第9話 出ない答え
今日は曇っているのか、東側から差し込む日差しがいつもより優しい。
部屋に設置してあるエアコンは設定温度に到達しているからか、いつもよりも出力を抑えた運転をしているようだ。
僕はベッドの上にちょこんと座り、大きなあくびをした。
(う〜ん、眠い。最近、眠い日が多い気がする。)
そう言って、再び大きなあくびをした。
目頭に溜まった涙を右手で擦った。ついでに舐めた手で顔全体も綺麗に洗う。
夜はしっかり寝ている。それなのに昼寝を何回もしている。このだらけきった体にムチ打ちたいと思いながらも、睡眠の誘惑に勝てないでいる自分が少し情けない。
隣を見ると、唯がスヤスヤと寝ていた。
最近はちゃんと大学に行っており、笑顔も多くなった。一緒にいられない事が多いのは寂しいが、徐々に元気になっていく唯を見て嬉しく思う。
やはり友達の力というのは偉大だ。飼い猫である僕は一緒にいてあげることはできても、言葉をかけてあげることや、一緒に悲しんであげることはできない。
気持ちよさそうに寝ている唯。起きる気配は全くない。
唯が寝返りをうって、こちらを向いた。
何だか僕も眠くなってきた。
僕は唯の顔の前に丸くなると、自慢の尻尾に顎を乗せた。
途端に目の前が白くなり、意識が薄れていく、どこかに引きずり込まれるような感覚に身を委ねた。睡眠をとるという感覚はこういうものであったのかと、疑問を持ちながら。
唯の「ただいま。」という言葉で我に返った。
頭が少し痛い。
ここは何処?
唯の部屋だということは分かる。
私は誰?
いや、そうじゃなくて。
南側のテラス戸のレースカーテンは、日の光で赤い色に染まっていた。
「あぁ、お腹空いちゃった。おだんごちゃんもお腹空いてるよね。今から夕飯作るから待っててね。」
今は・・・夕方か?
唯はリビングのローテーブルの上に郵便物を置くと、足早にキッチンに入っていった。
一日中寝ていたということか?全く目を覚まさずに?
テラス戸から風が吹き込んで、僕の頬を撫でる。生暖かい風だ。
見ると、テラス戸が丁度猫が通れるぐらいに開いていた。
唯が帰ってきてから、誰もテラス戸には近づいていない。扉は唯が開けてでかけたのだろうか?
何故か嫌な感じがして、左手でテラス戸を閉めた。
唯は夕飯に炭水化物をあまり食べない。今日のメニューはゆで卵を乗せた山盛りのコブサラダと、ヨーグルト。
相変わらず食べる量は少ないが、以前のように食欲がないという感じではない。スタイルを維持するために意図的に量を減らしているといった感じた。
「おだんごちゃんは、こっちね。」
ローテーブルの横に僕の皿を置きながら、唯が言った。
お皿を覗き込むと、案の定カリカリ飯が入っていた。
唯の方を覗き見ると、コブサラダを美味しそうに頬張った所だった。
う、羨ましい。
カリカリ飯に慣れてきたと言っても、やはり人間のご飯の味は忘れられない。ポテチを出せとは言わないが、たまには唯と同じものが食べたいと思ってしまう。
ゆで卵をパクリ。
レタスをパクリ。
アボカドと千切りした人参を一緒にパクリ。
あぁ、美味しそうだ。
羨ましい。
僕は口いっぱいに溜まったツバを飲み込んだ。
カリカリ飯を見た。一気に食欲が減退する。
「はぁ〜。」
盛大な溜息をつく。
僕ではなく、唯がだ。
見ると、唯は手に封筒を三通持っていた。開封はしていない。
コブサラダを食べていたフォークをくわえたまま、しばらく封筒を眺めていたがそのままローテーブルの上に置いた。
それぞれの封筒には、あまり知られていない企業の名前が書いてあった。いずれの企業もクリーンエネルギーを扱っているようだ。
ここ数日、唯には何通もの封書が届いている。
毎日のように履歴書とエントリーシートを書いて企業に送っているのを、僕は見ている。
しかし、ほとんどの企業は書類審査で落とされ、たまに面接まで進んだとしても良い結果には結びついていない。
研究職志望の唯にとって、就職とはとてつもなく狭い門であるのだ。
コブサラダとヨーグルトを完食した唯は、食器を洗うためにキッチンに移動した。
唯がローテーブルに置いた封筒を僕は確認した。いずれも薄い封筒で、中身が紙一枚であることは明らかだ。
