第56話:第三次珊瑚海海戦⑦~〜落日の魔王

「全艦、静音航行を維持のまま180°反転!」


 戦隊司令の指示の下、一斉に魚雷を放った日輪高速潜水艦隊は静かに反転を開始し彼等の放った九五式酸素魚雷は密かに米艦隊に忍び寄っている。


 その忍び寄る脅威に最初に気付いたのは隊列左端に展開していた米駆逐艦アースであった。


 アースのソナーマンが魚雷接近を伝えようと慌てて叫んだ次の瞬間、アースを含む米駆逐艦3隻からほぼ同時に数本の水柱が立ち上がり、その十数秒後には後方に展開していた重巡クインシーと戦艦サウスダコタ、ノースカロライナからも次々と水柱が立ち上がる。


「《何事だぁっ!?》」

「《潜水艦からの雷撃と思われます、駆逐艦アース、コナー、カラントが轟沈、重巡クインシー被雷、本艦とノースカロライナも左舷に被雷しましたっ!!》」

「《潜水艦っ!? それも6隻ほぼ同時に被雷だと!? 駆逐戦隊が対潜陣形で展開していた筈だ、一体どこからどうやって!?》」

「《まさかこのルートに潜んで居たのか?》」

「《な!? 大海原のど真ん中だぞ!?》」

「《……話は後だ、駆逐戦隊は対潜戦闘に移行、戦艦と重巡は速度を20ノットに落としソナー探知に注力、通信班は偵察機との連絡を密にせよ!》」


 艦長が必死にダメコン指示を出している中、動揺し浮き足立つ参謀達、リー提督は彼らを制し冷静に指揮を執る、だが内心はリーにも焦りは有った。


 まず6隻の艦船がほぼ同時に雷撃された事である、駆逐戦隊は対潜陣形、即ち横一列に並び1km間隔で展開していた。


 それを3隻同時に撃沈し後方の主力にまで雷撃する事は2,3隻では絶対に不可能であり即ち日輪潜水艦は最低でも5,6隻は存在する事になる。


 それだけでも十分脅威だが、その規模の日輪潜水艦がこのルートで待ち構えていた事も腑に落ちなかった。


 ここは珊瑚海のど真ん中である、輸送船の航行ルートでは無いから通商破壊の為に潜んで居たとは考え難く魔王サタンから自分達の撤退ルートを知らされたとて鈍足の潜水艦が自分達の頭を押さえるなど不可能な筈であった。


 いや、水上航行でよほど上手く展開すれば不可能では無いだろうが、そんな事をすれば上空から監視していた偵察機が見逃す筈は無い……。


 ならばなぜ日輪潜水艦隊は此の場に居るのか、リーの脳裏に様々な可能性が浮かび上がる。


 リーが思考を巡らせている間にも駆逐戦隊は機敏に動き日輪潜水艦を探し続けている、その時戦隊旗艦であるクリーブランド級軽巡洋艦のソナーマンが何かを捉える。


「《報告、10時方向より複数の日輪潜水艦と思しき微細な駆動音を確認、距離深度不明!》」

「《よくやった、すぐに探信音ピンガーを放て!》」


 音で水中の物体を探ると言うのは素人が思うより遥かに難しく聴音儀パッシブソナーでは方向と簡単な識別は行えても正確な距離までは分かり得ない、その為音波探信儀アクティブソナーから発する探信音ピンガーの反射を以ってより正確な位置と距離を測るのである。


 しかし好条件下では100km先の音も拾える聴音儀パッシブソナーとは違い探信儀アクティブソナー探信音ピンガーが届く範囲は高性能な音波探信儀アクティブソナーでも精々5~8kmが限界であった。


 クリーブランド級軽巡のソナーマンが戦隊司令の指示に従いスイッチを押すと《コーン》と言う音が海中に響き渡る。


 その音は水深120メートルを静音航行(20ノット)で進んでいた日輪潜水艦隊の聴音手ソナーマンの耳にも届く。


「ー-っ!? 敵水上艦艇からの探信音を確認!!」

「こちらの位置がバレたか、あまりやりたくなかったが仕方ない、全艦針路そのまま最大戦速!!」


 伊302潜の境域音波通信装置にて戦隊司令の指示が伊200型各艦に伝えられると9隻の高速潜水艦隊の推進機が力強く駆動しぐんぐんと速度を上げて行く。


 この高速潜水艦群の推進機には九五式酸素魚雷の噴進技術が応用されており噴射光が漏れて洋上から見えると言う事は無い、100メートルを超える巨躯故に駆動音まではどうにもならないが……。 


