王子様♀が俺を離してくれないお話

たかなにし

告白、失恋

決戦、舞台は屋上、時は放課後。

慣れないワックスで髪型をキメ、少しお高めのフレグランスを身に纏う。

気負い過ぎな気もするが、なんせ二年越しの恋心の集大成なのだ、後顧の憂いとやらは断っておきたい。


優希ゆうきくん、話ってなに、かな?」


少し緊張したような声。

目の前にいる彼女も、普段とは違う俺の様子に、これからの展開をなんとなく察しているようだ。


そう、俺こと姫川優希ひめかわゆうきはこれから、目の前にいる田無美雪たなしみゆきに告白する。


「田無」


「・・・・・・はい」


ここ一週間、シミュレーションは毎晩欠かさず行ってきた。

布団の中で何度も何度もだ。

分の悪い賭けでは無い、と思う。

彼女からの信頼も日頃から感じていたし、全く意識されていないという事もないはずだ。

一度だけ、大きく深呼吸をして。


「・・・・・・もう、気付いてるかもしれないが、ずっと好きだった!もし良ければ、俺と付き合ってくれ!」


「・・・・・・!」


飾らず、ストレートな気持ちを伝えると、田無の身体が小さく震えた。

突然過ぎただろうか、とも思ったがどうしても素直に伝えたかった。


「・・・・・・ごめん、なさい」


返ってきたのは、そんな絞り出すような声だった。


「・・・・・・・・・・・・・・・そうか」


「優希くんの事は、尊敬してるし、仲良くしたいと思ってる。でも、私、好きな人が居るの・・・・・・。だから、ごめんなさい」


今にも泣き出しそうな声で、そう伝えてくれる彼女に、思わず笑みがこぼれる。

あぁ、こんな時にも俺の事を気遣ってくれているんだな、と。


「謝らないでくれよ。ちゃんと向き合って応えてくれて、嬉しかったよ。ありがとな!」


「・・・・・・うん」


悲しくないと言えば嘘になるし、悔しくて叫び出したい気分だ。

その好きな人とやらに文句を言って、ぶん殴って、絶対に幸せにしろよ、と言ってやりたい。

だが、そんな気持ちは努めて隠す。


「その、好きな人って、誰か聞いてもいいかな?」


「え・・・・・・?」


「あぁ、いや、俺に出来る事があれば、協力するからさ」


「そ、そんなの、悪いよ・・・・・・!」


半ば、見栄と意地のみで提案したのだが、そりゃ断られるよなぁ、と思い直す。

フッた相手にサポート役を任せるなんて、気まず過ぎるもんな。


「それに、叶わないって知ってるから」


「・・・・・・そんなスゴいヤツなのか?」


「うん・・・・・・本当に素敵な人なんだ」


そう言った彼女の顔は、今まで俺が見た事のない表情を浮かべていた。

悔し過ぎて、今なら血の涙が出せそうだ。

お前の勝ちだ、と名も知らぬ誰かさんに白旗をあげる。


「・・・・・・はぁ、田無がそんなに夢中になっちまうなんてなぁ!なんだか俺も会いたくなっちまったよ」


「む、むちゅ・・・・・・!?いや、そんなんじゃなくて・・・・・・!」


「ははは!照れんなって。他校のヤツなのか?」


努めて明るく振る舞うのは、フラれたくらいでこの関係までなかった事にしたくないからだ。

それくらい、田無と過ごす日常は手放し難いものだった。


「ううん。実はね、この学校の先輩なの」


「・・・・・・へー」


だから、少しだけ感じたイヤな予感ってやつに、気付かないフリをした。


「私たちとは別の中学だったから、優希くんは知らないと思うんだけどね?よく、部活の大会とか合宿で会ってたんだぁ」


「・・・・・・ソフトテニス部の?」


「そうそう!」


まさか、いやそんな偶然ある訳ないだろ。

頭の中では、同じ問答がグルグルとループしている。


「・・・・・・その先輩ってさ」


「うん?」


「もしかして・・・・・・女?」


田無は、ちょっとだけ気まずそうな顔をしてから、小さく頷いた。


「あぁいや、性別がどうのこうのって話じゃないんだ!ちょっと、気になる事があってな?」


「気になる・・・・・・?」


もしも、"そう"なのだとしたら、これはもうちょっとしたホラーだ。

ありえない、と言い切るには、少し材料が多くなってきた。


「その先輩の名前って・・・・・・」


「あぁ、うん」


違ってくれたら嬉しかった。

全部俺の勘違いなら、忘れていたはずの劣等感も思い出さずに済んだのだろう。

だけど――


時任麗ときとうれい先輩、っていうんだ」


過去ってやつは、どこまでも俺を追い掛けてくるらしい。

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