それは、不合格通知であることを意味していた。
何とか助けてあげたいが、こればかりは僕が何とかできる問題では無かった。企業との巡り合わせを祈るしかないのだ。
僕はカリカリ飯を口に入れた。
唯を心配するので精一杯だからなのか、不味いとは感じなかった。
東側から差し込む朝日は、昨日とはうって変わって強いものだった。
僕は日課のストレッチを行い、大きなあくびをした。
いつも通り僕専用のトイレで用を足し、昨日のうちに唯が準備しておいてくれた水を飲む。
目ヤニが付いているのか、目頭が少し痒い。
こういうときは、舐めた前足で少し強めに目を擦ると綺麗に取れることを僕は知っている。
顔が綺麗になったら、肩、脇の下、太もも、足先、尻尾と順番に舐め、毛づくろいをしていく。
こういう日々の手入れが、僕の艷やかな毛を形作っていくのだ。
僕は一通りの朝の日課を済ませると、唯を起こしにかかった。
低血圧の唯を起こすのは骨が折れることを、僕は知っている。
まずは耳元で優しく囁いてみた。
もちろん効果はない。
布団を被って、徹底抗戦の構えだ。
仕方がないので、布団からちょっとだけ出ているほっぺたに、肉球を押し付けてフミフミしてみる。
くすぐったそうに唯が笑っている。ちょっと気持ち良さそうだ。
今度は耳を舐めてみる。
ザラザラの僕の舌は、さぞかし不快な事だろう。
「おだんごちゃん、もうちょっと寝かせてよ。」
寝ぼけているとは思えないような鋭さで、唯の両手が飛んできた。
僕の体は一瞬で唯にホールドされた。レスリングの試合だったら、このままではポイントを奪われてしまう事だろう。。
僕は精一杯体を入れ替えようと手足に力を入れるが、努力虚しく唯の腕の中に抱えられてしまった。
格闘技において体重差というのは、大きな武器になると聞いたことがあるが、まさに身を持って思い知らされた感じた。
まあ、唯に抱きしめられていると思えば、幸せな時間なので、このまま唯が起きるのを待つというのも選択肢の一つなのだが。
あぁ、シャンプーの良い匂いがする。
同じものを使っているのに、どうして男と女では匂いが違うのだろうか?寝起きの男のニオイなんてかげたもんじゃないぞ。
そんなことを悠長に考えていたら、唯の上腕が僕の首にあたってきた。
ちょ、ちょっと!唯さん?!苦しいんですけど!
僕は精一杯、唯の腕の中でもがいた。このままでは昇天してしまう。
「ごめんごめん、おだんごちゃん苦しかった?」
(ゴメンじゃないよ!一瞬、目の前が真っ白になったよ!)
僕は抗議の声を上げるが、唯は上体を起こしながら笑っている。
しかし次の瞬間、リビングのゴミ箱の方を向き表情を曇らせた。ゴミ箱には昨日届いた三通の封筒が入っている。封を開けた形跡は無い。
「さてと、朝ごはん作ろっか。」
不自然なほど明るい声で、唯が言う。逆にその姿が痛々しい。
キッチンに立つ唯の姿を見ていたら、僕のお腹が大きな音で鳴った。こんな時に不謹慎かと言われるかもしれないが、どんなことをしていてもお腹はすくものなので、仕方がない。
僕の今日の朝ごはんは「白身魚MIX」。MIXと書かれているが、元々淡白な味の白身魚同士を混ぜても、大して味は変わらない気がするのだが・・・。
朝ごはんを食べると、唯は着替えてどこかにでかけていった。
ひとりになった僕は、すぐにテラス戸を開けて外に出た。特にやることがあるわけではないが、部屋にいてもヒマなので、雨が降っていない日は外に出ることにしている。
いつも通り、ベランダの手すりを通り非常階段に降りる。そのまま階段を降りて、坂を登れば大学。下れば駅方面だ。
今日は特に大学に用事があるわけではないので、坂を下り駅方面に向かうことにした。
途中の空き地でミケ達と会うのも良いし、駅前まで行って散策するのも面白そうだ。
最近では、夕方になると駅前のピロティにストリートミュージシャンがいるらしい。
こんな田舎の駅前で歌わないで、もっと人通りの多いところで歌えば良いのにと思ってしまうが、人には人の都合があるのであろう。あえて口を出す事でもない。
(あ、兄貴〜!何してるんスか?)
