8.ユタカの旋律3
家に帰り、インスタントラーメンなどで夕食を済ませ、勉強する。集中が途切れてどうしようもない時だけラジオやテレビをつけ、それ以外はただ努力することに費やす。
そうやって日々過ごしていけばいいと、そう信じていた。
けれど今は、どうしてだろう。そんな日々を信じることにさえ、疲れを感じる……。
ふと時計を見やると、時刻はまだ六時半で、勉強を開始してから数十分ほどしか経っていなかった。だが体感的にはもう何時間も勉強していたかのようで、やけにぐったりとしており、頭がはっきりとしなかった。
――俺……大学をやめようと思う。
友人からの告白は、僕に強いダメージを与え、全身を揺さぶった。
「何でだよ」
「本当に自分がやりたいことだったのかよくわからないからだ。つまんねえんだよ、今。俺、このままじゃいけない気がする。惰性でやってちゃ、だめだと思うんだ……」
知るか、そんなの。
そうやって吐き捨ててしまいたかった。でも僕はそれが出来ずに、ただ唇を強く噛み締めた。
部屋の電気を消し、強く息を吐いた。
ストーブの熱気が体の側面を温め、長い夜に透き通るような赤い光を揺らめかせている。窓にはいくつかの水滴が張り付いており、外の空気の凍えそうな冷たさを僕に押し付けている。不意に差し込む車のヘッドライトに照らされて部屋は僅かな間姿を現し、何もないことをただ強調する。
本当に、何もない。僕だってそんな気持ちを、ずっと抱えているのに……。
また光が横切り、眼前の机を照らす。ガンという文字と共に症例がぱっと浮かび上がる。その繰り返しが、僕の心を強く締め付ける。
……本当に自分がやりたかったこと。
「僕だって、そんなのわからないのに……」
何だか突然自分が哀れに思えて、そんな風に自分自身を捉える自分に対してももう既に退学届けを出してしまったという友人に対しても、理不尽とも言える怒りを抱いた。あまりにも強烈なその感情は瞬く間に僕を支配し、どうしようもないぐらいに暴れ、行き場を失って体の中をぐるぐると回り続けていた。
倦怠感にも似た感覚だった。全身の骨が鈍く軋むようで、喉の奥には強い渇きと熱があった。苦々しい飢えが、体の芯に空白を作り出していく。
僕は立ち上がり、何か飲み物を飲もうとして冷蔵庫に近づいた。すると不意に電話が鳴り、見慣れた番号が画面に表示され、僕はため息と共に受話器を取った。
「はい、もしもし」
「あぁ、ユタカ? 母さんよ。勉強は順調にいってる? しっかり勉強して早く医者になりなさいよ? あんたにはたくさんたくさん、苦労をかけさせられたんだから……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます