第6話
「『これっておトキじゃない⁉』ってどういう意味ですか?」
「この浮世絵って、おトキじゃないかな~って思ったんだけど……違うか。」
そう言いながら小雪さんは一枚の浮世絵を見せてくる。
確かに、目元とか、鼻とか、似てなくもないかも。もしかして……!
「この美人のおトキに惚れた浮世絵画家が……」
「これは、静姫の浮世絵だね。」
椿さん、私の空想の世界を壊すようなことを……
「静姫って?」
小雪さん、ちょっとは慰めて。
「どっかの藩の大名の娘だよ。確か参勤交代で江戸にいるんじゃなかったっけ。」
ふうん。
「そうだ、ヒマだしちょっといってみるかい、静姫のお屋敷。」
「いけるもんなんですか?」
「門の前で待ち伏せてたら出てくるだろ。」
軽い。
―十分後―
私達は静姫のお屋敷の前の茂みの中ににいた。
「出てきますかね?」
「気長に待とう。」
待てる気がせん。
「あ、あれが静姫じゃない?」
小雪さんが指さす方には、綺麗な着物だけが見えた。視界が悪い。
「こういうのって土下座した方が?」
「茂みの中だし、向こうは分かっちゃいないよ。」
そんな話を椿さんとしつつやっとこさ顔が見れたとき、私は息をのんだ。
彼女は私にそっくりだったのだ。
顔のパーツからその配置に至るまで、全く一緒。
「あそこまで似てるとさすがに怖くなるな。」
「全く顔が同じな人と出会うと、死ぬとかなかったっけ?」
げっ。
小雪さん、変なこと言わないで、お願いだから。
「死なないだろ。てかそれが本当だったら、おトキ今頃死んでるよ。」
それもそうか。
「しっかし困ったね。その相手が江戸のなかにいたらいいんだけどね。」
「なんで?」
「おトキ、『関所』って知ってる?」
ああ、なんか聞く。
「その関所から江戸を出ることを、大名の妻とか子供はできないのよ。」
なんで?
「大名の妻子は、大名がきちんと参勤交代に来るための人質として、江戸に住まわされてたの。その人質に逃げられるわけにはいかないでしょ。関所を通らないことは『関所破り』っていう重罪だし。」
「それは分かりました。でも、なんでそれが柊真たちが江戸にいればいいってことになるんですか?」
「おトキは静姫に似ているだろ。だから、そのおトキが関所を通ると……」
「おトキは静姫と思われて、捕まっちゃうってわけ。」
「私は静姫じゃないですって言えばいいじゃないですか。」
「あなたねえ、関所破りする人は、大体そういうでしょうが。」
「あ、そうか。じゃあ、願うしかないですね。二人が江戸にいること。」
しかし、その願いが届いてないことに気づくのは、後のことである。
参考文献
『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 第九巻』 監修 山本博文
発行 株式会社KADOKAWA 2015年
『超ビジュアル!日本の歴史大辞典』 監修 矢部健太郎
発行 株式会社西東社 2015年
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