12
何が彼女をそうさせるのか。
――龍湖が次に選んだ遊戯は……
「【ロシアンフード】か。出て来る同じ見た目の二つの食べ物……その片方は『毒入り』で、セーフの方を食べれば賭け金倍だけど、外したら危険を伴うギャンブルなわけで」
「確率は二分の一! どっちかを選べばいいなんて簡単ですっ」
「物は言いようだね。難易度は初級中級上級。初級は毒じゃなく激辛、中級も少し身体が痺れるってだけの毒だ。でも上級は……」
「倍率の大きい上級で!」
「生き急ぐねぇ。……最初は二つの【ウサギさんにカットされたリンゴ】か」
「くんくんっ」
「一見同じ様な赤いリンゴだけど、片方は多分、異世界産の毒林檎【スノーホワイト】だね。文字通り『死ぬ程美味しい』けど、その毒を摂取した者は全身がリンゴの木になってしまう恐ろしい果物さ。因みに僕は普通に食えるけど、上級者に出る毒は無臭で嗅いでも分からんと思うよ。ギブする?」
「安全性なのはこっちですねっ。片方はトリカブトのアコニチンに似た毒の香りがしますっ(ガブッ)……うん、平気ですっ」
「マジ? ……ああ、カジノディーラーが頷いてるから正解なんだね。てかアコニチンも無臭だったような……?」
「ご馳走様でしたっ(けふっ)次ッ、お願いしますっ。……これは、おはぎ?」
「ああ、これか。見た目も味もおはぎだけど、これも異世界の木の実で【ヒグラシ】って名でね。ほら、さっき会ったドリーの木に成る実なんだけど、これも死ぬ程美味しいよ。食べたら『体内から針が突き出て巨大なイガグリ』みたいな見た目になるけど」
「くんくんっ」
「因みに僕も食べた事あるけど、なんか魚の骨が引っかかったみたいに喉がチクチク痛んでねぇ。ドリーが柔軟剤? くれて何とか流し込めたよ」
「安全なのはこっちですねっ。片方はイチイのタキシンに似た毒の香りがしますっ(ガブッ)……うん、平気ですっ」
「マジ? ……頷いてるからまた正解か。タキシンも無臭だった気がするけど……龍湖は鼻が良いんだね。あと、学もあるんだ」
「ご馳走様でしたっ(けふっ)一応、村の中でも勉強はしてましたからねっ。近くの森の植物は一通り調べましたよっ。次ッ、お願いしますっ」
その後も龍湖は正解を続け、遂にはディーラーがギブアップ。
結果。
「倍の1万Gになったね。どうする?」
「次行きましょう!」
「知ってた」
――龍湖の勢いは衰える事を知らず……
通常の約3倍、サイコロ10個使う異世界チンチロでは持ち前の聴覚で目に見えぬ出目の役を言い当て……
こちらも通常の約3倍、1〇〇個ある穴のどの数字に玉が入るか当てる異世界ルーレットでは持ち前の直感でピタリと連続的中させ……
毎度、持ちGを全て賭け倍々に増やして行った龍湖が――時間の都合上――最後に選んだのが……。
「流石にこれ以上のビギナーズラックは続かないぜっ」
「ここが闘技場ですかっ。凄い熱気ですっ」
「ルールは簡単っ。魔物四体の闘い、誰が生き残るかを予想するだけさっ。龍湖が賭ける魔物は」
「当然大穴ですっ」
「言うと思ったぜ。お、次の試合が丁度始まりそうだよ」
『選手の入場だぁ!! 最初に出て来たのはー? キター! 強固な甲冑と鋭い切れ味の刀を巧みに扱う未だ負け無しの鬼神! 鎧武者タツジンだー! 今日もその鋭い剣さばきで相手を微塵切りにしてくれー!
次に出て来たのはー? で、デター! こちらも負けなし! 黄金インゴットで出来た巨大な体を持ちその破壊力と硬さは見た目通りの守護神! ゴールデンマンだー!』
お次はー? な、ナニー! こいつも出てくるのかー! 説明不要! 目に付いたモノは全て餌! 闘いではなく捕食! その太さはトンネル級で体長はこのテーマパークを一周する程に長いと言われる蛇神! ヨルムンガンドだー!
