10.海へ行った日のこと

 海へ行った日のことを覚えている。

 神谷と朝倉さんと佳孝と美奈と僕とで行った、夏休みの思い出。

 その日、僕は恋人を神谷に奪われた。朝倉さんは真実を隠し、佳孝は目を逸らした。美奈は泣いていた。けれどあの涙は自分や僕の為のものなんかじゃなくて、心の振り幅が大きくなっていることに対して泣いていたんだと、今の僕なら分かる。どうして美奈が神谷なんかに心を揺り動かされてしまったのかも、朝倉さんが真実を隠した理由も、佳孝が何もしなかったことも、今の僕になら分かる――。




 生温かい優しさだけが、愛情じゃないんだ。

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