第11話

「わらわの護衛をしてくれぬか?」

そう静姫に突然言われ、

「はあっ⁉︎」

と叫ぶ私。

そんな私の口を、小雪さんが慌てて塞ぐ。

「コラ、失礼でしょ!」

あ。

「よい。わらわもおかしなことを言っているしな。ちと護衛の話も早かったかの。まずは、身の上話から始めるとしよう。」

そういうと、静姫は、糸を紡ぐように丁寧に身の上話を始めた。


「父上!お久しゅうございます!」

「おうおう、元気が良くて何よりじゃ。」

静姫は、大名の娘だそうだ。彼女の両親の間になかなか子供ができなかったときに生まれた子供だった。そのため、彼女は可愛がられた。彼女もまた、優しくしてくれる両親のことが好きだった。

しかし、彼女に弟ができた。弟は、後継となる。彼女の両親は、後継となる弟に、愛情を注いだ。そして、彼女は放っておかれるようになった。

大きくなるにつれて、彼女は、自分はいらない存在なのだと思うようになった。

「わらわは父上からも母上からも必要とされていないのじゃ。」

「大丈夫ですぞ。お玉はいつ何時でも貴方様を思っておりまする。」

そんな時、慰めてくれるのは彼女の乳母のお玉であった。そんなお玉も去年、自分の国へと帰った。

彼女は、益々孤独になった。そして、耐えきれなくなった彼女は、江戸を抜け出し、伊豆にいるお玉の元へ行くことを決意したのだった。


「ぐすん、ぐすん。」

隣からすすり泣く声が聞こえる。

小雪さんって、涙もろいのかな。

「だからわらわは伊豆の国を目指しているのじゃ。ただわらわは、身を守れる自信がないのじゃ。途中で襲われたら、やられてしまう。」

そうだよね、よりによって着物とかかんざしとか高そうだし。襲われる可能性大。

「分かりました。」

「えっ!」

「だって行くところ一緒だし…て言ってるそばからなんか来たよ!」

振り返ると、刀を持った武士がこっちに来ているところだった。

その奥には仁王立ちしてる蔦さん。

「関所の役人じゃ!逃げるぞ!」

「なんで逃げるんですか⁉︎」

「関所破りは重罪!捕まったら磔か晒し首、どっちにしろ死罪!」

「ええ!」

「蔦め、役人に密告したな!」

「蔦めえ…」

私たちはとにかくダッシュ。

でも、着物だと走りづらい!

「仕方ない。」

そう小雪さんはつぶやくと、近くにあった太くて長い木の枝を手に取った。

「ここは私が食い止める!おトキは静姫と逃げて!」

「小雪さんは⁉︎」

「私は剣道習ってんのよ。剣で鬼を倒した先祖の伝説で、うちの家系は剣道習うことになってるの!おトキんちはなんか伝説ある?」

「ありますよ、神隠し伝説です。光し輪が宙を舞うとき…いやいや、それどころじゃないですから!」

「そうだね、話が脱線した…。とりあえず逃げて!私は大丈夫。」

決意が滲み出る眼差しを向けられて、私は何も言わずに振り返る。そして、静姫の手を取り、ただ走る。

小雪さん、無事に戻って来て。もう一度あの笑顔を見せて…

「女子に何が出来…うぐっ。」

「生意気なぁ…うぎゃ。」

「おのれぇ…痛い、うえ、ぐはっ、だうっ。」

あ、心配しなくても大丈夫そう。

てか、最後の人だけぼっこぼこにされてない?

歩みを止め振り返ると、そこには、倒れ込む武士+蔦の真ん中でニコッと笑う小雪さん。

「成敗。」

小雪さん、さすがです。

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