第47話:進みゆく戦局
1943年4月1日、この日、帝都皇京の都庁タワー上層大会議室に置いて神皇を交えた国家戦略会議である御前会議が開かれていた。
先ず対煌戦略が議題に挙げられ陸軍大臣に就任した梅津と海軍大臣に就任した米内は周囲に気取られぬ様密かに目配せをする。
神皇より密かに暁会の発足の真の理由(表向きは陸海軍の溝を無くす為の集まりとしていた)を聞かされていた東條の顔色は優れない。
これから陸軍にとって最悪の議論をしなければならないのだから当然である……。
既に水面下では梅津がフィルピリン方面司令の山下やマルー・インドラネイシア総軍司令の寺内と言った有力者や支那琉方面総軍各軍司令とその次席次官を説得
言葉にすれば簡単気に聞こえるが高度な謀略や駆け引きが有ったのは言うまでも無い。
その一つに且つて対米英主戦論を掲げ対煌戦拡大を助長した皇族将校
彼は自身の誤った判断で戦火を拡大させてしまった事を悔やみ一線から退いていたが、姪である神皇
その為に
これは皇族であり元陸軍参謀総長であった
だがそう言った
然しそう言った脅しや駆け引きの通じない相手も存在した、純粋に自分達の行動が正しいと信じる憂国の志士達である。
そう言った者達は軒並み若い士官や下士官を中心に存在する為それら全てを説得する事は不可能であり、今回の強硬なやり方による軋轢が後々問題となって来るのは暁会の者達も理解はしていたが日煌講和の為にはやむを得ないとの苦渋の決断であった。
とまれ、梅津と米内の努力と
その議決が成された際、陸軍参謀総長と東條の顔からは血の気が引いていたが、他でも無く神皇が日煌講和を支持し、その御膳立ても整っている以上異議を唱える事など出来よう筈が無かった。
そして次の議題は対米英戦略と日迎伊三国同盟への言及が挙げられ、先ずは対米戦略から話し合われる事になった。
これに関して海軍軍令部は延期されていた第二次MO作戦(ポートモレンビー攻略戦)とFS作戦(フィジア、サモラ攻略戦)の再発令を提案する。
ラウバルの安全を確保する為に立案されたMO作戦は且つて第一次珊瑚海海戦の戦術的敗退によって頓挫し、その後立案された第二次MO作戦とFS作戦はミッドラン海戦の敗退によって無期限延期とされていた。
このポートモレンビー攻略の遅れが第二次ソロン海戦の折、豪州軍によるラウバル空襲を引き起こし同基地に甚大な被害をもたらした、その結果として多くの海軍将兵もソロン海の藻屑となったのだ。
この件に関して陸軍も腸が煮え反っており、MO作戦の為に占領維持しているサラモルアの駐留軍が遊軍となっている事からもMO作戦には反対しなかった。
だがFS作戦に関しては南方戦線に置ける海軍の不手際のせいで陸軍は多大な被害を被っている為、遺恨は未だに残ったままで有り、それを解消する為に占領後のポートモレンビーは陸軍主体で統治される事でFS作戦への陸軍の協力を取り付けた。
この決定により海軍は艦隊編成と作戦立案を早急に行う事になり作戦参謀長に第一次ソロン海戦の立役者である神重
そして最後に議題に上がったのが日迎伊三国同盟に関してであった。
現在グロースゲイルは地中海と紅海とを繋ぐルエズ運河を掌握し、遂にその版図を紅海にまで伸ばしていた。
それに先立ちヒドゥラー総統は日輪帝国に対し連合艦隊のインドラ洋派遣を要請して来たのである。
その内容はインドラ洋の制海権確保への協力であり要求戦力は戦艦、空母、各4隻以上の規模を持つ艦隊と言うもので有った。
当然だが、戦艦や空母を派遣する場合、それを護衛する中小艦も必要となって来る為、迎国の要求を丸飲みした場合、戦闘艦だけでも最低30隻程度の大艦隊となって来るだろう
そしてその規模の艦隊をインドラ洋に派遣すれば只でさえ数で劣勢な太平洋戦線が更に苦しくなる事は分かり切っている。
故に日輪としては太平洋に注力したいと言うのでが本音であるが、それはヒドゥラーとて理解していた。
そこでヒドゥラーは艦隊派遣の見返りとして
それは日輪でも幾度も開発が失敗し現在でも進捗が難航しており、喉から手が出る程求める誘導弾の技術であった。
グロースゲイルは1942年12月には世界初の自立誘導弾道ミサイルであるV2ロケット弾を配備し、同月24日に1000km以上離れた位置から英国首都ロンドに対して無差別攻撃を実行していた。
その実績有る兵器の肝の部分を提供すると言って来ているのだ。
これには陸海軍何方も食指が動いたが神皇はヒドゥラーを蛇蝎の如く嫌っていた、可能ならば三国同盟を破棄したいと思う程には……。
然し此処で先程無理を押し通された陸軍参謀総長が凄まじい気迫で誘導弾の有用性を熱弁し海軍に艦隊派遣を迫る。
流石にこれはのらりくらりとは躱せないと観念した軍令部総長永野は思わず首を縦に振ってしまった。
神皇も権威をかざし無理を押し通した手前、陸軍参謀総長の顔を立てるしか無く、この時点で連合艦隊のインドラ洋派遣が決定してしまう。
