13


「次はどちらへ行かれるんです?」

「世ーにも恐ろしーところさっ」


 僕が脅すように言うと、龍湖は「あわわ」と唇を震わせ、


「な、何が待ってるんですっ?」

「耳を澄ませて聴いてみな」


ギャーギャー! キーキー! ゲロロロッ! グゲグゲッ!


「なっ、何です!? 聴いた事の無い奇怪な鳴き声があちらの方からしますよ! ゆく先に何が待ち受けてるんですか!」

「ふふ。ショッピングエリア、遊園地エリアと我がプランテーションが誇る三大エリアの最後の一つが今からの目的地さ」


ゴクリ……生唾を飲み込む龍湖だが、まぁそこまでビビる場所でもない。

いや、初見だとビビるけど。ならビビる場所じゃねぇか。

近付くにつれ大きくなっていく鳴き声。

空気の質もピリピリと剣呑なものに変わっていく。


「ほら、あそこが入り口だよ」

「随分とおどろおどろしい門ですね……」


鉄格子の大きな門と、乗り越えられないよう上には有刺鉄線と針の山。

まるで刑務所。

居るのは犯罪者なんて可愛らしい奴らじゃないけど。


「えっと、【怪物園】……? ニュアンス的には動物園的な所と推測出来ますが、この入り口周りの厳重さは、やはり外への逃走を防ぐ為ですか?」

「そだね。ただし、【侵入者】を逃げられないようにする為の、だけど」

「侵入者……?」


 首をかしげる龍湖だが説明するのは面倒いので、今はまず中に入ろう。

門の前にいる門番さんに「ちわー、二名様入るよー」と挨拶すると、

「あっ、若!」「おはようございます!」と頭を下げられた。

「そのお連れの方は?」「海外の田舎娘感がいいですね」

「僕の追っかけだよ」

「ど、どうも。追い掛けて来ました」

「若はモテモテですなー」「いつも違う女性を引き連れてますなー」

「で、今日は【あの人】、どう? 機嫌悪い感じがひしひし伝わってくるけど」

「はぁ、そりゃあまぁ、若が新しい女の子連れて来たからでしょうな」

「千里眼に地獄耳……若が島に入った瞬間から【王】は気付いてましたよ」

「あーやだやだ。僕をウザがっときながら素直じゃないんだからあの人。ツンデレするほど若くもないだろに」

「あ、あの……不穏な会話が聞こえましたが、龍湖は入って大丈夫そうですか? というか、どなたの話を……?」

「ここで一番偉い人。いや、人じゃないけど、ま、ヘーキヘーキ。取って食われたりは、多分、されない、かな。ね?」

「恐らく」「いやしかし或いは」

「不安です……し、しかし、一番偉い方ならば挨拶しなくてはですねっ」

「良い心がけだ」


門番さんに視線をやると、頷き、門を開けてくれた。

直後、ヒュウと生温い風が通り過ぎる。

前に著名な霊能力者だかの人がこれを【地獄の門】と例えていたが……普段から本物の地獄の門の前を通る繭さん曰く、『地獄の方がましですわ』



怪物園に入るとまず目に入るのは、巨大園内マップの立て看板だ。

黒板の倍のデカさ。

どこにどの怪物モンスターが居るか、デフォルメイラストで分かりやすく載っている。

僕には見慣れた物だが、初見な龍湖は気になる物だろう。


「ふぅむ。この園内には、先程の闘技場で見た選手の方々も居るのですか?」

「居ないよ。あの子達は基本、僕らが街に入る前に絡んで来た魔物達みたく島の周りをウロついてるんだ。ここに居るのは『上位』の魔物のみ」

「はえー、ならばこの看板に載っているのは凄い方々ばかりなんですね。闘技場には参加しないのですか?」

「するよ。まぁ、表じゃなく『裏闘技場』だけどもね」


僕や繭さんも出た事のある闇の武術トーナメントだ。

 僕はすぐ負けたけど。


「で、ピンと来る子とかいる?」

「んー……どの子も見た事無いので、全部気になりますねぇ。あ、この『人型の機械』さんは何かキてますっ」

「【機械仕掛けの女神デウスエクスマキナ】か。魔獣タイプじゃなくロボタイプをいきなり見たいなんて分かってるね。なら近いし行ってみよ」


この怪物園はどの怪物も大人気で人だかりは絶えないが、そこは僕の『コネ』で直接触れられる檻の中まで龍湖を招く。

周りの一般客からは羨望の眼差しを浴びるが、そこは不定期開催の触れ合いイベントまで待ってくれ。


そんなわけで、檻の中。


「はえー、普通に綺麗な女性にしか見えませんが……?」

「ほら、このメイド服のスカートから伸びるおみ足を見て見な。膝が西洋人形のように球体関節だろ?」

「ほんとですっ。なんだかイヤラしいですねぇ」


「いきなり来てジロジロお何なんデスか貴方達……まぁいいデス。そこのお嬢サンは坊チャンのお知り合いのようデスね。フフ、アップルパイ、食べマス? (パカッ)」


「わっ、お腹が開いて中から焼き立てのケーキ……? 完全にロボです! 頂きます!」

「マキナー、僕のはー?」

「その辺の草でも食べてて下サイ。ワタシはこのキレイなお嬢サンに興味がアルのデス」

「ぐぬぬ……聞いて龍湖っ。このロボったら三百年魔王軍に仕えたババアで現役時は毎秒百五十発の魔導ガトリングで敵を蜂の巣にしたっていう無慈悲なキラーマシンなんよっ。あと女の子が好きっ」

「黙らっシャイ(ピュン!)」

「ぅおあぶねっ、客もいるのに魔導レーザーだすなっ、地面溶けてんじゃねぇかっ。スクラップにすんぞっ」

「あわわわ……喧嘩はやめて下さいっ」


龍湖に止められバトルは中止。

一度始まれば魔物達は無事として一般客は言葉通り蒸発してたろう。

去り際の「お嬢サンは置いていきなサイ」がガチっぽくて怖かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る