四章 神叡者

第23話

 経綸界オイコノミアに産み落とされた錯誤神サクラスは、まず下方に渦巻く渾沌カオスから物質を生み出したが、これは叡智ソフィアの残した欲動パトスによる力であった。次に叡智ソフィア思慕エンテュメシスによって、無数の贋天使アルコーンを生み出した。贋天使アルコーン境界ホロスを構成する惑星天、恒星天、黄道十二宮に置かれ、下方の物質界の支配者となった。経綸界オイコノミアの全体は超世界プレローマの似像であったが、錯誤神サクラスは自らの力だけで世界の創造を成し遂げたと思い上がり、贋天使アルコーンの群れに高らかに宣言した。「私こそは妬む神である。私の他に神はない」。

 この言葉を聞いた母胎者メトロパトゥルは激昂し、物質界の水面に映じて自らの姿を啓示した。錯誤神サクラス贋天使アルコーン超世界プレローマの神々の存在に驚愕し、天使アイオーンの像を真似て最初の人間、アダムを造り出した。叡智ソフィアの本質の残滓ざんしたる理性に輝くアダムは錯誤神サクラスの嫉妬を買い、物質界の底部であるエデンの園に幽閉された。アダムを救うべく母胎者メトロパトゥルが差し向けた独り子アウトゲネスは、それを待ち受けていた錯誤神サクラスにその姿を模倣された。こうして生まれたエヴァの肉体に独り子アウトゲネスが降り立つと、その美しさのあまり錯誤神サクラスは欲情し、アダムを逃したエヴァを陵辱した。だが、すでに独り子アウトゲネスの霊は超世界プレローマへと帰昇しており、錯誤神サクラスはエヴァの肉体のみと交わったのである。

 贋天使アルコーンたちは独り子アウトゲネスの霊を模倣した霊を造り出し、アダムとエヴァの肉体に植えつけた。模倣の霊は二人に性欲を喚起させ、悪しき交接に駆り立てた。こうして錯誤神サクラスの欲望に経綸された人々は、幻影的な肉体を性欲のうちに増殖させ続け、地に満ち満ちていったのである。


              『聖書ケノボスキオン』所収「楽園の喪失と模像との合一」より

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