第21話「はい! 焼肉がいいっす!」
「──それでは皆々様、本日は我が輩、錫色れんがの3Dお披露目配信にお越しいただき、誠にありがとうございました」
私は
「どうぞ今後も錫色れんがをごひいきに。ありがとうございました。──ではまた! 良いお年を!」
私は紳士然とした振る舞いから一転、おどけてお正月でもないのに年末の挨拶をして大きく手を振る。そして数秒後、モニターから錫色れんがの姿が消えた。
私はそれを見て、機材のところにいる世田谷さんに視線をうつす。
そこには両手で頭上に大きく丸をつくる世田谷さんの姿があった。
「くぅ〜……終わっ──たぁ〜」
私はひとつ大きく伸びをしてから息をはき
配信時間約1時間。さすがに動きっぱなしで
「お疲れ様、和泉ちゃん。とてもよかったわよ。──はい、お茶どうぞ」
世田谷さんは
そして今、私がもっとも欲しい物を差し出してくれた。
「ありがとうございます。いや〜楽しくてしょうがなかったです」
私は世田谷さんの言葉とお茶にお礼を言う。
そしてお茶を受け取りフタを開け、ゴクゴクと飲みノドを、そして身体を
「──はぁ……生き返る……」
私は息をはく。疲労と渇いた身体にお茶は効果てきめんだ。
「先輩! お疲れ様でした! いや〜めちゃくちゃよかっ──ぐふっ!!」
「覚えてろよっ!」
私は世田谷さんの隣で何かしゃべろうとした要の右脇腹に、手刀突きをお見舞いしてやった。私を騙した恨み今はらさん。お茶パワーを喰らうがよい。
「和泉ちゃん、本当にごめんなさいね。私が要ちゃんを止めるべきだったのに、慌てたわよね。ごめんなさい」
世田谷さんは配信開始時の件で私に謝り頭を下げる。
「いえそんな、謝らないでください。要が無理言ったんだってわかってますから。世田谷さんのせいじゃないですから」
「そうっすよ社長! 社長のせいじゃないっす!」
「要は反省して」
「え? なにを──って、わかってますって。ジョーダンっすよジョーダン。反省してますって」
一度はすっとぼけようとした要だが、私の手刀突きの構えを見てサッと世田谷さんの後ろに隠れる。世田谷さんは、そんな私と要のじゃれあいを見て笑いをこぼす。
「お詫びというわけではないけれど、今日の夜は私がごちそうするわ。労いと和泉ちゃんのこれからを祝してね。──なにが食べたいかしら?」
「はい! 焼肉がいいっす!」
「いやいやなんで要が答えるのさ。流れ的に私に聞いてるでしょ」
私は早い者勝ちと言わんばかりに元気に手をあげた要を制す。
ずいぶんと主張が激しいけど、本当に反省しているのだろうか?
「そうよ要ちゃん。今日の主役は和泉ちゃんだから、要ちゃんのお願いはまた今度ね」
世田谷さんは「めっ」と、まるでいたずらをした子供を叱るように、要に人差し指を立てる。
食べたいものか…。動きまわったからお腹はすいてるし、がっつりでもいいな。とんかつ……いや、ステーキもありか。こってり中華もいいな。うーん、どうしたものか……。
私は決めあぐねて要をちらりと見る。
要は口パクで「や・き・に・く、や・き・に・く」と私に無言のアピールをしてくる。
「……焼肉でお願いします」
「よっしゃ! マジっすか! さすが先輩!」
要は私の言葉にぱんとひとつ手を打ち喜ぶ。
「いいの和泉ちゃん? ふふ、優しいのね。わかったわ。それじゃあ後片付けして、焼肉食べに行きましょう」
「おーーー!!」
要は拳を突き上げ世田谷さんへの同意を示す。
そしていそいそと後片付けを開始する。
私も世田谷さんに指示をあおぎ、自分に出来ることをする。
焼肉か、久しぶりだ。まずはハラミからいこうかな。そしてホルモン。タンをはさんでまたハラミ。そして──おっと、いかんいかん。片付け片付け。
私は焼肉に心を奪われつつ、後片付けにはげむのだった。
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