、ウオーヘッドの守護天使、君らの中隊は、わが軍では知らぬ者のいない精鋭部隊だ。君らを指揮することになったのだから、その指揮官である君と一度じっくり話しておきたいと考えるのは不思議じゃないだろ」
「自分も自分の中隊も統合軍の一先兵にしかすぎません。過分な名声だと思っております」
「シン・WX7717。現在17歳。12歳でエリア73所属仁川師団の第一大隊B中隊に入隊。14歳でウラジオストック攻防戦に参加、将校が全滅したため、伍長だった君が代理で中隊を指揮、孤立した味方3000人の救出に成功、大隊長の推薦で、幹部養成課程を半年間受講。15歳で少尉に任官。その後、中央アジア、カスピ海戦線を従軍した後、1年前からエリア44所属、北アフリカ、トリポリ師団に転属、現在はこの「アラモ砦」で第二中隊、通称「レイザーバック」を指揮している」
彼女はさらに話続けた。俺は黙って聞くことにした。
「戦功多数、97番目のシルバー十字名誉勲章受章者」
「・・・」
「まさに生きた伝説だな。いや、謙遜はするな。かえって嫌味になる」
「・・・」
「君はつねに最前線に身を置き、必要なら、あらゆる手段を使って任務を遂行する。時には部下に最も厳しい決断さえしてね」
「自分は統合軍兵士として、人類のため最善をつくしているだけです。少佐殿は何の話をしたいのですか。自分の今までの昔話をするために、わざわざ呼びつけたわけではないのでは」
俺はいいかげん、うんざりして少し言い返した。
「最初に言っただろ。中尉、私は君と腹を割って話をしたいんだ。それに君も私に尋ねたいことがあるんじゃないか。顔に書いてあるぞ」
「・・・では、お聞きしますが、少佐殿は、まだ20歳には見えないのですが。我が軍では通常満20歳に達し、退役した将校から佐官以上の者が選ばれるのが通常の手順のはずですが」
「確かに私は20歳ではない。現在15歳だ」
「15歳」
「そうだ。驚いたかね。まあ、当然だろう。いきなり15歳の小娘が少佐の階級章をつけて、「今日から私が君らの指揮官だ」といわれたんだからね」
俺は思い切って、確信を突くことにした。
「・・・なにか特別な理由があるのでしょうか」
「そうだ、軍総司令部は統合政府との長年の協議の末、新しいプロジェクト「グライフ計画」を試験的に採用することになった」
「グライフ計画」
「グライフ計画とは通常7歳から、始まるウオーヘッド養成期間を、もっと早く3歳から始めるもので、この計画の主な目的は慢性的に不足している前線指揮官の将校育成にある。わたしはその第一期生だ」
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