とまれ、以って議題を全て消化した御前会議は閉会とされ、各省庁大臣と陸海軍総長は神皇の退出を厳かに見送った後、各々の持ち場へと移動して行った。
無論、ここからが文字通り(比喩的にも)本当の
・
・
・
===新皇京都真宿区・割烹料亭穂之花===
「無理です!」
「そこを何とかっ!」
「無理な物は無理です、戦艦は兎も角、4隻もの空母をインドラ洋になど回せる筈が無いでしょう?」
馴染みの料亭で永野と山本の二人きり、その場で永野は机に両手を付きながら頭を下げて御前会議の内容を伝えた所、山本に即答で拒否されてしまった。
「し、しかしだね、先月雲龍型空母2隻とそれに……
「ーー竣工したばかりの軍艦が実戦で役に立たない事は永野さんも理解されている筈でしょう? 発着艦すら覚束ない艦をインドラ洋に送りヒドゥラーに醜態を晒しますか? それとも海軍の威信の掛かったMO作戦やFS作戦に投入する予定の第三艦隊主力をインドラ洋に送れと?」
「っ! う、ううむ……やっぱり無理かね?」
「無理です!」
「うぅむ、むむぅ……うぐぐむ……」
山本にきっぱりと断言されると永野は眉間にしわを寄せ固く目を閉じながら腕を組み唸り始めた、それを見かねた山本が僅かに溜息を付きながら口を開く。
「……ヒドゥラーは恐らくダマルガス島をインドラ攻略の拠点とする腹積もりなのでしょう、その障害となるブリタニアス極東艦隊を我々に抑えさせ、あわよくばダマルガス攻略にも協力させたい、そんな所でしょう、で有ればそれが可能な艦隊を
「ーーっ! ほう? つまりそれはっ?!」
山本の発言を受け、苦悶に唸っていた長野の表情がパッと明るくなり目を丸くしながら興味津々とばかりに身を乗り出す。
「先ず戦艦長門、陸奥、伊勢、日向を擁する打撃艦隊を編成します、これで戦艦の条件は満たします、続いて空母
「うん、うん!」
「この内、機動艦隊の天城型三隻はヒドゥラーに対する張り子です、実質的な機動艦隊の役目は信濃と飛鷹、隼鷹が担います」
「そ、それで誤魔化せるのかね? いくら何でも正規空母3隻分の航空戦力を軽空母を交えた戦力で補うと言うのは無理が無いかね?」
「重要なのは英極東艦隊を抑えられるかどうかです、ヒドゥラーにとって我が国の艦艇がいくら沈もうが極論、英極東艦隊を抑えられれば文句は無い筈です、寧ろ心無い賛辞くらいは述べて来るでしょう」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ、沈むのかね? 沈む事が前提なのかね? そ、それは……」
山本の艦艇が沈むの発言を受けて興味津々に聞いていた長野の顔が青くなり狼狽える。
「ご安心を、例えばの話ですよ、まぁ戦争ですから軍艦が絶対安全とは口が裂けても言えませんし実際練度の低い艦艇を前線に出すのは潜水艦からの雷撃を受ける危険を伴います、然しそれをさせない為に空母の周囲を巡洋艦と駆逐艦で囲んでいるのです」
「そ、そうか、それなら……まぁ、うん」
「そして潜水艦の雷撃にさえ気を付けていれば英国東洋艦隊の空母はさほど脅威では有りません、それこそ我が国の軽空母程度の規模ですから、寧ろ脅威なのはセイラン島の基地航空隊でしょうが地上基地からの奇襲などは先ず有り得ないので余程武運に見放されなければ大丈夫でしょう、むしろ天城型には良い訓練になるかと」
そう言うと山本は口角を上げ不敵な笑みを浮かべながら猪口で酒を飲み干す。
「はは……ヒドゥラーの要請を訓練にしようとは……全く君には敵わんな、良いだろう、それで話を進めてくれたまえ、よし不味い酒は此処までだ!」
そう言いいながら永野が手を叩くと襖が開き仲居が部屋に入って切る、その仲居に永野が耳打ちすると仲居は頷き丁寧な所作で部屋を後にした、恐らくこの後綺麗な芸者達が旨い酒を振る舞うのであろう。
後日、山本によって艦隊編成がなされ以下の艦隊とその艦艇が印洋派遣艦隊として抜擢された。
~~第一艦隊~~
艦隊司令:志摩 英作中将 副司令:伊藤 誠司中将|(しなの)
独立旗艦:戦艦榛名
第一戦隊:重巡妙高、足柄、那智、羽黒
第ニ戦隊 九頭竜型軽巡
第三戦隊:装甲空母信濃、天城型型航空母艦天城、葛城、赤城
~~第二艦隊~~
艦隊司令:西村 洋治中将 戦隊司令:松田 秋将中将|(いせ)
独立旗艦:戦艦金剛
第一戦隊:戦艦伊勢、日向、長門、陸奥
第二戦隊:軽巡
第三戦隊:軽巡北上 駆逐艦
~~第十一艦隊~~
艦隊司令:片桐 吉辰中将
旗艦戦隊:軽空母飛鷹、隼鷹
第一戦隊:軽巡名取、駆逐艦
第ニ戦隊:軽巡夕張、駆逐艦
上記49隻の戦闘艦艇に加え30隻規模の補給艦隊は4月末には編成を終えインドラ洋への玄関口であるセルガポールを目指す事になる。
並行して小沢機動艦隊(第三艦隊)や栗田艦隊(第七艦隊)とそして東郷艦隊(第十三艦隊)もMO作戦の為にルング沖に集結し、外務省も煌華民国と和平交渉に入る。
こうして本大戦は新たな局面を迎えようとしていた。
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