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「賑やかですねぇ。数時間前に居た仙台駅を思い出しますよ」
場所は変わらず城下町エリア。
ここは一軒一軒が道具屋だったり武器防具魔法具屋だったり宿屋だったり占い屋だったり教会だったり飲食店だったり宿屋だったりして、自然、人の多い場所になる。
「初めてでしたが、電車に乗るのはキチョーな体験でした。あ、そーいえば、駅ですっごい周りからチラチラ見られましてね? 今の龍湖、そんなに変な格好ですかねぇ」
不安そうな顔で僕の評価を待つ彼女。
今もチラチラ視線を送られてる事には気付いてないらしい。
清潔感のある白のブラウスとハイウエストな群青色スカート、か。
「ぅんにゃ。似合ってるよ。ゴシック風味な清楚系お嬢様って感じ? まさに今時逆に新鮮な【童貞を殺す服】なスタイルだね」
「殺す!? そんなに殺傷力があるんですかこの服に!」
「あるある。心臓を撃ち抜く程に魅力的な感じだよ。みんなが見てたってのは、それだけ目を惹いてたって事さ。君自身がね」
「はぅ……よ、よく分からないです。唯一着られそうなサイズのが母さんのお下がり、でしたので……」
母ちゃんのセンス可愛いな。でも、着られそうとは言いつつ胸部はキツそうだ。乳袋が出来てるし。
「ついでに後で服も見よっか。このテーマパークには『無い物は無い』からね。外に出ないでもここで一生過ごせるよ」
「選んでくれるんですかっ。楽しみですっ」
フンフーンとご機嫌に鼻歌を奏でる龍湖。
まるでオモチャを買って貰う時の子供のよう。
まぁ間違ってないか。彼女の退化した精神年齢的な意味で。
「色々楽しい場所だけど、気になるとことかある? パンフレット(五百ページある)は車の中で読んだでしょ?」
「んー……無いでも無いですが、どこでもいいですよっ。寵さんと一緒ならっ」
「龍湖は素直で可愛いなぁ、妹にしたい(ナデナデ)」
「えへへ。龍湖もずっと兄さんが欲しかったですっ。寵さんも一人っ子ですか?」
「んー……妹みたいのが二人居るかな? いや、娘かもしれん。あと別居してる弟みたいなのも」
「はぇー流石寵さん、家庭環境も複雑ですっ。是非ご挨拶したいですねぇ」
この子はツッコム事を知らないな。
おかしいと思ってないからだろうけど。
何でもかんでも信じて、お兄ちゃんは心配だ。
あと、僕の家族には会わない方が良い。命が惜しいなら。
「じゃ、まずはアトラクションを楽しもっか。ここはレジャー施設の力の入れようも半端無くってね。遊園地ってとこ自体初めてだろうけど、ここの楽しさを知ったら他に行けなくなるよ」
「お任せしますっ」
最初は……そうだな。
あの幻想的な景色を見せてあげよう。
【ディープシーコースター】
我がテーマパークが誇るジェットコースターの一つですが、なんと言っても売りは『深海の中を駆け巡る』、です。
とはいっても、そこまで速いと深海の景色を楽しめませんので、飽くまで低速走行。本来陽光さえ届かぬ暗黒世界ですが、コースターから生物達の負荷にならぬ光が放たれるので、バッチリと神秘を眺められます。
水圧? 空気? そんなものは魔法の力でちょちょいのちょいです。
リュウグウノツカイやチョウチンアンコウなどのメジャーどころは勿論の事、深海に隠れ潜む魔物達を探すのも楽しみの一つですよ。
――と、いうパンフレットの説明通り、僕らはディープシーコースターを楽しむ。
一気に落下する様に高速で海へ潜るコースター。
程なくして深海約七千メートルまで辿り着くと、そこからはいくつもあるコースからランダムに選ばれたコースの上をゆっくり進行。
ボンヤリ深海を照らす優しい光の奥では、深海に沈む謎の建築物や朽ちた豪華客船がチラリと覗けたり、運が良ければ人魚や絶滅したと思われていた恐竜も見る事が出来たり。
さすが人気アトラクショントップ50に選ばれるだけはある。
因みに、僕はVIPなので当然行列に並ぶなんてせず優先して先頭に入れて貰えた。
「はぁ……海の景色だけではなく可愛いお魚さん達や、見た事も無い人型のトカゲさん達……海は神秘で一杯です……!」
「随分と海にハマったね。満足してくれた様で何より」
さて、次は――女の子になって貰おう。
【楽しいお化け屋敷――初級――】
我がテーマパークが誇るお化け屋敷の一つですが、初級と言えども侮れませんよ。
気絶だけならまだいい方で、中には精神崩壊させる方もいる程の恐怖を体験出来ます。
屋敷の内容は数百あるパターンからランダムに選ばれ、例えば『鬼ごっこ』。
迷路のような館から手紙を数枚集め謎を解いて脱出という内容ですが、貴方の視界の端にはつねに謎の無表情長身男が様子を伺っていて……?
他にも『かくれんぼ』、『はないちもんめ』、『デスゲーム』、『散歩』、『無限ループ』と、凡ゆるホラーが貴方を待っています。
出演する幽霊、異形の方々もヤラセ一切なし。
まるで夢の中の様に思うように走れず焦るしかない、そんな理不尽な世界に、あえて飛び込んで見ませんか……?
無事脱出、出来るとは限りませんが。
――と、いうパンフレットの説明を通り、僕らはお化け屋敷を楽しむ。
順番が来たので入り口をくぐると、その先には一つのエレベーターの扉。
まるで僕らを待っていたように扉が開く。
乗り込むと、エレベーターは勝手に一〇階のスイッチを点灯させ、上り始めた。
あるのは無機質な上昇音だけ。
目的の階に着き、扉が開く。
その一寸先は闇で、とても降りる気になれない。
扉は閉まり、今度は六階のスイッチが点灯した。
ここで僕はこのホラーの内容を察する。
有名な都市伝説で『手順通りにエレベーターを動かせれば異世界に行ける』というアレが元ネタだろう。
と、すると。次の階からは、【一人の女性】が乗り込んで来る筈で……、……。
「……はぁ。乗り込んで来た女性の正体! 最後に辿り着いた表示に無い謎の階! その先に広がるカラフルで住人の笑顔溢れる世界! 楽しい謎解き! 面白いアトラクションでしたねぇ」
「もー、少しは怖がってヨォ。今の世界は精神崩壊者も多いヤツだったってのに、普通に楽しんじゃってさ」
女の子っぽい悲鳴も期待したのに。やっぱり感覚が普通の若者じゃないな。
だからって、この先の中級や上級遊ばせたら流石にこの子泣いちゃう。
アレは本人の『トラウマを追体験』するような中身だし。
「ハッハッハッ……次は!? 次はどこに行きましょう!?」
「散歩前の犬みたいに舌出してハシャイジャッテ、落ち着いて」
やはりというか。
現代に生まれ現代の常識を培って来た現代人ならばこれだけ『異常』塗れなアトラクション、常識を覆されて驚愕しかないが……
龍湖は現代に生まれながら『生まれた環境』によって常識を殆ど知らず、だからこんな子供みたいな新鮮な反応になる。
街にも行けず本にも漫画にも触れられずな生活だった。
この子にとっての日常は、この世界では非日常なのだ。
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