 そしてその高潜隊の加速に驚いたのはクリーブランド級軽巡のソナーマンであった。


「《何だと、どういう事だ!? ほ、報告、敵潜水艦の駆動音が増大、それに伴って高速で移動しているものと思われます!!》」

「《高速で移動だと……? 探信音ピンガーを30秒間隔で放て、その時の位置を正確に記録しろ!》」

「《了解です!サーラジャ!》」


 この時米駆逐戦隊はソナーを使う為に40ノットで移動していた、それ以上の速度を出すと聴音が困難になるからである(尤も本来は20ノット程度で聴音するのが普通であり適性であるから現状でも十分ソナーマンを苦しめているだろうが……)


 しかし相手が従来の潜水艦で有ればこのやり方でも何れは追い付く事が出来たであろうが日輪潜水艦隊は60ノットで航行している、そのため両艦隊の距離は相対速度20ノットで離れており、ソナーマンだけはその事に気付き始めていた。


「《ー-っ!? ほ、報告! 敵潜水艦隊離れて行っています! 敵速力、60ノット前後と推定!!》」

「《なにっ!? 潜水艦が……それも水中で新鋭駆逐艦並みの速力を発揮している、だと? 何かの間違いでは無いのか!?》」

「《いえ、30秒毎のピンガーによる観測の結果です、間違い有りません!!》」


 ソナーマンの報告に戦隊司令は困惑し語気荒く問い詰めるが返って来たのは自信を以って断定する返答で有った。


「《う、むぅ……だとすれば尚の事見失う訳にはいかん、最大戦速で追撃を続けろ、それと今の情報をサウスダコタに伝え提督の指示を仰げ!!》」


 戦隊司令は焦りを隠し切る事が出来ず、その表情と声に緊張が浮かんでいる。


 然も有ろう水中を60ノットで航行出来る潜水艦が相手となれば現行の対潜戦術が全く役に立たなくなる可能性が高い、そんな状況で少しでも判断を誤れば最悪艦隊壊滅も有り得る、その重責を前に戦隊司令が追撃命令を出しつつもリー提督に判断を求めたのは当然の事であった。


「《ーーっ!? 報告、敵潜水艦下降している可能性大! 本艦の駆動音が高くそれ以上の聴音ヒアリングが出来ません!》」

「《ー-ちっ! かと言って速度を落とす訳にはいかん、ピンガーを15秒毎に打ち聴音ヒアリングだけで無くモニターでも捕捉し続ろ、絶対に見失うな!」


 米駆逐戦隊司令の額から嫌な汗が滴り落ちる、若しここで見失えば相手は高速潜水艦である、再度反転し攻撃を仕掛けて来る可能性があるため米駆逐戦隊司令も必死であった。 


 ・


「米水上艦、速度を上げ15秒毎に探信音を発信しています!」

「ふん、しつこい事だ、見逃す気は更々無い様だな」

「意見具申! ならばいっそ反転し敵艦を撃沈しては?」

「敵駆逐艦に位置を知られている状況でかね? それでは頭を出した・・・・・瞬間爆雷の雨を食らう事になる、貴官も潜水艦乗りならば発言する前に愚かな判断だと気付くべきでは無いかね?」

「ー-っ! はい……」


 血気に逸る参謀の一人が反撃を提案するが戦隊司令は冷静にそれを一蹴する、潜水艦は敵に知られず密かに魚雷を放つよう設計されており敵と相対して撃ち合う様には作られてはいない、それは潜高型と言えども同じで有り、いくら60ノットの速力を有していても機動性と運動性では駆逐艦と比べるべくもない。


 まして誘導魚雷の開発が途上のこの時代、潜水艦が敵艦に魚雷を放つには一度潜望鏡深度にまで浮上せねばならず、この状況でそんな事をすれば即追い付かれて爆雷の餌食である。


