9
「これ! これはどんな雑貨ですかっ? 変わった木の人形に見えますが?」
「それは恋のアイテム【ラブレドール】だね。人形の体に想い人に宛てた恋文を書いてそれから燃やすと相手に想いが伝わるお助けグッズさ(ただし一連の作業を他人に見られたら身を焦がすが如く焼死)」
「はえー、素敵な雑貨ですねぇ。あっ、この瓶に入った液体は?」
「それも恋のアイテムで【夢魔のエキス】だね。使い方は香水と同じで嗅いだ相手を魅了出来るよ(ただし同じ香水は二つとなく相手にはそれ以外は効かなくなる上効果が切れたら逆に嫌われる)」
「はえー、あっ、これ知ってます! カメラ、ですよね?」
「それは恋のアイテム【霊写鏡れいしゃきょう】だね。平安時代に生み出されたというカメラでファインダー越しに見ると【魑魅魍魎】が見えてシャッターを押すと撃退出来るから被害に困ってる異性を助けられるよ(ただし使い過ぎると裸眼でも見えるようになり常に魑魅魍魎に付け狙われる)」
「はえー、ここは恋する乙女の為の雑貨屋さんですねぇ」
「よく知らないお客様に店のイメージを曲解させるのはやめて下さらない?」
割り込んで来てしかめ面をするのはここの店員さんだ。
【桃源楼とうげんろう出張所】
不思議な雑貨を数多く取り扱う和風チックなアイテムショップ兼お宿。
目の前の店員さんは着物の金髪美人で、頭には大きな蜘蛛(本物)を髪飾り風に付けている変わった人。
このテーマパークの従業員変人だらけだが。
「ここにあるのは呪具ですからね。どれもこれもが不幸な結末しか招かぬ災厄です」
「そんなん売る店もどうかと思うけど……兎にも角にもこんちは繭まゆさん。隣の彼女は一昨日田舎で知り合った変な子だ。なんか僕を追っかけて仙台まで来ちゃったから、かっぺなこの子に大都会デートを味わわせてる最中さ」
「ど、どうも、変な子です。寵さん、この方は……」
「絡新じょろう繭さん。普段は宿泊者の身も心も癒すエッチな超高級お宿の女将をしてるんだけど、たまにこの店の番にも来るなんか偉い人だよ」
「誤解を招く紹介はやめて下さらない? 桃源楼は健全です」
因みにその本家桃源楼がある場所は『現世(この世)と幽世(あの世)』の境目こと神奈備かむなび。
「はぁ……そこの貴女、悪い事は言いませんからこの少年に関わるのはお止しなさい。まともな人生を送りたいのであれば」
「子持ちの良い大人がいきなりディスらないでくれる?」
「め、寵さんは龍湖のヒーローですっ。逆に、この方が龍湖をまともな人生の道へと『解放』してくれましたっ」
「……寵、この少女に何をしたんですの?」
「んー、『蛇退治』?」
「よく分かりませんわね。――ああ、そういえば」
言いつつ、繭さんは着物の袖からゴソゴソと何かを取り出す。
「なに? お小遣い? 気前が良いなー」
「厚かましいガキですわね……これ、ついでなので【貴方の母君】に渡して下さいな」
一件、トランプでも入ってそうな厚めのカードケースが二つ。
実際、中身は絵の描かれたカードの束のようで。
これは? と顔を上げて視線をやると、
「玩具ですわ、子供向けのね。頼まれていたのです。『子供用の』面白いモノを見つけたら寄越してくれ、と」
「はぁ、成る程ね。ウノみたいなゲーム?」
「さぁ。古代エジプトピラミッドの宝物庫から見つかった代物ですが、部下の解析によると、魂を賭けた決闘者同士が絵の描かれたカードを出し合って競う闇の儀式の道具、との事で」
「デュエリスト用のアレ……実在していたのか。まぁいいや。んー、あ、そうだ、丁度いい。お使いの駄賃がわりに、売り物の服一つ頂戴よ。この子服、これだけしかないんだって」
「元々は貴方の母君の頼みで……はぁ、言っても無駄ですわね。サイズ違いがあっても知りませんわよ。わたくし、少し席を外しますが……寵、変な事はしないように」
釘をさしながら繭さんは離れて行った。
付き合い長いのに、信用無いなぁ。
「さ、そんなわけでどれにしよ? ケッコー色んな服あるけど好きなの選んで」
雑貨屋ではあるが置いてある服も多く、世界各地にある民族衣装から異世界産のドレスまで多種多様。
無論、全て呪いやら魔法効果がエンチャントされてるが。
「い、いいんですか? 龍湖なんかにこんな素敵なお召し物の数々から……」
「構わんて。別にその童貞を殺す服も好きだけど」
「そ、そうですか? 服の事は龍湖よく分かりませんが……ならば寵さんのお気に入りのコレに近い……こんなのはどうでしょう」
「ほう、ディアンドルか。お目が高い」
