チャンネル登録者数13人の底辺配信者の私が、後輩に誘われて所属メンバー全員チャンネル登録者数100万人超えの大人気Vチューバーグループの一員に!?
第15話「アイドルになりたかったからに決まってるじゃないの!」
第15話「アイドルになりたかったからに決まってるじゃないの!」
「はい、お待たせしました。これで全部出来ました」
私は料理を終え、最後の品をテーブルに置き腰をおろす。
「おぉ〜いい匂い〜。なになに? 焼うどん?」
二葉さんは早速お箸を手にとり、食べようとにじり寄ってくる。
「はい。青ネギと油揚げの焼うどん──いなり焼うどんです」
私は簡単に料理の説明をする。
濃縮昆布つゆにお酢を少し混ぜた調味料で味付けをして、さっぱり感を足したこの焼きうどんは、私の得意料理のひとつだ。
「なるほど! じゃあいただきま〜す」
二葉さんはちゅうちょなくお皿を手に取り、焼うどんを食べ始める。
「どうですか? お口にあいますか?」
「んふふふふふふ〜」
二葉さんはもぐもぐしながら満面の笑みを浮かべる。
よかった、どうやら口に合ったようだ。
「あんまり配信始まる前に食べ過ぎないでくださいよ。──って、なんかもう結構色々減ってますね……」
私は焼うどんをもぐもぐする二葉さんを軽く静止しつつ、テーブルの料理に目をやった。どうやら作ったそばから、二葉さんはちょいちょいつまんでいたようで、割と料理が減っている。まあ出来立てを食べてもらった方が、嬉しいは嬉しいんだけどね。
「和泉」
「え?」
テーブルの上の料理を見ていた私は、急にいい声で名前を呼ばれて、声がした方を見る。するとそこには真剣な顔で私を見つめる二葉さんがいた。
「和泉──結婚しよう」
「ええっ!?」
二葉さんは私と目が合うと、再びいい声で私の名前を呼び、そしてプロポーズをしてきた。
「いやいやいや、急にどうしたんですか?」
私は真剣な顔でおかしなことを言いだした二葉さんに問う。
「だって〜こんなに美味しいご飯作ってくれるんだもん〜。それってもうプロポーズじゃ〜ん。だから私もプロポーズしたの〜」
二葉さんは真剣な顔から、先ほどまでのニヤけたへべれけ顔に戻り、ふにゃふにゃしながらよくわからないことを言いだした。
その理論でいくと、私は要と弥生にもプロポーズしたことになってしまうのだが。
「とまあ、冗談はさておき。実際ほんとに全部美味しい。オサケ、ススム、オサケ、ススム」
二葉さんは最後なぜかロボっぽくなり、グラスに入った日本酒をぐいっとあおる。そして空になったグラスに日本酒をドボドボとそそぎさらに飲む。
「──はぁ〜…………ダメだ。このままではまずい。酔っ払ってしまう。──和泉ちゃん! なんか! なんかしゃべって!」
二葉さんはまたしてもよくわからないことを言いだした。
「ええっ!? な、なんかってなんですかなんかって?」
「なんでも! なんでもいいから! しゃべって気をまぎらわせないと、私このままじゃ酔っ払っちゃう!」
「いやもう酔っ払って──」
「いいから! 細かいことはいいから!」
私は二葉さんの急な無茶振りに慌てる。
なにかしゃべってって言われても……あ、そうだ。
「二葉さんは、なんでVチューバーになろうと思ったんですか?」
私はこの間、弥生にもした質問を二葉さんにもしてみることにした。
「ん〜? 私がVチューバーになろうと思った理由? そりゃあもちろん! アイドルになりたかったからに決まってるじゃないの!」
二葉さんは私の質問に気合十分、拳をグッと握り答えてくれた。
「私、中学生のころからアイドル目指してがんばってたの。歌も踊りもたくさん練習して、とにかく全速前進アイドル一直線って感じだったのよ」
二葉さんはそう言うと立ち上がり、ステップを踏み身振り手振りを加えて踊りだす。それなりの量のお酒をすでに飲んでいるはずなのに、その踊りにはキレがあった。
だがさすがに動くと酔いで目が回るのか、「うぃっ」と短くうめいたあと、踊りをやめ腰をおろした。
「うっぷす……。で、こんな感じで日々がんばってたんだけど、全っ──然人気でなかったのよ! 参っちゃうわ! わはははははは!……はぁ〜〜」
二葉さんは高笑いしたあとため息をつき、しょんぼりとうなだれる。
そして日本酒をグビリと1口。
「まあそんなこんなで、売れないアイドル活動は二十歳でやめたわ。人間、夢ばかり追ってたら食べていけないもの。悲しいけれど。それで大学卒業後は、今勤めてるお洋服屋さんに就職したの」
二葉さんは顔をあげ、目を細めてそのころのことを思い出すかのように、遠くを見る。
「でも就職してから半年くらいして、Vチューバーのことを知って『これだ!』って思ったの。食べていけないなんて理由をつけて、諦めたフリしてたけど、やっぱり諦めきれなかったのよ」
二葉さんは困ったような顔でやれやれと肩をすくめる。
「それでいろんな事務所のオーディションに応募したわ。そしてあっちこっちのオーディションに落ちて、唯一拾ってくれたのがカラフルだったの」
二葉さんは両手をすり合わせて「感謝感謝」と口にする。
「それでVチューバーになって活動始めたんだんだけど、もう全っ───然人気でなかったわ。アイドル目指してたころの二の舞よ! てやんでいちくしょう!」
二葉さんは日本酒をあおり、グビグビと一気に飲み干す。
えぇ……しゃべって気をまぎらわせないと酔っ払っちゃうって言ったのに……。しゃべっててもすごい飲むじゃないですか……。
「それでもうあれよ。活動始めてから半年くらいして、ちょうどその時お仕事も上手くいってなかったから、毎晩やけ酒してて、『人気もでないし、もうどうにでもなーれー』って酔ったまま配信しちゃったの。──で、その結果があの“大炎上”」
「大炎上──あの“泥酔配信事件“ですね」
「ザッツライッ! それそれ!」
二葉さんは大正解とでもいうように、テンション高く両手の人差し指で私をビシッと指し示す。
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