11

……からの、『10』冒頭である。


「寵さんっ。今着ているご洋服含め、龍湖は頂いた物やサービス分のGを自分で稼ぎたいですっ」

「唐突だなぁ」


その心掛けは立派なものだ。

しかし、この場所でGを稼ぐという行為はそう楽じゃない。

Gは入園時、全員に一律50配られる。

このテーマパークでのGの価値は、1Gで食事一回、10Gで宿泊一回といった相場だが……日本円やドルなど現実のお金との換金は――例え百万だろうが千万積まれようが――1G足りとも不可。

従業員は一切応じないし、個人同士裏でこっそりやればバレないだろうという甘い考えは捨てて欲しい。


「と言っても、君がこれまで楽しんだ分をGに換算したら、5〇〇は下らないよ? とても一日でコツコツ貯められるもんじゃない。もし一気に、というならそれこそ『遊戯場』しか……」

「ならばそこですっ。向かいましょうっ」

「怖いもの知らずだなぁ」


一気に稼げる、という事は、それに見合ったリスクもあるという事なのに。

ここの破産者の扱いは――臓器売買だのコンクリ詰めだの――現実世界のように『甘く無い』。

怖いもの知らずなのか、それとも僕の知り合いだから見逃して貰えると思ってるのか。

多分、この子の考えは『どちらでもない』。

火傷する前に話題変えて有耶無耶にしてやろう。


「たくさん稼げたら、余ったGで繭さんのお店の【恋愛グッズ】と交換したいですねー。あの指輪と同じ効果のっ」

「強欲だなー。あっ、そいえば龍湖。少し、身体が『軽くなって』ない?」

「え? マリアさんに抜かれた血の分という意味ですか? それとも……む? 確かに、疲れが抜けているような? それに、心もスッと……?」

「マリアさんは血を吸うと同時に、疲労や嫌な記憶(に対する気持ち)も吸い上げてくれるからね。だから別のとこに遊びに」

「成る程っ。絶好調ですっ。これならば賭け事も負ける気がしませんっ」


失敗した。もう知らんぞ。


――そんなこんなで。


歩いてすぐの場所にあった遊戯場カジノに到着。

一見、ただの大きなゲームセンターなので気軽に入りやすいが、夜になるとキラキラ照明まみれになって怪しい雰囲気満載になる如何にもな場所。


「ここは一段と賑やかですねー。中からの喧騒と電子音がここにいても響いてきます」

「パチンコ屋みたくうるさいのダメな人にはダメかもねー。君も耳が良いから辛いんじゃない?」

「いいえっ。確かにビリビリと振動が伝わってきますが、田舎にいた龍湖には全てが新鮮で刺激的ですっ。中に行きましょうっ」

「さいですか」


――戦場に足を踏み込む僕達。


遊戯場の中は当然の如く広く、遊べるゲームの種類も無限大(は言い過ぎだが)。

定番のスロットやルーレットやブラックジャックは勿論、側にある別の建物では競(魔獣)馬や競(魔導)艇レースモノも充実しており、アトラクションが苦手なパパやおっさんも楽しめる作りとなっている。

遊戯場内をぐるりと回りつつ、僕の説明を聞きながら「ふむふむ」と勝負するゲームを真剣に吟味する龍湖。

意外だ。

アトラクションの時みたく、何でもかんでも触りたがると思ったのに。


「そうですね。ではまず、これから始めます」

「へぇ、五連スロットか。まぁ無難だね。なんG投入する?」

「全部です」

「勝負師だねぇ」


負ける事など考えていないのか、手首に巻いた【時計型デバイス】を筐体にあてがう龍湖。

Gの管理は基本、入場時に渡されるこのデバイスで行う。

電子マネーの形が普通だが、桃源楼の時のカップル客のように現金化して扱う事も可能だ。メリットは特に無いが。

このデバイスはスマホ機能の他、ボタン一つで遠く離れた園内の目的地に瞬間移動出来るワープ機能もあるので、急ぎの場合には便利である。3G消費するけど。


「ここにあるスロットは1ゲーム1Gからだけど、君が選んだのは50Gの『この』遊戯場最高額筐体だ。50Gしか持ってない君は一回しか出来ないよ?」


個人的には早く終わって貰った方が気が楽なんだが。

Gが無くなれば変な勝負も出来ないし。


――五連スロットが回りだす。


「一回で十分ですよ」


そんなカッコいい事を言い放ちつつ、龍湖は五つのボタンを順に押した。


7 7 7 7 7


「マジか」


筐体がウーウーとけたたましい音楽を鳴らす。

周りの一般客らも何事かと注目していた。

五連セブンは百倍の排出。

これで龍湖は500どころか5000Gもの大金を手に入れたのだ。


「運任せ……じゃないよね。目押し?」

「はい。『この程度』ならばイケると思いまして」


ここのスロットは抽選確率で揃うのでは無く、目押しで揃える台のみ。

しかし一般人の動体視力では追い付かない高速回転で、それこそ運ゲーと変わらない。

そして当然押すボタンのタイミングも重要である。

だが龍湖はこの結果を、持ち前の動体視力と反射神経で勝ち取った。

最早一般人レベルの『運動神経が良い』という感覚ではない。


「あっ。すごいすごいっ、この腕のヤツにちゃんと5000入ってますっ」

「これだけあれば色々出来るねぇ。さ、目標額超えたしもう出よっか」

「いえもっと稼ぎますよっ」

「強欲ッ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る