百三十一の城

私が床板に足つぼを刺激されて痛みに耐えているころ先輩と訪ちゃんは御橋廊下から見える天守を楽しんでいた。


数分して痛みもある程度収まると私もゆっくりと立ち上がる。


今考えてもどうしてあんなに力いっぱい意味もなく踏み込んだんだろう・・・


あの時はなんだかすごく元気が良かったのだ。


私が自分のバカさ加減を反省していると先輩がしゃがみ込んでもう一度右足の甲のあたりを見る。


先輩は「よし」と一言小さく口にして立ち上がった。


「城下さん、足元には注意しましょうね。」


先輩はニコリと微笑む。


心配するばっかりじゃなくしっかりと注意もしれくれて先輩は優しいのだ。


1つ違いとはいえやっぱりお姉さんだなあと私は思う・・・いや、訪ちゃんで慣れているのかもしれないなと窓の外を見ている訪ちゃんをちらりと見ると天守に夢中だった。


「ご迷惑をおかけしました。」


「良いのよ。でも、怪我をしたら城下さんが痛みでつまらなくなっちゃうのよ。」


先輩にそう言われると私はただただ恐縮するしか無かった。


先輩に注意されて反省している横で訪ちゃんは窓の外の天守に飽きたのか今度は注意されている私のことを見てクスクス笑っていた。


「そやで、注意せなあかんで。」


訪ちゃんは笑いながら囃し立てる。


ぐぬぬ・・・くやしぃ・・・


「訪もよ、今回は城下さんだったけどあなたの方が不注意が過ぎるんだからね。」


クスクスと笑っていた訪ちゃんも先輩が注意する。


訪ちゃんが先輩に厳しく注意されてるのを見ると私の溜飲も下がるというものだ。


「・・・はい」


訪ちゃんは思いもよらず先輩に注意されてシュンとしてしまった・・・








色々とありすぎた御橋廊下だったが遅々としながらもなんとか橋を渡りきる。


御橋廊下の外は夜中に消していた電灯が突然光ったかのような明るさで私達を迎えてくれる。


「なんか結構長い間御橋廊下の中におったような気がするな。」


訪ちゃんが少し眩しげに目をこする。


確かに太陽を遮る屋根の中から突然陽光のきつい8月の空の下に出ればいくらお昼でも眩しいかもしれない。


地面も光を反射してより眩しさを強調していた。


しかし、西の丸庭園と比べると二の丸御殿跡は本当になにもない空間だ。


御橋廊下の入り口以外には広い空間とお堀の先に広がる和歌山の市街地が目の前に広がるだけだった。


私達はこの広い空間で二の丸御殿の雰囲気をなんとか想像するしか無いのだ。


西の丸御殿跡から御橋廊下を通ってシットリと涼やかな西の丸庭園と言うルートを順路にした人には御橋廊下は本当にタイムトンネルを歩いたような気がするかもしれないなと私は思う。


二の丸跡には御殿の形跡はほとんど存在しないしビルが目の前に見えてどちらかといえば近代的だ。


だけど御橋廊下を一度抜けてしまえばその先には小さな庵を抱えた池とそれを着飾る豪快に石、そして所々に効果的に配置された紅葉や木々が出迎えてくれるのだ。


私には意外に傾斜のきつい御橋廊下、床のギザギザとした作りが足裏を痛くする御橋廊下だけど、本当は私達は現在から過去に移動させてくれるそんな不思議な通路なのだ。

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