友情、視線

朝、目覚めは最悪だった。

昨日は結局、麗の視線から逃げるように走って帰り、そのまま布団に潜って眠った。

夕飯を抜いたというのに空腹感はなく、それよりも、失恋した悲しさと、掘り起こされた劣等感の方が辛かった。


「あー、ダル・・・・・・」


いっそ休んでしまおうかとも考えたが、そうすると田無が自分を責めてしまうだろうと思い直し、ゆるゆるとした動きでシャワーを浴びに向かう。

世は並べて事も無し。

俺がフラれようが、いけ好かない幼馴染と再会しようが、世界は今日も平常運転で始まったようだ。





「ウーッス!姫川!」


「おはよー、ゆうきくん」


ぼけーっと学校へ向かっていると、見知った顔が二つ現れた。


「おー、吉崎よしざき白河しらかわか、おはよう」


吉崎弘樹よしざきひろき白河美佳しらかわみか、中学から付き合いのある友人達で、俺と田無を含めた四人でよくつるんでいる。

高校に入学して二ヶ月ほど経った今も、この関係は変わらず続いていた。


「で、昨日のそのー・・・・・・アレは・・・・・・」


「みゆちゃんへの告白どうだった?」


「お、おい・・・・・・!もっとオブラートに・・・・・・」


「んー、だめだった」


「「マジかー・・・・・・!!」」


あまりに息ぴったりな二人に、思わず声を出して笑ってしまう。

そんな俺の姿を見て、二人はホッとした様子だった。

どうやら、結構気にしてくれていたらしい。


「まぁ、でもだめだったかー!」


「みゆちゃん、脈アリそうだと思ったんだけどなぁ。・・・・・・だめな理由、聞いた?」


どこまでも明け透けな白河に、お前にはデリカシーってもんがないのか!と怒る吉崎、普通逆なんじゃないか?と思いつつも、彼ららしくて微笑ましい。


「好きなヤツがいるんだとさ」


「お、おうふ・・・・・・」


「あー・・・・・・それはゆうきくんドンマイだねぇ・・・・・・」


「まぁ、生理的に無理、とかじゃないだけマシだろ」


なんて茶化しておどけてみるが、二人の視線は気遣わしげなものになる。

しまった、すべったか。


「・・・・・・まぁ、しばらくギクシャクするかもしれんが、ちゃんと吹っ切れるようにするから、二人ともよろしく頼む」


姿勢を整え、頭を下げる。

田無とは、先程メッセージのやりとりをして、直ぐには無理でも、これまで通り接して欲しいとお願いし、了承して貰った。


「やめろよ・・・・・・、今更そんな仲でもないだろ」


「そだよー、みゆちゃんもゆうきくんも、ウチらの友達なのはずっと変わんないよ」


「ん、ありがとな」


友人達の優しさに触れ、起きてからずっと残っていた気だるさが、少しだけ和らいだ気がした。





そこからは、いつもの様にバカ話をしながら通学路を進んでいく。

基本的には吉崎が、自分のナンパ失敗談を面白おかしく熱弁してくれるだけなのだが。


「そこで俺の渾身の土下座が!・・・・・・ん?」


「・・・・・・どうした吉崎?」


「オチてないよ、ひろき?」


「いや・・・・・・、なんかあの人、ずっとこっち見てないか?」


ほら、と指さした方を見て、一瞬息が止まったようか気がした。

こちらを、もっと言うと俺をジッと見て、薄く笑う麗が居た。


「あ、時任先輩じゃん!すごー!」


「え?有名な人なん?」


「女子の間じゃ有名だよ!めっちゃイケメンで、めっちゃ優しい王子様って!」


「いや王子様って、スカート穿いてるけど・・・・・・?」


「そういう細かい所気にするからモテないんだよ、ひろき・・・・・・」


「うるせぇ!」


ギャーギャーと言い合う二人の声が、近くの筈なのにやけに遠く感じる。

入学してから昨日までの二ヶ月弱、こんな風に遭遇する事なんて一度も無かったはずだ。

それなのに、昨日の今日で偶然?・・・・・・ありえない。


「・・・・・・もう行こうぜ、遅刻するぞ」


「お、おう」


「ゆうきくん・・・・・・?」


困惑する二人を半ば強引に引っ張るように、俺は学校へと急ぐ。

その背中に、麗の視線を感じながら。

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