百三十五の城
「あんた達こんな時間になるまでじっくりと見学して本当に飽きないわね。それともあゆみのおしゃべりが止まらないのかしら。」
先生はそう言って伏虎のように高飛車な顔で私達にそう言った。
「そらウチラはそのためにお城に来てるんやし。全く勉強もせんと遊んでたら部活の意味がないやろ。」
「と言っても普通1時間で済むところを3時間近くよく飽きないものね。まあ勉強してくれるならなんだって良いんだけどね。ただ遊び呆けるよりは・・・」
先生はそういってフリスケのパイン味を口の中に3粒放り込む。
「今気づいたんですけど・・・今日はパイン味なんですね。」
あゆみ先輩が先生の持つフリスケの黄色いパッケージを見てそう言った。
いつも用意しているフリスケの桃味はピンクのパッケージだが今日は黄色い南国色のパッケージだった。ちなみにチョコミント味は茶色と緑の斑模様の毒々しいパッケージで見た目にも気持ち悪い。
先生は先輩の問いかけにチャッと格好良くフリスケのパッケージを取り出す。
パッケージには大きくフリスケと言う文字と横に可愛くパインの絵が書いていた。
「そうよ、普段は糖分豊富な桃味だけど今日は程よい酸味も楽しめるパイン味なの。」
先生は黄色いパッケージをなぜだか自慢気に先輩に見せつける。
「フリスケの味変ですね。」
目の前に差し出されたパッケージを見て先輩はそう言った。
「味変って食べてる途中で同じ味が飽きるから途中調味料で味に変化を加えることとちゃうんか?」
先輩の味変という言葉に違和感を感じて訪ちゃんがそう言うと先輩はう~んと少し考えてから
「でも先生は毎日桃味ばっかり食べてるんだからやっぱり味変よ。」
とそう言って1人先輩は納得する。
訪ちゃんは先輩の言葉に首を傾げて
「ホンマにそんな意味なんやろか・・・」
と独り事を言っていた。
「ところで先生、偶然タイミングが良すぎるとは言えよくこの伏虎像の前にいましたね。」
「私はむしろあんたたちがそろそろ天守から出てくるものだと思ってちょっとばかしお城を歩いてから連絡するつもりだったのよ。大手門を潜って伏虎像の前に来るといっつもこの不遜な顔が気になって見てしまうのよね。」
先生はそう言ってなんとなく虎の顔真似をしてみる。
「全然似てないわ!」
訪ちゃんがそれにツッコミを入れると先輩はクスクスと笑う、先生もそれを見て楽しそうに笑った。
訪ちゃんは先生の虎の顔真似が似てないと言っていたが私はなんとなく似ていると実は思っていたが、今それを言うと微妙な雰囲気になりそうで私は何も言わなかった・・・
だけど気心知れた人達の会話がとんでもなく気持ちの良いものなのだという事を私は肌で感じる。
こんな事感じるのも伏虎の不遜な顔のお陰かな・・・
私はなんとなくそんな風にしみじみと感じていると先生が横から
「この伏虎像、実は昔は伏せてなかったのよ。」
との何気ない言葉に「えっ!」と私は咄嗟に声に出して驚いていた。
「城下さん、伏虎像が立っていたことに興味深げね。」
私の驚く顔に先生は話した甲斐があったと思ったのか少し嬉しそうだ。
「先生、城下さんは極度の猫科好きなんです。」
先輩は小さく手を上げて先生に教える。
先輩の言葉に訪ちゃんはさっき私が清正流の高石垣のところで取り乱した姿を思い出したのかクスクスと笑っていた。
「へえ、まあ猫が嫌いな人間のほうが珍しいけど・・・それにしても石像にまで極度の興味を示すとは変な娘ね。」
先生はからかい混じりにそう言った。
「いやいや!だって伏せてるから伏虎像なんですよ。座ってたら座虎像、立ってたら立虎像でしょ。」
私は自分が何を言ってるのか分からな無いがとにかくわけのわからない理屈を捏ねてみる。
先生は私の意味のわからない言葉を楽しんでいるようだった。
「あはは・・・確かにね。なんで立たせたのかわからないけど立ってたらしいわよ。虎だから作った人が雄々しく作ったのかもしれないわね。でもこの二代目は天守の建つ若山の俗称の虎伏山と言う名称に合わせて伏させたのよ。」
二代目は山の俗称に合わせて伏せさせたのか・・・
二代目のなんとなくヌーンとした雰囲気の像も私は好きだが、初代の虎もなんとなく見てみたい気がする。
「初代の虎は戦争中の金属不足で軍に供出されたのよ。この虎は石像だけど初代は銅製だったから砲弾の薬莢にされたのだと思うわ。」
先輩が先生の横から顔を出して教えてくれた。
物資の少ない時代だったから少しでも金属がほしいところ、立虎像も戦争の波には勝てなかったのだ。
「伏虎の方は出来る限り長くここでお城を見守ってほしいものね。」
先輩がしんみりとそう言うものだから私には伏虎の顔がなんとなく寂しそうに見える。
今は戦争のない世の中なんだから100年でも200年でも出来る限り長く、二代目の虎はお城とともに過ごしてほしい、私も先輩と同じように心の中でそう願うのだ。
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