百三十の城
私があまりの激痛に絶叫を上げた瞬間、窓の外を見ていたあゆみ先輩があまりの大声に驚いて足を抱えてうずくまる私に駆け寄ってくれた。
「大丈夫!城下さん!」
「うぐぅ~、油断してました・・・」
心配そうに屈んであまりの激痛に目に涙を浮かべる私を先輩は上目遣いで心配そうに見つめる。
先輩がメガネの奥の綺麗な目で私を見つめるものだから私は激痛を忘れそうなくらい恥ずかしくなって顔が赤くなってしまい、私は余計に目を伏せてしまった。
「あっ、ありがとうございます・・・」
「良いのよ、それよりも足に怪我はない?」
先輩が私の右足を見て心配そうにしている。
「だ・・・大丈夫です。」
思いっきり床板の縁の尖った部分を踏みつけた右足は別に捻挫とかをしたわけではないので歩けなくなるようなダメージを受けたわけではないが、いたすぎて痛みが引くまでは動けないだろう。
10分程度時間を貰えれば良いのだ。
「大丈夫なら良いのだけど、天守までは坂道を登らないとだめだから、出来る限り無理はしないでね。」
先輩はそう言って私に優しくしてくれる。
一方で訪ちゃんはゲラゲラと笑いながら私のもとに駆け寄ってくると
「せやから言うたのにぃ、経験者のうちの言葉を聞かんからやで。」
と笑った顔を隠そうともせず私にそう浴びせかけてきた。
流石に私も調子に乗りすぎていたのを分かっていたので訪ちゃんの言葉にはグウの音も出ない。
「はい・・・すみませんでした・・・」
私はただただそう言うしか無かった。
「もう、笑ってる場合じゃないでしょ。」
「そう言うたところでなんにもでけへんからな。今のうちらにできることはさぐみんが痛みを忘れやすいように話しかけて上げるくらいなもんや。」
先輩が嗜めてくれるが、訪ちゃんには効いていない様子だ。
もちろん私が調子に乗って足元を見なかったのが責任なのだが・・・
「本当にあなたって子は・・・」
先輩はため息をつくと私の右足を見つめる。
私の右足は特に何事もなく腫れているわけでもない。
「靴下脱げる?」
私は先輩に頷くと右足の靴下を脱いでみせた。
御橋廊下の小窓からは夏の強い光が内部に取り込まれてキラキラと光っている。
先輩の顔が光に照らされて美人の顔が更に神々しく見えてきて、お嫁さんにするならこう言う人なのだろうなと言う気持ちにさせられた。
先輩は簡単に足の状態を観察する。
私の足は腫れもなく、赤くも青くもない。
何より私自身足首などを捻挫したような痛みも感じておらず。
ただ床板の縁に足つぼを思いっきり刺激されただけなのだ。
「腫れてもないし、色も変わっていないわね。とりあえず外部から状態を見ただけだから本当に痛くて耐えれないという判断はあなた自身が下すのよ。決して我慢とかしないで、痛いならいたいと言ってね。」
先輩は私に諭すようにそう言ってくれた。
今から山を登るのだから無理もない。
多分なんとも無いけれども、なるべく痛みなどは隠さないようにしようと思う。
むしろ隠すことが先輩達を困らせることになるからだ。
「はい、わかりました。」
私は右足を抑えながら先輩に素直にそう答えた。
先輩は頷くと再び立ち上がって小窓の外を見た。
窓の部分には木の太い柵のようなものが取り付けられている。
その奥はかがんでいる私には何も見えなかった。
訪ちゃんは先輩の横に立って窓を覗き込むと「ほお」と声を出した。
訪ちゃんの位置だと何かが見えるのだ。
「この橋からやと結構近くに見えるんやな。天守・・・」
先輩が窓の外をさっきから眺めていたのはそれか・・・
私も見たいという衝動に駆られたが、足裏の痛みのおかげですぐに立つことはできなかった。
「そうなのよ。きっと徳川頼宣も西の丸から二の丸に移動する時は天守を眺めていたはずよ。」
先輩はそう言って楽しげにしていた。
私は二人が羨ましくて
『バカバカバカ床板の馬鹿!』
と心のなかで呪文のように唱えると、洗濯板のようにギザギザに並べられた床板を恨めしげに眺めるのだった。
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