問答、拒絶

学校へ着き、吉崎達と少し雑談をしてから、それぞれのクラスへと別れた。


「・・・・・・?」


教室に入るやいなや、なにやら妙な視線が集まってきた。

一瞬告白の件か?と思ったが、田無は周りに言いふらすような子ではない。

クラスも違うしな。


「・・・・・・なんなんだ一体?」


そんな俺の独り言に応えるヤツは居なかった。





昼休み。

朝に感じた妙な視線も、この頃にはほぼ無くなっていた。

結局なんだったのだろうか?などと考えつつ、いつもの場所に向かうため、弁当を持って席を立とうとしたその時――


「やぁ、姫川優希くんは居るかな?」


教室の入口に麗が現れた。


「なっ・・・・・・!」


なぜここに?と、俺が混乱している間に、机の横まで近付いて来ていた。


「じゃあ、お昼に行こうか」


「・・・・・・は?なんでだよ」


「ボクが一緒に食べたいから」


ほら、と腕を掴まれて無理やり立たされる。

相変わらず、細い見た目のくせに馬鹿力だ。


「ちょ・・・・・・!待っ・・・・・・!」


「良い場所を知ってるんだ、そこに行こう」


あれよあれよという間に、俺は教室から連れ出されてしまった。

腕を引かれながら廊下を歩いていると、教室の方からどよめきが聞こえてくる。

あぁ、また面倒な事になるな、と気分が沈むのを感じた。





麗に連れてこられたのは、校舎の端の端に存在する空き教室だった。

入り口のプレートも外されており、元々なんの為に在ったのかも分からない。


「ここ、鍵が壊れててね・・・・・・こうやってドアを押しながら少し揺すると・・・・・・ほらね」


慣れた手つきで解錠する麗、・・・・・・これは解錠といって良いのだろうか?


「・・・・・・これ、バレたら怒られるんじゃねーの?」


「そうだね」


「俺を巻き込むなよ」


「その時は、ボクに無理やり連れ込まれたって言えばいいじゃないか」


それはそれで、別の理由で怒られそうな気がするのだが・・・・・・。


「さて、それじゃお昼にしよっか?」


「待て」


ウキウキと弁当を広げ始めた麗を制止した。

言われた通り律儀に待つ所も、なんだか気に障る。


「なにかな?ボク、今日は特にお腹が空いてるんだ。体育もあったからね」


「・・・・・・どういうつもりだ?」


「どういうって・・・・・・、一緒にお昼を」


「急に俺の前に現れるようになったのは、どういうつもりだって聞いてんだよ!」


とぼけてはぐらかすような答えに苛立ち、思わず大きな声が出てしまう。

しかし、怒鳴られた当人は、全く気にしていないような、むしろ楽しむように微笑んでいる。


「昨日言ったでしょ?ボクが付いてるからね、って」


「答えになってねぇよ!」


「じゃあ逆に聞くけど、どんな答えなら満足するの?」


「・・・・・・あ?」


「キミが入学してからずっと機会を伺っていたとか?それとも、昨日久しぶりに会ってテンションが上がったから?もしかしたら、キミが気付いていなかっただけで、ずっとキミの近くに居たとか?」


捲し立てるように並べてきた"答え"に、思わず狼狽えてしまう。

全てが嘘のようにも聞こえるが、全てが真実のような気もした。

そんな不思議な迫力、のようなものを感じる。


「どう?納得したかな?」


「・・・・・・質問を変える。何が目的だ」


「キミとまた仲良くしたいんだよ」


「そうか、無理だ。諦めてくれ」


すげなく断る俺に対し、肩を竦めてやれやれ・・・・・・とばかりにわざとらしい溜め息を吐く。

これが吉崎達とのやり取りだったら、俺は笑いながらふざけあっている事だろう。

だが、コイツは時任麗なのだ。


「もう一度言うぞ、俺はお前と仲良くするつもりはない。もっと言うと、一切関わりたくもない」


「うーん、困ったなぁ・・・・・・」


「・・・・・・っ!ふざけるのも大概に・・・・・・!」


どこまでも人を馬鹿にしたような態度を続ける麗に、再び大きな怒鳴り声を上げそうになる。

が、それは呆気なく遮られた。


「・・・・・・!!!」


「・・・・・・・・・・・・ぷはぁ」


彼女の唇によって――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る