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にかいつもの空き地に着いていた。
クロが跳ねるように走りながら寄ってきた。
最初はギクシャクしていたが、今ではクロとミケは良好な関係を築けているようだった。
不器用ながらも一生懸命世話を焼くミケと、全く言うことを聞かないクロ。傍から見ていると本当の親子のようだ。
ミケはいつもの高台で大きなあくびをしている。クロから開放されて、一休みといったところか。
(おだんごさん、こんにちは。)
草の影からミシュランが顔を出して言った。
僕は挨拶がてら、ミシュランの顔に自分の顔を擦り付ける。ミシュランは気持ち良さそうに目を閉じている。
このアメリカナイズな挨拶は、いつになっても慣れることができない。
(兄貴、昨日はどこに行ったんですか?)
突然、クロから尋ねてきた。
(昨日?)
僕は復唱する。
昨日は確か・・・目覚めたら唯があまりにも気持ち良さそうに寝ていたから、横で丸くなって二度寝して、気付いたら夕方だった。
(クロ、聞いて驚け!昨日は二度寝したら夕方まで寝てたんだよ。すごくないか?一度も起きなかったんだぞ!)
僕は無意味に胸を張って答えた。
その言葉を聞き、クロが首を傾げた。
(兄貴、昨日空き地の前を歩いてましたよね?僕が大きな声で読んでも、そのまま行っちゃったじゃないですか?)
今度は僕が首を傾げる番だ。
クロはどちらかというと悪ガキの部類に入るが、嘘をつくような子ではない。そもそも、そんな嘘をつくメリットが見当たらない。
クロはミシュランの方を見たが、ミシュランはその現場にいたわけではないらしく、分からないようだった。
クロはまだ子猫だから、きっと記憶力が成長しきっていない時期なのだろう。
(あ、おだんごさん!来てたんですね。)
そう言って近づいてきたのは三ツ星だ。
三ツ星の方から僕に近づいて、頬を擦り寄せてきた。
う〜ん、何だか恥ずかしい。
(何してたんですか?)
三ツ星はいつでも僕に興味津々だ。
(別に何もしてないよ。クロとミシュランと世間話をしてただけだよ。)
(そうですか、ちょうど良かった。近くにヒマワリを植えてる家があるんですが、綺麗に咲いているですよ。一緒に見に行きませんか?)
三ツ星はそう言うと、ミシュランと僕の間に割って入った。
み、三ツ星さん?それはヤバくないですか?
ミシュランは目を伏せ耐えているが、今にも怒りが爆発しそうだ。毛が生えているので見えないが、きっと額には太い血管が浮き出ている事だろう。
(三ツ星。いきなり横から出てきて、それはないでしょう?おだんごさんは、私達とお話をしてる最中なの。分かる?)
ミシュランが静かに言った。
静かな中にフツフツと煮えたぎる物が見え隠れして、余計に怖い。
横にいるクロも、どうしたものかと僕の方を見る。
いや、見られても困ります。こういった経験が無いもので、どうしたら良いのかさっぱり分かりません。
(おだんごさんも、オバサンの相手よりも若い子と遊びたいって言うと思いますよ。)
三ツ星さん!それ言っちゃう?!
っていうか、頼むから僕を巻き込まないで!
(三ツ星!大人しく聞いていれば、言いたいこと言ってくれたわね!)
ミシュランの毛が逆立つ。格闘漫画でよくあるような怒りのオーラが、背後に現れているような錯覚を覚える。
これは修羅場ってやつですか?
