第14話「一緒NI! 晩酌配信DAZE!」

「うぇ〜〜い、いずみちゃ〜〜〜ん」

「わっ!? ちょ、危ないですよ、二葉さん」


 台所で料理をしている私は、いきなり後ろから抱きしめられて驚いた。

 私は一度料理の手を止め、肩にアゴを乗せしなだれかかるように抱きつく品川二葉しながわふたばさんを引きはがす。


「ええ〜いけず〜いずみちゃんのいけず〜」

 

 二葉さんはイヤイヤするように身体を揺らす。

 するとクリーム色の髪もふわふわと揺れ動く。


「いけずじゃないです。料理中ですから抱きつかないでください。危ないですから」


 私は駄々をこねる二葉さんに注意する。

 どうやらすでに、だいぶできあがっているみたいだ。

 

 まあできあがっているのは、二葉さんの家に来て初めましてしたあと、品川さんと呼んだら「ヤダヤダ〜二葉って呼んでくれなきゃヤダヤダ〜」って言われた時点で察してはいたのだが。


「というか、配信前にそんなに飲んで大丈夫なんですか?」

 私はへべれけ状態の二葉さんに問いかける。


「大丈夫大丈夫! いつものことだから! うわっはっはっはっはっ!」

 

 二葉さんは両手の親指を上げて私に向けたあと、腰に両手をあてて自慢げに笑ってみせる。はたしてそれは大丈夫なんだろうか? 

 

 私のそんな疑問をよそに、二葉さんは鼻歌混じりにテーブルに戻り、お酒を片手に今日のコラボ配信の準備を再開する。


 そう、今日私は、私にとって2回目となるコラボ配信を行う。

 そのお相手が二葉さん──カラフルのメンバーで私の先輩である、Vチューバー“白百合しらゆりきなり”さんだ。


 白百合きなり。チャンネル名は『きなりの酒場』。

 白いふわふわのボブパーマヘアに、ぴょんと立った立派な2本のうさ耳。

 かわいらしくも活発な見た目と雰囲気はまさにアイドル。


 だがその配信スタイルはアイドルとは真逆。

 

 お酒とおつまみを片手にゲームや雑談を行い、ころころと変わる喜怒哀楽から生み出されるマシンガントーク。そしてコメント欄との丁々発止ちょうちょうはっしのやりとりで、そこはまさに笑いの殿堂。

 

 だが最初からこのような配信をしていたわけではない。

 デビュー当初は見た目通り、アイドルのような清楚な配信を行なっていた。

 だが“炎上”をきっかけに、チャンネル名と配信スタイルががらりと変わったのだ。


 そんな白百合きなりさんと私がコラボ配信をするに至った理由。

 それは1週間前のタムッターでのやりとりがきっかけだ。


◇◇◇◇◇◇◇


「……読みにくい」

 

 私は日課である、寝る前のタムッターでの感想チェックのさなか、今日の配信後の私のつぶやきに、先輩である白百合きなりさんからコメントがきていることに気がついた。

 だがそれは、漢字とひらがなとローマ字が入り混じっており、とてつもなく読みにくい。


『お疲れさまだZE後輩! きなりMO! 後輩NO手料理! 食べたいZeeeEeEeeEっと!』


「……なるほど」

 

 私は目をしぱしぱさせながら、きなりさんからの怪文書を解読する。

 とりあえず私の手料理が食べたいらしい。

 

 私の料理の腕前は、弥生が私とのコラボ配信のあと、自分の配信で「れんがちゃんの手料理美味しかった」と語ったことがきっかけで、周知されたようである。


『ありがとだZE先輩! もちのRON! ごちそうしますZE!』

 

 私はきなりさんの怪文書をまねて、漢字とひらがなとローマ字を混ぜてコメントを返した。


『読みにくいZE! でも言質WOとったZE! 一緒NI! 晩酌配信DAZE!』

 

 きなりさんは私からの怪文書を読みにくいといいつつ、自らも怪文書で返してきた。そしてそれを解読した結果、なぜか一緒に配信をする流れになっているようだった。

 

 あれれ〜おかしいぞ〜? ごちそうするとは言ったけど、一緒に配信するとは言ってないぞ〜?──なんて思ってはみるけど、コラボ配信のお誘いは素直に嬉しい。


『あんまり飲めないけDO! お願いしますだZE! 先輩!』

 私は引き続き怪文書で返事をし、きなりさんとのコラボ配信が決定するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇



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