なんて豪華なメンバー勢揃いだー! これは熱い闘い必至! そしてラストを飾る最後の選手はー? え、エエー! 間違いではないのかー!? プルルと震える水色のゼリー! ただの可愛いスライムだー! 今日が初闘技場参加らしいが大丈夫なのかー! いや逆にジャイアントキリングしてくれそうな予感もするぞー!』
「あれ? あのスライムちゃん……テーマパークに入ってすぐ寵さんに擦り付いて来た……?」
「よく見分けつくね。どうやらそのようだ。さて……各選手の賭け倍率は……まぁ、スライムが一番高くて他は横並びっていう予想通りか」
「むむ……少し選手の皆さんを『視ます』ね」
「お、ここで【第三の目サードアイ】を使うか。君の良過ぎる感覚の集大成。『今の君なら』前以上の精度で相手のオーラを覗けるだろうさ」
「おや……? このオーラの差……【あの選手】だけ『突出し過ぎ』てませんか?」
「ああ、やっぱ分かっちゃうんだ。ならその子に賭けるべきだね」
――結果。
『お、大番狂わせだぁ! な、なんと! ただ一人の勝者は【スライム】!! 強者全ての攻撃を受け流し! 鎧武者や金塊、そしてあの大食いヨルムンガンドすらも体内に取り込んで消化してしまった! ジャイアントキリーンッッッ』
「なるようにしてなった結果ですねぇ」
「あのスライムは前々から骨のある(ないけど)有力株と報告は受けてたからね。いずれは出世してパークの従業員に任命されるだろうさ」
「食べられた他の選手達はもうそのままなのですか?」
「いや、あとで生き返らすよ。この闘技場は魔物達の腕試しとストレス解消の場でもあるからね。思いっきり殺りあって貰ってるよ。で、今の的中で合計なんGになった?」
「えっと……あの子に全額賭けたから……やったぁ! これで目標の10万G達成です!」
「目標あったんだ。そのお金で何するの?」
「これです! パンフレットのこのページに書いてあるGと交換出来るこの特典が欲しかったんです!」
「【プランテーション家族招待券】か。別に僕の名前で招待出来たんだけど、まぁ、君がそうしたかったんなら良いんじゃない?」
「はいっ」
――こうして、龍湖の戦いは終わった。
その後、僕らは遊戯場の出口へ向かい、受付でGと景品を交換して貰いに行ったのだが……。
「ふんふんふー……ん? おや? 受付の隣にあるこの扉……」
「何か気になる事でも?」
「……開けてはならぬような、何かを閉じ込めているような、そんな負のオーラを扉の奥から感じます」
「良い勘してるね。そこは『裏遊戯場』の入り口さ」
「裏、ですか?」
「そ。豪運と実力を兼ね備えた者のみが入場を許される魔境でね。賭け金も最低5万Gからと来たもんだ」
「はぇー。苦労して貯めた龍湖の蓄えが一瞬で消えますねー」
「でもそれに見合った報酬も用意されてるぜ。ほら、扉のポスターに書いてある」
「ふむふむ……1千万Gで【一年滞在権】。5千万Gで【願望器】。1億Gで【永久滞在権】。三億Gで…………め、【寵さんとの一日デート権】!?」
「それだけの価値があるって事さ」
「か、稼がないと……(フラリ)」
「こらこら、中に行こうとしない。この先の裏遊戯場じゃあ君のその力だけじゃ勝てないよ」
「な、ならばっ、コツコツさっきの遊戯場でっ」
「表闘技場は一度の賭けで最高でも50万しか稼げないから、コツコツやってたら一日じゃ終わらんよ。諦めて家族でまた来いっ」
「ぅぅー、デート権ー」
龍湖の首根っこ掴んで引き摺る僕。
デートくらいまたしてやるってのに……なんて言ったら調子に乗りそうだったので黙っておいた。
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