修羅場っていうのは、悪いことをした男に降りかかってくるものなんじゃないんですか?
人間の時には経験が無かったけど、モテるっていうのも大変なんだな。
ふと、唯はモテていたなと思い出した。
大学の文化祭が終わった。
サークルに属していない僕は、特にやる事もなく、何の気なしに催し物を回っているだけだった。
高校までの文化祭は、クラスの出し物に強制的に参加させられて、正直迷惑だと思っていたが、大学のように自分から行動しなければ何かを得られないような場所に身を置いて初めて、その「迷惑さ」という物が心地よかったのであったと気付かされる。
来年からはどこかのサークルにでも入って、少しは自主的に参加しようと思った。
「涼太は、この後の講義は何?」
隣を歩く唯が僕に尋ねる。
最近、唯は僕と行動することが多くなっていた。
学際でのミスコンで準ミスに選ばれてしまった事によって、大学内で有名になった唯は何かと「お誘い」と受けることが多く、僕はその露払いに任命された訳だ。
先日も、テニスサークルの人からしつこく飲みに誘われたらしく、断るのが大変だったと言っていた。
そもそも唯が決まった彼氏を作らないのが問題だと僕は思う。僕と違って、唯はモテるのだから、その気になれば彼氏のひとりやふたりすぐに出来るはずだ。そういう話題になるたびに「良い人がいない。」などと贅沢なことを言っている。
「こ、ば、や、し、さん。」
講堂の横を歩いていたら、男が話しかけてきた。
僕よりも頭ひとつ分は大きな、筋肉質な男だ。オレンジのTシャツから覗かせる上腕の筋肉がスポーツマンのそれだと主張している。それでいて清潔感の漂う装いから、汗臭さは感じられない。軽く茶色に染めた短髪が小さめの顔にやけに似合っている。
顔は見たことがある気がするが、誰だったかは思い出せない。
「え~と、ごめんなさい。どなたでしたっけ?」
唯が戸惑いながら尋ねた。
「え~、ひどいな。隣のクラスの荒木。覚えてないの?」
隣のクラスの奴なんか知るか?!一学年何人いると思っているんだよ。
「まあ、いいや。これから覚えてくれれば。」
構わず続ける荒木。
「折角だからさ、これからどこか行かない?」
何が「折角」なんだ?
「ごめんなさい。今、高橋くんと一緒にいるから。」
唯が丁寧に断る。こんな奴テキトーにあしらっちゃえば良いのにと思う。
「高橋?あぁ、高橋くんね。ごめんごめん、気が付かなかったよ。」
そんな訳あるか!!
「いいじゃん、こんな奴。一緒にいても面白くないでしょ?」
こいつ失礼な奴だな!
唯も早く断れよ!
無性にイライラした。この荒木とか言う奴とは仲良くできそうもない。
僕はふたりを一瞥すると、唯を置いて歩き出した。
「あ、涼太。待ってよ。」
唯が荒木に頭を下げて、こちらに走ってきた。
「涼太、どうしたの?」
「別に、何でもないよ!」
自然と語尾が荒くなる。
何、唯に当たっているんだ。そもそも、ああいう誘いが多くて困っているから、僕が露払いになっているんじゃないか。僕がしっかりしていれば、あいつだって話しかけてこなかったはずだ。
「誘われるのが嫌なら、早く彼氏でも作っちゃえよ!そうすれば男だって寄ってこないだろ?」
思っている事と違う内容が、口から出て止まらない。
「良い人がいないって言うけど、本当は誘われるのが嬉しいだけじゃないの?」
違う!こんな事を言いたいんじゃない。
「涼太はそう思ってたんだ。」
唯の悲しそうな顔で、自分のしたことの重大さに気づく。
「いままで一緒にいてくれてありがとう。もう良いわ、後は自分で何とかするから。」
違う・・・そうじゃないんだ。
本当に言いたいことは、そう言うことじゃなくて・・・。
ゴメンって・・・頼りなくて、ゴメンって・・・。
そうだ。去っていく唯の肩に手をかけて・・・強引に振り向かせて・・・。
・・・。
唯は行ってしまった。
出しかけた右手が宙を泳ぐ。本当は今すぐ追いかけるべきなのだろうが、足が動かなかった。
追いかけたところで何をすれば良いのかが、分からなかった。
そうだ。あれは僕達がまだ付き合う前の出来事だ。
僕は思い出しながら、自分の不甲斐なさに苦笑する。
確かあの後、僕は少ない女友達のひとりに相談して、こっぴどく怒られた記憶んだ。
(おだんごの兄貴、これどうするんです?笑ってないで何とかしてくださいよ。)
いつの間にか隣に来たミケが、ため息混じりに言ってきた。
目の前には毛を逆立てた二匹のメス猫が、睨み合っていた。
どちらかが(この、泥棒猫が!)なんて台詞を言ってくれたら面白いのになどと、思わず不謹慎なことを思ってしまう。
二匹の猫が、時計回りに回りながら間合いを詰める。
ミシュランが口を開いた。
(この、泥棒猫が!)
