第3話 薬の在り処

 翌日。

 ディリスは王国屈指の魔術師の元を訪ねていた。


 医者から特別に譲ってもらった、肝心なところが読めない文献の復元を依頼しているためだ。

 今まではファインに任せていたが、今はもう頼めない。


 ……なんせ、もう仲間ではないのだから。


「――えっ? 復元できたんですか!?」

「何じゃ、聞いておらんのか。昨日ファインにそう伝えたんじゃが」


 そう聞いて、ディリスはギリッと歯をきしませた。


(ファイン……知っていたのに黙っていたのか)


 怒りの感情が沸々と湧き上がる。


 しかし、今はそれどころではない。

 感情を鎮めてから、口を開いた。


「すみません、すぐに見せてもらえますか!?」

「もちろんじゃとも。ほれ、これじゃ」


 流石は超一流の魔術師だけあって、魔法によって文献は新品の本のように復元されていた。

 ディリスは急いで本を開き、その魔物の正体を確認する。


「ブレイジングメア……」


 そこに描かれていたのは、ディリスも知っている魔物だった。


 ブレイジングメア――黒い身体に炎を纏った馬。

 文献によると、頭に生やした金色の角を削って、その粉末を飲むと怪我や病気がたちまち治るとのこと。


 しかし、ここで問題が二つ。

 一つはブレイジングメアは危険度Aランク――Aランクの冒険者が四人居て、何とか倒せる程度の魔物。

 対して、ディリスはBランク。

 それも今ではパーティーに所属すらしていない。

 つまりは自分では入手できないということだ。


 そしてもう一つが、ブレイジングメアは満月の日にしか姿を現わさないということ。

 満月の日まで残り三日。

 それまでにAランクパーティーに依頼を引き受けてもらわなければならないが、そんな金はどこにもない。


 もはや打つ手がなかった。


(……こうなったら)


 しかし、大切な妹の命が掛かっている以上、諦める訳にはいかない。


 ディリスは魔術師に礼を言った後、一縷いちるの望みを掛け、冒険者ギルドへと足を運んだ。

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