 それは潜水艦乗りならば常識で有る筈だが件の参謀は潜高型の性能に酔い過信していたのだろう……。


「司令、現在の深度は200です、このまま300まで下降すれば米爆雷の限界深度を越えられるかと」

「本艦と伊200型の安全深度は400だったか、300まで下降するのは良いとして我々には次の仕事・・・・がある、奴らを振り切りたい」

「しかし司令、このまま全速で逃げ続けても米駆逐艦隊は最新鋭艦の様で速度的に同等と思われます、恐らく我々の方が先に息切れ・・・するかと……」

「ああ、だから奴らの耳を潰す、音波探信儀アクティブソナーさえ無力化すれば奴らは我々を見失うだろう?」

「なるほど、しかしどうやって……いや、アレ・・ですか!?」

「そうだ、対音探兵器、『三式蒼子波響振魚雷』を使う」


 そう言いながら高潜隊司令が口角を上げると反比例する様に聴音手ソナーマンの口がへの字に歪み、何とも言えない渋い表情になる……。


 聴音儀パッシブソナーには安全装置が取り付けられており爆音などで聴音手が耳をやられたりしない様に出来ているが不快音まで完全に遮断してくれる訳では無い、例えば艦が沈む時に折れた船体が擦れ合うと黒板を爪で引っ掻いた様な音が響くのだがそう言った音は半減はするものの不快音そのものは残るのである。


 そして今回戦隊司令が使用を決めた三式蒼子波響振魚雷とは、そう言った不快な音を詰め込んで凝縮し煮詰めた様な音を発する兵器なのである。


 水中では電探レーダーは使用出来ず音探ソナーが艦の目となる、そして戦闘中に目をつぶる馬鹿は居ない、そうである……聴音手は海中が不快音を詰め込んで煮詰めた様な状況となっても耳を塞ぐことは許され無いのである、故に口をへの字にした聴音手を誰も責められはしないだろう……。


「全艦、後部発射管一番二番、蒼子波響振魚雷装填、後、発射管注水開始!」


 戦隊司令の指示の下、高潜隊全艦の後部魚雷発射管に蒼子波響振魚雷が装填され発射管が海水で満たされる。


「全艦、後部発射管一番二番魚雷発射準備完了!」

「……司令!」

「うむ、全艦後部一番二番、一斉発射!」


 戦隊司令の力強い言葉の後、高潜隊各艦の後部発射管から2本の魚雷が後方に向けて放たれる。


「蒼子波響振魚雷発射! 発動まで10秒、9,8,7,6,5,4,3,2,1,今っ!!」


 魚雷発射直後、水雷員がカウントを始めそのカウントと寸分違わず蒼子波響振魚雷が振動し海中に低高周波入り乱れる不快音が響き渡る。


 その瞬間、日輪潜水艦の聴音手達は一様に口を力を込めたへの字に曲げその不快音に耐えながら聴音を継続する。


 来ると分かっている日輪軍側でさえ何とか耐える不快音、それを突如聞かされた米海軍側のソナーマンは堪った物では無かっただろう、皆一瞬だがヘッドホンを耳から外してしまっていた、無論すぐ戻したようであるが……。


「《ほ、報告! 海中より突如謎の不快音発生! 是によりピンガーが攪拌され探知不能!!》」 

「《何だとっ!? ジャップの音響兵器だと言うのか!?》」

「《お、恐らくは……》」

「《報告! 日輪潜水艦隊ロスト! パッシブもアクティブも使い物になりません!!》」

「《くそっ! ジャップ共め、小癪な真似を……っ!!》」


 ソナーマンからの報告に米駆逐戦隊司令は手すりに拳を叩き付け水面を睨み唇を噛み締めている。


「《報告! サウスダコタより通信です、【追撃を中止し合流せよ】以上です!》」

「《くっ! 止むを得んか、全艦転舵反転!》」


 60ノットで逃げる日輪潜水艦隊を追って米駆逐戦隊は本隊からかなり離れてしまっていた、これでは日輪潜水艦に別働隊でもいれば本体が丸裸となってしまう。

 

 リー提督がそれを危惧していると理解した米駆逐戦隊司令は歯を食いしばりながらも素直に指示に従った。


 ・


「よし、今の内だ! 全艦深度300まで急速潜航、後、針路1,3,5に舵を取れ!」

「意見具申! 小官は米艦隊を殲滅せしむべきと愚考致します、今ならば敵も浮き足だっている筈、我が艦隊の性能なれば必ずや敵艦隊を撃滅出来るものと確信致します!!」


 高潜隊司令が離脱指示を出した直後、先程の参謀が再び反撃を強く進言して来る。


「だめだ、蒼子波響振魚雷の効果は長くは続かん、何より此方も聴音が困難なのだ、潜望鏡深度に上がった所が敵駆逐艦の真下だったなどと冗談にもならんぞ?」

「ー-っ! は、はい、愚かな進言を致しました、申し訳ございません……」

「分かれば良い、海上うえはもう日が傾いている頃だろう、日没前に第十三艦隊と合流する!」


 戦隊司令の言葉に参謀は意気消沈し非を認め謝罪する、それを受けて戦隊司令は参謀達に向き直り言葉を発し、それに参謀以下艦橋員達も直立不動で応えた。


 ・

 ・


 日輪軍の放った音響兵器の効果が切れる頃、リー艦隊にオルデンドルフが率いていた第二艦隊第77戦隊の駆逐艦隊(軽巡1 駆逐艦6)が合流していた、戦艦ミズーリ以下損傷艦艇を安全圏まで護衛した後、リー艦隊を気にかけて戻って来たのである。


「《駆逐戦隊より報告、周囲に日輪潜水艦の感無し!》」

「《うん、引き続き警戒は必要だろうけど一先ずの危機は去ったようだね》」

「《はい、然し……高速潜水艦に音響兵器……日輪海軍、想像以上に侮れませんな……》」

「《全くだね、一瞬で駆逐艦を3隻も失うとは我ながら情けない……。 77戦隊の合流は本当に有り難かったよ、お陰で沈没艦の乗員救助を手早く終わらせる事が出来たからね》」

「《あの損失は提督の落ち度では有りません、それに77戦隊が危険を顧みず戻って来てくれたのは提督の人徳の賜物で有りましょう!》」 

「《はは、ありがとう素直に受け取っておくよ……。 さぁて、これからも厳しい戦いになりそうだ、合衆国軍は内輪揉めをしている場合ではないな、このまま日輪を侮り陸海軍や派閥で内輪揉めをしていてはこの戦争……負けるかも知れない》」

「《ー-っ!? ご、御冗談を……》」


 リーの言葉の最後に参謀は驚き愛想笑いで誤魔化そうとするが、リーは真剣な眼差しで日の落ちる水平線を見据えている。


 参謀にはそれが合衆国の落日を見据えている様に思え背筋に冷たいものがなぞり、堪らず払拭する様にかぶりを振った。


「《はは、そうならない様にこれ迄以上に尽力しなければならないと言う事だよ、私も偉大なる合衆国ステイツが負ける所など絶対に見たくは無いからね……》」

「《ー-! はい、自分もです! 何処までもお供致します提督!》」


 リーの言葉を聞き沈んでいた参謀の表情がパァっと明るくなる。


 そしてその参謀の発した言葉につられるかの様に別の参謀達も同調の言葉を発し艦長を始めとする艦橋員も深く頷き同調の意思を表す。 


 リーは皆を見回すと満足気に微笑み「ありがとう」と一言呟いた……。


 ・


 一方、第十三艦隊を攻撃する米第七機動艦隊の猛攻は苛烈を極めていた。


 米第七機動艦隊司令であるハルゼーは損耗し帰還した航空編隊を新たな攻撃隊として即座に再編し魔王やまとに対し息も吐かせぬ波状攻撃を行なっているのである。


 その猛攻を受け、何と武蔵は左に15°ほど傾き、大和もまた艦首側が深く沈み込み、波が主砲塔に掛かっている状態で有った……。


 だが日輪艦隊にとっては幸いに、米海軍にとっては忌々しく日没となり、後一歩で撃沈と言う所まで魔王サタンを追い詰めたハルゼーは航空隊に夜間攻撃を命じようとしたが、それを他の参謀達が慌てて止めた。


 いくら形状が我々の世界の近代戦闘機に似ていても、この世界におけるこの時代の航空機は夜間行動を行う様には出来ていない、仮に無理矢理発艦したとしても目標に到達出来る可能性が低く、且つ帰還すら困難となり無益な損害が発生する可能性が高かった、故に猛り狂うハルゼーを参謀達が血の気の退いた顔で縋る様に宥めたのは当然であった。

 

