百三十三の城
あゆみ先輩のヒートアップにより話が大きく逸れてしまったが私達は二の丸御殿跡で大阪城と和歌山城とのつながりについて教えてもらっていた。
「えーっ、どこまで話したかしら・・・」
「確か大阪鎮台が出来たところやったかな?」
訪ちゃんは話の内容をなんとか思い出して先輩に伝えると先輩も
「そうそう」
と手を打つ。
「明治維新後に大阪城には大阪鎮台が創設されて陸軍の用地になるのだけれど、拠点としようとしていた本丸に建物が無いから新たに建てようという話になったのよ。」
「けどそれって大阪鎮台が本丸に建物建てようって言うだけの話であんまり和歌山城とは関係がないんとちゃうん?」
たしかにその通りだ。
陸軍が建物を大阪城に建物を建てようが建てまいが和歌山城とは全く関係のない話だ。
それが和歌山城に飛び火する理由が解らない。
「そうよね。だけど大阪は一度は首都にと目された事もある日本の要の地、天皇陛下が大阪鎮台に視察のための幾度も御行幸される事は明らかよ。そのための行在所が半端な建物だと許されないわ。そんな時におあつらえ向きの建物が隣の県にあったのよ。」
そこまで聞いて訪ちゃんはハッとしたように二の丸御殿を見回した。
「この広い場所にあった御殿をそのまま大阪城の本丸に移転したっていうんか!?」
訪ちゃんは驚いたようにそう言った。
先輩はパチパチと手を叩いて訪ちゃんが正解したことを褒め称える。
「その通り!和歌山城の二の丸がすっかりと広場になってしまったのは和歌山城の二の丸御殿を大阪城に移転したからなのよ。」
こんなに広い場所にあった御殿を移転ってどうやって移転したんだろう。
私はそっちのほうが不思議だった。
分解したのか?曳家だったのか?
曳家で和歌山から大阪までの道のりを運び続けれるわけがないし、大阪城の桜門はおろか和歌山城の大手門すらくぐれないだろう。
そう考えると当然分解して運んだのだろうけど、それをそっくり大阪城の本丸内部に作り上げるなんて物凄いと私は思うのだ。
「二の丸御殿は徳川御三家の藩主が居住していた立派な建物よ。今は焼けてしまってその姿や内部を知る事はできないけど、それは素晴らしい意匠を施して造られていたでしょうね・・・当然明治天皇が御行幸なさった時にご宿泊される行在所となるに相応しい建物と言えるわ。大阪鎮台はその紀州御殿を一部庁舎にして大阪城に入ることになったの。」
先輩もそう言って広い御殿跡を見渡した。
「それにしてもこの広さにあった御殿をまるごと移動するなんてホンマにすごいな。」
「そうだよね・・・とんでもないよ。」
私も訪ちゃんの意見には同意だ。
しかも二の丸御殿はとても複雑な作りをしていたに違いない。
だって明石城のアプリに再現されていた御殿だって物凄く広くて複雑な作りだったし。
「確かにね。でも明石城の巽櫓と坤櫓も移築してきたのよ。当時建物の移築は意外にも多かったのよ。大工もそう言う仕事に慣れていたのかもしれないわね。」
大工さんの腕は確かに昔のほうが感覚や手先の技術に左右されそうだし凄そうだ。
昔はそう言う移築なんかは簡単に出来たのかもしれないな。
私はふんわりとそう納得した。
「二の丸御殿は大阪の市民にも暖かく迎え入れられて紀州の地から来たことから紀州御殿と言われるようになったわ。」
先輩がそこまで言うと訪ちゃんは小さく「そっか」と呟いた。
「紀州御殿って和歌山城の二の丸御殿やったんか・・・確かに和歌山から移転されてきてその後焼けたとは聞いたけど明治維新後の話やってんな。」
紀州御殿のことは訪ちゃんも全く聞いたことがない話では無かったのだ。
「その後、大阪鎮台は師団になるに伴って昭和6年に洋風の大阪第4師団司令部庁舎、現在のミライザを紀州御殿の目の前に建設して紀州御殿は庁舎としての役割を追えて天臨閣と名称を改称して大阪市の迎賓館として使用されることになるの。」
天皇陛下が行在所とされるような立派な建物だし外交などで外国の首脳などを迎えるには紀州御殿は最適な場所だったのだ。
紀州御殿はその建物の格に相応しい使われ方をし続けてきた。
「でも焼けてしまったんやんな・・・」
大阪城の本丸にはすでに紀州御殿の存在しない。
とんでもなく惜しいけど焼失してしまったのだ。
「紀州御殿は実は戦争も乗り越えたのだけれど・・・惜しいことに連合軍が進駐してきた時にGHQに接収されてそのまま宿舎として使用するのだけれど、失火によって焼失してしまうのよ・・・」
とにかく大阪城は火災とは切っても切れない縁を持っているようだ。
いくら木造の建物とは言え大阪城な歴史上何度も失火に悩まされている。
大阪城は天守も含めてその他の施設も何度も火災によって燃えてきた。
大阪の市民の願いは大阪城が二度と焼けないことだった。
殆どの建物が焼失して失われたのだから当然だ。
大阪城が火災を避けるようにコンクリートで再建されたのは当然の帰結だったのだ・・・
その願いかなって戦争になっても燃えずに天守は生き残ったのに今度は肝心の紀州御殿が戦争の惨禍を無事に乗り越えたにも係らず失火によって焼けてしまうなんて・・・なんて悲しい宿命なのだろうか・・・
紀州御殿の事を知って私はとんでもなく悲しい気持ちになる。
「大阪城と和歌山城をつなぐ紀州御殿は焼けてしまって日本の文化を知るに当たって本当に大きな損失だったと思うわ。私も叶うなら過去にタイムトラベルして紀州御殿をこの目に収めてみたいと思うの。だけどかなわない夢よね・・・」
「仕方ないよな・・・」
訪ちゃんは残念そうにそう言った。
「もしも大阪城に紀州御殿が移転しなければ・・・」
誰もが一度は思うことだけど歴史にタラレバはない。
「結果論だし当時はどこも危険だったわ。大阪の中心地で紀州御殿が戦争の惨禍を免れることが出来ただけでも奇跡だったのよ。だけど紀州御殿が失火で失われたのも歴史なの。」
歴史は時に悲しい結果も私達に見せつけてくる。
私達の目の前の広場には和歌山の街から流れてくる風が夏の暑い気温で火照った私達の体を癒やしてくるような気がした。
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