第7話 生還

日没近く、俺たち第二中隊は北アフリカ方面の重要拠点の一つ「アラモ砦」に帰還した。


戦死者は第二小隊、レイザーバック2の全員と、他3名。ほぼ全員負傷しており、無傷の奴は一人もいなかった。しかも装甲車一台と貴重な物資も失った。


「なんとか生き残れたね」


装甲車から降りて、負傷した部下が運ばれるのを見ていたら、キャシーが声をかけてきた。


「ああ、だが、第二小隊は全滅。荷物も全部灰になっちまった」


俺が煙草をくわえると、キャシーがライターで火をつけてくれた。


「しかたがないよ。小隊長があの腰抜けだったから。無能な指揮官だと部下が悲惨だわ」


「そうかもな。だが、中隊長は俺だ。全責任は俺にある」


俺は自分らの命を救ってくれたRPG装甲車に感謝した。全車外装は黒焦げだが、なんとかナパームの業火に耐えてくれた。だが、俺が助かったのは壁に突っ込んだおかげで、運転席の横の穴が瓦礫に塞がれたことが大きいだろう。ウオーヘッドの生き死には、ほんのわずかな運で決まる。


「査問委員会があるかもな。その時は下手に俺を庇ったりするなよ」


俺はキャシーに念を押した。


俺が煙草を地面に投げ捨てたとき、目の前をシーツに覆われ、担架に乗せられたマックの遺体が通りすぎた。


「マックのやつも、逝ちまったね」


キャシーがポツリと独り言をこぼした。


「ああ、俺と同期はもうほとんど残っていない、おまえもそうだろ」


キャシーも煙草をくわえ、一服してから、寂しそうな眼をして言った。


「そうね。ほとんど土の下か、肉袋に食われてしまったわ。でも、みんな人類のために勇敢に戦って死んだ。アタシは連中を誇りに思うわ」


俺は静か目を閉じて、彼女の言葉に同意した。


「そうだな。みんな勇敢で立派に人類のために戦って死んでいった。俺もやつらを誇りに思うよ」


部下が全員医療室に運ばれるのを確認した後、今回の作戦の事後報告のため、大隊長のオフィスのある仮設兵舎に向かって歩いていると、後ろから大隊付きの准尉が走ってきて、俺を呼び止めた。


「第二中隊のシン中尉殿でしょうか」


「そうだ。敬称はやめろ。中尉でいい」


「わかりました。シン中尉、新任の大隊長がお呼びです。至急大隊長の新しいオフィスまでいらしてください」


「新任の大隊長?」


俺とキャシーは顔を見合わせる。


人事異動があるなんて、聞いていないぞ。


「ギブスン少佐は」


キャシーが准尉に尋ねた。


「本日付けで、トリポリの師団司令部に転属になりました」


今回の任務のため4日も「アラモ砦」を留守にしていたから、知らないのは当然かもしれないが。それにしても急な移動だ。


「で、新しい大隊長はどんな奴なの」


キャシーが尋ねると、准尉は少し困ったような顔をして答えた。


「とにかく至急おいでくださいとのことです」


「わかった。今からいくよ」


俺はキャシーと別れ、新任の大隊長に会うため、准尉に教えられた新しい仮設兵舎の大隊長のオフィスに向かって歩いていった。


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