 だが 魔王サタン撃沈を諦め切れないハルゼーは縋り付く参謀達を振り払うと鼻息荒く叫ぶ。


「《ヤツを絶対に逃してはならん!! 駆逐艦と軽巡を集め、水雷攻撃隊を編成しろっ!! 今すぐにだっ!!》」


 ハルゼーのその怒号は空気を震わせ艦橋内に響き渡り、その迫力の前に誰も苦言を呈する勇気は持てず、茫然と立ち竦んでいた参謀達はハルゼーに睨み付けられると弾ける様にハルゼーの命令を遂行する為に動き出した……。






   ~~登場兵器解説~~



◆伊100型潜水艦


 全長120メートル 全幅12メートル 水上速力40ノット 水中速力30ノット 安全深度200メートル 

 装甲:無し


 兵装:65㎝魚雷発射管6基(前部4基 後部2基) 仮設式35㎜単装機関砲 2基


 主機関:イ-Ⅱ号艦本八九式静音蒼燐蓄力炉 2基


 同型艦:多数

 

 概要:日輪海軍の伊号一型潜水艦を拡大発展させた主力潜水艦で有り1930年頃から配備が始まった、性能的に突出したものは無いが欠点と言えるものも少ない優秀な艦となっている。

 その形状は日本海軍の伊号潜水艦とほぼ同じで有るが、動力が排煙排気の必要無い蒼燐蓄力炉で有るため常時潜航が可能であり、その点に置いて大きな差異がある。


 


◆伊200型潜水艦


 全長120メートル 全幅12メートル 水上速力50ノット 水中速力60ノット 安全深度400メートル 


 装甲:無し


 兵装:70㎝魚雷発射管8基(前部6基 後部2基)


 主機関:イ-Ⅱ号艦本一式静音蒼燐蓄力炉 2基


 推進機:一式静音推進機 2基


 同型艦:伊201~218(1943年5月現在)

 

 概要:日輪海軍が開発した高速潜水艦(潜高型)であり、最大の特徴は伊100型までに見られた洋上艦の形状フォルムを廃し、イメージを伝えるならばマッコウクジラの様な形状フォルムをしている。

 セイル(艦橋の様な上部構造物)が艦中央にある事も相まって自衛隊の潜水艦とは全く異なる外観となっており冷戦期のソ連原潜の方が近いかも知れない。

 だが本艦の最大の特徴は外見では無くその性能であり、水上速力50ノット、水中速力60ノットと言う性能はそれまでの対潜戦術を根底から覆すもので有る。

 然し実はその破格の速力性能には欠点もある、先ず静音航行(20ノット以内)以上の速力を出すと加速度的に騒音が高くなり、最大速力ともなれば最早爆音と言っても差し支えない。

 更に巡航速力(30ノット)以上で航行した場合の燃費も加速度的に悪くなり最大の売りである高速は気軽には使えないと言う点である。


 

 

◆伊300型潜水艦


 全長140メートル 全幅16メートル 水上速力50ノット 水中速力60ノット 安全深度400メートル 


 装甲:無し


 兵装:70㎝魚雷発射管8基(前部6基 後部2基)


 主機関:イ-Ⅱ号艦本一式静音蒼燐蓄力炉 3基


 推進機:一式静音推進機 2基


 同型艦:伊301~308(1943年5月現在)

 

 概要:日輪海軍が高速潜水艦隊旗艦として開発した旗潜高型であり、外見上は伊200型の拡大型で有るが中身は別物と言って差し支えない。

 最大の特徴が艦内に充実した司令設備を備えている点であり、最新装備で有る『指向性蒼子波通信装置』と『境域音波通信装置』を搭載している事である。

 前者は文字通り指向性を持たせた蒼子波によって敵に傍受されにくい(傍受不可能では無い)通信を行う事が可能な設備で有り1930年代後半に計画された旗艦運用を前提としている艦に装備されている。

 後者も蒼子波を利用した音波通信設備であり、領域性を高める事によって敵の音探に引っ掛かりにくい通信が可能な装備となっている。


 しかし境域音波通信装置は大型で小型艦艇に搭載するには色々と制限が有る為、伊200型には比較的小型の境域音波受信装置のみが装備されている。


 つまり伊300型側からの発信が有った場合のみ通信が可能であり、伊200型から発信する事は原則不可能である。


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