再会、不快

屋上で頭を整理する。

田無には、ちょっとだけ独りになりたいから、と伝えて先に帰ってもらった。

フッてしまった気まずさからか、特になにも聞かずに立ち去ってくれた。


「はぁ・・・・・・」


溜め息の理由は、フラれた事が原因ではない。

いや、ちょっとはあるが、それ所ではなくなってしまった。


時任ときとうれい・・・・・・」


思わず声に出してしまう。

独り言にも満たない、溜め息の延長みたいな声。

そのまま屋上の風に溶けて消えるだけの声、だったはずなのに。


「呼んだかな?」


背中側から応えが返ってきた。


「・・・・・・何でいるんだよ」


「ボクもここの生徒だからね?そりゃいるよ」


振り返らずに返すと、減らず口を叩いてくる。

顔を見ずとも解る、今も薄らと胡散臭い笑みを浮かべているのだろう。

昔からその顔が嫌いだった。


「タイミングが良すぎるんだよ。どっから見てた?」


「うーん、キミが前髪を気にしてイジイジしていた辺りからかな?」


「告白より前じゃねーか!どこ居たんだよ!」


「キミより一年先輩だからね、色んな特等席を知っているのさ」


思わず振り返ると、ふふん、と得意げに薄い胸を張る麗の姿が目に入る。

薄茶色のショートボブ、意思の強そうな切れ長の目、スっとした鼻筋に薄い唇。

久しぶりに近くでツラを拝んだが、女のくせに相変わらずのイケメンっぷりだった。

もはや嫉妬するのもアホらしい。


「はぁ」


「・・・・・・人の顔を見て溜め息とは、いくらボク達の仲とはいえ失礼じゃないかな?」


拗ねたような声で苦言を呈して来るが、そんなご大層な仲とやらになった憶えはない。


「やっと切れたと思ってた腐れ縁が、まだ辛うじて残ってた事への溜め息だ。別にオマエの顔に今更不満なんざねぇよ」


「キミはボクの顔が大好きだからね」


「・・・・・・気が変わった。お前の顔が不愉快だ」


「やれやれ、照れ屋な幼馴染を持つと苦労するなぁ」


「・・・・・・けっ」


幼馴染。

そう、幼馴染なのだ。

このいけ好かない、時任麗とかいう性別詐欺なイケメン女は、物心がつくよりも前からの付き合いだ。

中学で離れたからと安心していたが、高校の入学式で在校生の中に姿を見つけた時は、思わず自分の運命を呪った。


「久しぶりの対面だっていうのに、素っ気ないなぁ・・・・・・。さすがのボクだって傷付いちゃうよ?」


「おーおー、傷付いてそのまんまどっか行ってくれよ。俺は独りになりたいんだ、ほっといてくれ」


視線を外して空を見上げ、会話はここで終わりだ、と態度で示す。

好きな人の好きな人、ってだけで気まずいのに、そいつが昔からの知り合いなのは、流石に堪える。

しかもそれがコイツともなると――


「・・・・・・ボクが、傷心のキミを置いて行ける訳ないだろ?」


先程までの軽い調子とは打って変わった、吐き捨てるような声。

思わず顔を見るが、そこには変わらず胡散臭い笑みが貼り付いていた。


「フラれたんだね」


「あぁ」


「"また"ボクのせいなんだね」


「・・・・・・あぁ」


「そっかぁ」


苦々しく歪んでいく俺の顔とは対照的に、麗の顔はニコニコと無邪気な笑顔で満たされていく。

俺を見下しているのだろうか、コイツはいつもそうだった。


「慰めてあげようか?」


大好きだったスポーツも。


「それとも、代わりの女の子でも紹介しようか?」


大好きだったゲームも。


「あぁ、そんな顔しなくても大丈夫」


・・・・・・大好きだった女の子も。

ぜんぶ、ぜんぶ、コイツが後から掻っ攫っていった。



「今日からはまたボクが付いてるからね」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る