ホントに言ったよ。
牙を剥くミシュランの顔は、まるで般若のようだ。
さっきまでの威勢はどこに行ったのか、三ツ星はすでに逃げ腰だった。
分かってはいたが、相手が悪かったとしか言いようがない。ミシュランの顔には余裕の笑みさえ伺える。
(はい、そこまで。)
見るに見かねて、僕は間に入った。
(ちょっと!おだんごさん、止めないで!こういう奴には立場ってものを、ちゃんと教えてあげないとならないのよ!)
そう言われた三ツ星は、少し小さくなって僕の後ろに隠れている。
なぜこんな勝ち目のない戦いを挑んだのだろうかと、疑問を持たずにはいられない。
(それで、おだんごの兄貴はどちらを選ぶんですか?)
喧嘩中はおとなしくしていたミケが急に話しかけてきた。さすがのミケもメス同士の喧嘩の仲裁に入る勇気は無かったと思われる。
(選ぶって、どういうこと?)
(どういうことって言うか、そろそろ子供を作る季節ですよ。普通はオス同士で争うんですが、おだんごの兄貴が選んだ相手には誰も手は出しませんので。)
ミケが、当たり前のことのように言った。いや、猫にとっては当たり前なのかもしれない。しかし、話が急すぎる。
みんなの視線が僕に集中する。特にミシュランと三ツ星の視線が痛い。
な、何ですか?この流れは・・・。
(あ、そういえば、急用を思いついたので帰ります。)
僕は急いで空き地を後にした。
もちろん急用などある訳もなく、僕は唯の部屋への帰路についた。
今日は帰ったら、そのまま部屋の中でゆっくりしていた方が良さそうだと、僕は思った。
結婚か・・・。
本来、大学生の僕には結婚というものが遠い先の話だと思っていた。もちろん、唯との結婚を考えたことが無かったわけではないが、卒業や就職を経て、一人前になってからだと考えていた。
しかし、野生生物は子孫を残すことが最優先だ。そのための争い事など日常茶飯事なのであろう。
二匹は仲直りできるのであろうか?
人間と違って「よくある事」で、済ませてくれることを願うしかない。
僕は唯とはどうやって仲直りをしたのであろうか。
不器用僕が、簡単に関係を修復できたとも思えない。
友達に助けを求めたのだろうか?手紙やプレゼントを送るとは思えないが、謝るというのも少し違う気がする。
しかも、文化祭のすぐ後ぐらいから、僕と唯は付き合いだしているのだ。仲直りした後に、僕と唯の間に何かがあったと考えるのが妥当だ。
また思い出せない・・・大切な思い出のはずなのに。
頭の左側が少し痛い。早く帰って休むとしよう。
僕はマンションの階段を上がると、手すりを通って唯の部屋のベランダに降りた。
テラス戸を開け、部屋の中に入る。
唯の姿は無い。
今朝、唯が持っていったバックがある事から、一回部屋に戻ってきたことは分かる。買い物でも行ったのであろうか。
ローテーブルの上には、無造作に薄い封筒が二通置いてあった。
封を開けた形跡はない。
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