10.ユタカの旋律5
不意に目が覚め、意識を覚醒へと導くと、つけっ放しの明かりがすぐさま目に留まった。
母親の一時間に渡る長電話の後は、僕はテーブルに突っ伏したまま眠ってしまっていたらしい。時計を見ると朝の四時半で、外は朝特有の薄くも眩しい白光に包まれていた。開きっぱなしの教科書とノートに、若干の涎がついている。
僕はため息と共に立ち上がり、お湯を沸かそうとやかんを手にした。
……懐かしい記憶だ。
夢を見ていたわけではない、と思う。寝ているのかどうかさえいまいち判断出来ない。最近の眠りは異常なまでに浅く、回想がまるで夢のように頭を回るのだ。
僕はまだ余韻の残る痛みにしばしば呆然とし、沸騰し始めた湯気を見て紅茶を入れた。僕は、コーヒーは飲めない。苦いのは、苦手だ。
温かさを体の芯に送りつつ、僕はいつだってこうして頑張ってきたんだ、という感情を不意に抱いた。夢とも回想ともとれる、記憶のことだ。いつだって僕は自分が崩れそうになったとき、彼女との思い出や彼女の諦めを呼び起こし、自分を奮い立たせてきたんだ。
これからだってやっていける。大学の友達がやめようと、ほのかがどれだけ諦めようと、僕は頑張るんだ。それしかないんだ。それしか、出来ないんだ……。
胸にちくりとした痛みが浮かんだ。それは急激な速度で広がり、大きな空白を作ろうとした。
僕は慌てて朝食の準備をし、大学までの時間を勉強に当てようと思った。窓を開けて外の景色を眺めると、まだ残っていた枯葉が地面を滑ってどこかへと飛ばされていくところだった。これから冬ももっと厳しくなってくるだろう。雪だって、降るかもしれない。
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