ドイツ南部の農村の娘が着ていたワンピースタイプ(上下別もあるが)の民族衣装で、その名前の意味は『お嬢さん』。
主な特徴としては襟が深く胸元が丸見えで、スカート部分がチェック柄といった所か。
今彼女の着ているお淑やかな雰囲気のソレとは逆な元気娘を思わせる雰囲気の服。
言うなれば、田舎の童貞を殺す服。
「スカートも君のカラーにピッタリなブルーのチェック柄だから丁度いいかもね。さ、その中で着た着た」
「は、はいっ」
弾んだ声で試着室に飛び込む龍湖。
少しして、シュルリと艶かしい衣擦れの音が漏れて来る。
例えここで僕が中に乱入しても彼女は怒らないだろうが、繭さんが戻って来たらうるさそうなので我慢だ。
手持ち無沙汰な僕は、先程受け取ったカードケースを眺める。
ママンに渡す予定の代物。
と、いっても、本人が欲しがったわけでなく、更に渡す相手が居るのだろう。
【最愛の息子】という相手に、
愛されてるねぇ、ホント。
「(カララ……)あ、あの、終わりました。どうでしょう?」
「おー、バッチしバッチし。派手すぎず地味すぎず、このテーマパークの外で着てもいい具合に(龍湖なら)浮かない感じだよ。素材が極上だから何着ても映えるねぇ」
「そ、そうですか? えへー、気に入っていただけて嬉しいですっ」
「――あのー、すいませーん」
「ん?」
唐突に声を掛けて来たのは、女子大生ぐらいの二人組。つまりは僕と同年代。
「店員、の方ですか?」
「そうですよ」「寵さん!?」
「良かったぁ。あの、この綺麗で可愛らしいペアの指輪が欲しいんですけどぉ」
「ふむ、【誓いの指輪】ですね。特殊な経緯を持つアイテムですが、説明なさいます?」
「「はいっ」」
「では……その指輪、イギリスのとある魔術師が愛を誓った恋人の為に作ったモノでしてね。嵌めた者同士の永遠を祝すよう力を込めた指輪。ですが、それを二人が嵌める事はありませんでした。両者とも、不幸な事故で亡くなってしまったのです」
「「そんな……」」
「その後、指輪は様々な場所を転々とし……今はこうして、桃源楼へと流れ着きました。指輪は、今も持ち主を待っています。さて、どうします?」
「「下さいっ」」
「では、『50G』頂きます。はい、丁度ですね。ありがとうございましたー」
ウキウキとした表情で、カップルは店から出て行った。
「えっと……今あの方々から頂いた物は? 見た所、硬貨の様ですが……?」
「この園内で使えるお金。例えば普通の食事やお土産なら日本円でも良いけど、特殊なアイテムやら上のサービスやらはこのGグラが必要なんだよ。『イベント』やら『クエスト』やら『外から持ち込んだ珍しいモノとの交換』やら『カジノのゲーム』やらでしか手に入れられないけど」
「はえー、面白いルールです。に、しても、あのお姉さん方、良い買い物が出来て良かったですねっ。最近では、友人同士でもああいうペアの指輪、普通なんですかね?」
「まぁ(愛の形は)人それぞれでしょ。それよりも僕はあの二人の行く末が気になるよ」
「と、いうと?」
「(あえて)あのカップルには伝えてないけど……」
指輪を作った魔術師と恋人が死んだ理由というのが、不幸な勘違いで。
恋人が別の男といる場面に出くわした魔術師は怒りのままに二人を殺すが、実はただの兄妹だったというオチで。
その後は魔術師も恋人の後を追うも……。
「作った指輪には怨念も付与されちゃってね。もしペアの指輪を付けた両者が別れた場合……とても不幸な目に遭うのさ」
「あわわ……つ、伝えなくて、大丈夫なのですか?」
「ふふん、要は別れなきゃ恋人の幸せを保証するメリットだらけな指輪だからね。変に萎縮されたくなかったのさ」
「はえー、よく考えてるんですねぇ」
素直に話したら売れなくなるからね。
「でも、そんな真実を知ったなら、龍湖も欲しくなりますねー。似たような力を持つアイテムは無いのですか?」
「あるけど、なんで?」
「寵さんとお揃いで付けたいですっ。龍湖が離れるなんて事は有り得ないですからっ」
ヒェッ。
「戻りましたわよー……、……? おや? ここにあった指輪は? ……寵。まさか、勝手に売ったりなどしてませんわよね?」
「よし、じゃ繭さんも帰って来たし、店出て次行こっか」
「は、はいっ」
「こら寵っ、答えなさいっ」
「繭さーん、ここに龍湖の服置いとくから畳んどいてー、後で取りに来るよー」
「ここはクリーニング屋さんじゃありませんわよっ」
繭さんに伝わったようなので、そのまま僕らは桃源楼を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます