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「――ふぅ、全く。僕が小さい頃からあのポンコツはずっとあんな感じだよ」


「お互い怪我しなくて良かったです……あ、このアップルパイ美味しい」

「さて、次はどの子見たい?」

「えっと……寵さんと仲が良い、喧嘩に発展しない魔物さんの所に……」

「んー、みんな仲良いけどみんなと喧嘩しない保障は無いなぁ……あ、でもあの子とならっ」


――そんなわけで、丁度近くにあったその子の檻の中へ。

この魔物はその見た目も相まって、女の子の客が多い。

まるで少女漫画に出てきそうなその子とは――。


「ふわぁぁ……ほんとに翼が生えてますっ。キレイですっ」


白馬、ツノ、翼。

このキーワードだけですぐにイメージ出来る通り、神話で有名なアレである。


「この【ユニコヌン】はかのユニコーンの元ネタになった一角獣だね。翼だって飾りじゃないし……乗ってみる? 龍湖なら、まぁ『大丈夫』でしょ」

「大丈夫……? よく分かりませんが、いいんですかっ? 良ければ乗りたいですっ」

「よぉし、じゃあユニ、久し振りにこの辺一望したいからお願い」


ブルルッと鼻を震わせたユニコヌンは脚を曲げて少し屈み、乗るのを促す。

先に僕が背中に跨った後「ほら」と龍湖の手を取り彼女を座らせた。


「ちゃんとしがみついてなよ。じゃ、レッツゴーユニッ」


僕の掛け声と共に、ブワッとユニコヌンは両翼を立て、思いっきり、地面に風をぶち込む。


直後、「キャア!?」 ギュンと飛翔する僕達。


翼を扇ぐ度に、一気に何メートルも上昇。

大地を離れてから一〇秒も経たず……僕らを眺めていた一般客らはアリほどの小ささになった。


「あわわ……だ、大丈夫ですか寵さん。もう、目を開けても大丈夫ですか?」

「瞑れとは一言も言ってないけど、良いよ。もう、僕らは空の一部だ」

「ぅぅ……(パチ)……、……ぁ……すごぃ」


 言葉を失うとは正にこんな感じ。

『広大』。プランテーションを言葉で表すならそう答える。


これ程の高さに飛翔して尚、このテーマパークの全容は把握出来ない。

後ろを振り返れば、僕らが通ってきた橋と港と鳥居、

パーク出入口の城門に城、


それぞれが一つの街ほどあるショッピングエリアや遊園地エリアが広がっているが……視線を戻せば、怪物園エリアから奥は更にブワーーーっと敷地が伸びていて、端が見えない。


「わぁ……まだ見てない魔物さん達もここから覗けますよっ。奥にも沢山居ますっ」

「怪物園で表に出てる子だけでも千種類以上は居るからね。エリアもいくつも分かれてて徒歩だけじゃとても一日で回れないぜ。配置や種類もよく変わるし……ん? 魔物達も僕らに気付いて手振るなり尾を振るなりで反応してるよ。

 あの三つ頭のライオンみたいなのはギガキマイラで、

金で出来た巨人はゴールデンゴーレム、

デカイ花を咲かせる食人植物はラフレシアンで、

トゲトゲ甲羅のデカイ亀がガメッパで――」


ほかにも巨大陸鯨メガロホエールや転生を繰り返す美しい火の鳥などを丁寧に指差しで説明してやったが、龍湖はそちらより説明する僕をニコニコと眺めていた。

なんて失礼な奴だ。


「……今更だけど、君がこのユニコに乗れて良かったよ。条件クリアしてなきゃ振り落とされてるとこだ」

「え? 龍湖何かしましたっけ?」


してなかった、というか。


「ユニコヌンは『処女』しか乗せない処女厨なんだよ。ね?」


ブルルッとユニコは鼻を鳴らした。因みにこの子はメス。


「はぇー変わった条件ですねぇ。龍湖の居た村だと『決められた時期に決められた相手』を充てがわれる伝統でしたので……最近の若い女性は早くに子作りを?」

「うん、まぁ、でもそこは個人差はあるだろうね」


やはりドギマギしなかったか。逆に僕が返答に困ったわ。


ユラリユラリと楽しむ空の旅。


飛び立ちの時とは違い、飛行は優雅で穏やかなものだ。

龍湖はさわさわと風で揺れる海色の髪を抑えつつ、


「凄い賑わいですが、怪物園から奥は高い壁に覆われていて、その先の広い平原やら山には人が見えませんね……というか、今更ですがこの島って、入る前に橋の上で見た時より『大きく』なってません?」

「お、気付いたか。そ。表向きだと小さな島だけどカモフラージュしててさ。あの鳥居を潜った先を『異界化』させてるって説明した通り、ここは既に日本とは別の世界だ。

 ま、この島だけで面積は日本くらいあるんだけれど……

元々、ここの魔物達は【異世界】出身でね。

その異世界での魔物の土地を『くり抜いて』この世界に持って来て、

この白玉島にくっつけたって感じ。

最初はこんなテーマパーク作る気なかったみたいだけど」

「よく分かりませんが凄いのは伝わってきます……では、あの壁から奥の平原が、魔物さん達が普段生活している土地だと?」

「そだね。完全にパークとは隔離されたプライベートスペースだ。ま、中にはショッピングエリア隅にある社員寮とか仙台に暮らしてる魔物とか居るけども」

「なるほど。……余程、魅力的だったんですかね? 世界を変え、移り住みたい程に、この日本という土地が」

「どうだろうね。てかそもそも、魔物達がこの日本に来た理由ってのが」



ゾクリ――――



「ヒッ」


空気が大きく震える。

地震の予兆を思わせるような不吉な空気の波。

ビクリと龍湖は体を弾ませ、僕の背中に抱き付いてくる。

あー……【あの人】に見つかったか。

 いや、元々『バレてた』けど。

一応、龍湖に訊く。


「どしたの? お空怖くなった?」

「い、いえっ。なんだが、急に鳥肌が……あと、刺すような視線をあちらの方から……アレ? なんだか、あの檻の一箇所だけ、大気が陽炎のようにボヤけてよく見えない?」

「じっくり見ない方がいいよ。あそこにいるのは【ヤベーの】だから」

「め、メグちゃん、もう降りていいっ? これ以上【あの方】を見下ろす高さに居ると失礼になっちゃうからっ」

「え!? ユニコヌンさん喋れたんですかっ」

「そら怪物園にいる子達はみんな話せるよ。うん、ごめんねユニコ、もう満足」


フワリフワリと地上に降り、元の檻の中へ。

ユニコと別れを告げ、檻を出る。

 その間、龍湖は僕の手を離さなかった。まだ震えている。


「め、寵さん……先程の威圧感は一体……? ご存知のようですが……」


龍湖は、自身の持つ能力ゆえに他の感覚器官が鋭い。

耳や鼻、第六感の優秀さはここの魔物らに匹敵する。

だからこそ、【関わってはならぬ化け物】に対しても敏感なのだ。


「怪物園の入口で話してた、ここで一番偉い人からの挨拶(牽制)だね。でも気にしなくていいよ。大人の癖に大人げない子供みたいな人でね。ま、見応えはあるから、挨拶しに行こっか」

「そ、そうですよねっ。寵さんの側にいる以上、やはり挨拶無しでここに居るのは失礼になりますっ」

入る前にも漏らしていた決意を再び抱く龍湖。その決意、後悔しないといいが。

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