百三十七の城
一度は通った曲輪だが、相変わらず
やっぱり一度通った道でも以前とは見方が変わって一度目とは違う感じ方が出来るのだ。
だから二度でも三度でも同じお城を登城することには意味があることなのだなあと感じる。
このU字の先端部分が高石垣の櫓台に当たる場所に位置していた。
石段の曲がり角の部分に櫓が置かれていたであろうスペースが設けられていてそこにベンチが1つ置かれていた。
櫓台から見下ろすと小さくて少し傾いているようにも見える櫓門が私達の目の前に現れる。
「あれってさっき私達が見た・・・」
「
あゆみ先輩が私の言葉を先読みして答える。
私達が下から見上げた高石垣の上部って岡口門がとにかく小さく思えるくらいの高さがあったのだ。
「結構小さいですね。」
私はそのまんまの感想を述べる。
「もともと小さいとは言え、上から見ると岡口門がミニチュアみたいに小さく見えるなんて、この櫓台がどれだけ高い場所かが分かるわね。いま改めて下に降りて石垣を眺めると、この高さまで美しさを保ちながら、綺麗に勾配を作って高く積み上げる技術をより感慨深く見ることが出来るけどやってみる?」
先輩はほんの少し眼鏡の奥の目をキラキラさせながら私に訪ねてきた。
多分先輩1人だったら絶対に一度降りて石垣を眺めてそれからまた石段を登るんだなあと思ったが、流石に私には出来ないなと思って
「流石に辞めときます。」
と少しはにかんで答えた。
「うーん、とても感動するのだけれど・・・」
先輩はそう言ってとても残念そうに呟いた。
「あそこの部分だけポコっと小さく凹んで
訪ちゃんはそう言って指差した。
高石垣の下に岡口門の置かれた南の丸と高石垣に登るための石段がある御蔵の丸を仕切る石垣で狭い通路を形成している。
その通路に小さく凹んだ空間を作るために門が置かれていたのだ。
「気づかないことが多いのだけれど、和歌山城は要所では枡形を上手く用いて防御に活用しているのよ。ここの石垣の真下の中門部分も枡形になっているのよ。」
先輩がそうやって石垣の縁で中門の真下を指差した。
「じゃあ門が二枚四角を作るように並んでいたんですか?」
私は枡形と言えば大阪城や明石城のように正面に高麗門があって二枚目の門が櫓門と言う形式の枡形しか見たことが無かったので和歌山城もそうなんだろうなと言う単純な事を頭に思い浮かべてそう言ったのだがどうやら違うようだった。
「和歌山城は中門一枚で枡形を作っていたのよ。どう言えば良いのかしら。門が二枚なくても空間自体が枡形だったら枡形なのよ。石垣と石垣の間に中門があったと想定して、中門を攻撃しようと思ったら広場から凹みになっている狭い空間に侵入しないといけないでしょ。でも侵入したら私達のいる場所に置かれていた二重櫓から攻撃されてしまうわ。そう言う防御空間を枡形と言うのよ。」
「じゃあ門二枚なくても枡形なんですね。」
二枚の門で四角の空間を作るのが枡形だと思っていた私にとっては何だが新鮮な気がした。
お城の構造は複雑なのだ。
それにしても見晴らしの良い場所だ。
ここの高石垣は眺望がかなり良くって和歌山の東側と南側がぐるっと見渡せる位置に置かれていた。
訪ちゃんは
「見通しのええ場所やな、防御に最適やわ。」
と楽しんでいるようだった。
「あそこに見える山があるでしょ?」
先輩は眺望を楽しんでいる訪ちゃんの横で遠くの山を指差した。
「あの山は
「じゃあずっと静岡の人だったんですね。お祖父ちゃん元気かなあ・・・」
私はとんでもなく話に関係のない部分でお祖父ちゃんを懐かしむ。
「城下さんみたいな感覚をこの場所で同じように頼宣も楽しんでいたのよ。」
お祖父ちゃんを懐かしんでいただけなのだが・・・
徳川頼宣もここにあった櫓でお父さんを懐かしんでいたのだろうか?
「徳川頼宣は正面に見える紀州富士を見晴らしのいいこの場所にあった櫓の内部で眺めながら昔を懐かしんだと言う話があるのよ。」
お城のお殿様もホームシックにかかる時があったんだ。
確かに長く成人するまでおなじ場所に生まれ育ったのならそうなるのかもしれないな。
お殿様だって人なんだしな・・・
私は先輩の何気ない言葉に歴史上の人もやっぱり人間だったんだなあと感じさせられて、なんとなく徳川頼宣と言う人のことを少しだけ親しげに感じるのだ。
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